82話 バターロール無双
「じゃあ、リリアちゃんお願いね」
「はい、わかりました」
「えー、スープ、スープはいかがですか? おいしいですよ? パンもあります。パンはいかがですか?」
文字通り看板娘ですな、可愛い。
声につられてではないですが、ジリジリと人々が周囲に集まってきました。
ざわついてますね、貴族の道楽か? とかいうひそひそ話も聞こえます。
「えー、スープ、スープはいかがですか?」
「ひとつくれ。そのパンもだ」
勇者あらわる。
「ありがとうございます」
リリアちゃんのお礼付きの笑顔が可愛い。
私は、スープボウルにスープをよそいます。
パンは一つでいいかな渡します。
「いくらだ?」
「スープは銅貨5枚で、パンは1個鉄貨3枚です」
「パンをもう1つくれ」
「まいどあり、お金はこの子にお願いします」
と言ってエリク君を示します。
「わかった、銅貨5枚と鉄貨6枚だ」
うん、お金渡してくれたね。
「ちょっと待ってくれ、それが銅貨5枚と鉄貨3枚? あり得ないだろう!」
「早くいかなきゃ、売り切れちまうよ!」
「なんでもいい! 次は俺だ」
なんだか、騒がしいですね。
「うめぇっ! なんだこれ!」
一番はじめのお客さんが驚いてますね。
周囲がざわついてます。
「列に並んでくれないと売れませんよー?!」
私は、列を作るように誘導してみます。
ヨーグルトのときも列があったからスムーズに売れたんですよね。
だから、ここでも列を作りますよ。
だいたいのスープの量を計算して。
「本日、20人だけです。早い者勝ちだよー!」
言ってしまいました。
多少あまる計算ですが、なくなるよりはいいですからね。
ワッと屋台の前に人が集まり列になりました。
「リリアちゃん人数を数えて20人だけ並んでもらって、その他の人には帰ってもらうように言ってくれるかなぁ」
「はい!」
後ろのほうで並んでいる人たちからなにか文句を言っている声が聞こえますが、知りません。
はじめから並んでいれば良かっただけのことです。
リリアちゃんが数えていきます。
20人目の人は「よっしゃあ」とか言ってますね。
21人目の人は恨めしそうに並んでいる人たちを見て離れていきます。
「明日も来ますからどうぞよろしくー!」
私は、今日戦いに参戦出来なかった勇者たちに、明日への希望を持たせます。
これでがっかりした人も元気になってくれるかな?
その間もサクサクスープをよそっていきます。
時々BGMで、パンが柔らかいだの、スープがめちゃくちゃ旨いだのという、シャウトが聞こえます。
遠くからは「明日絶対こいよ!」などという脅し文句も聞こえますが……誰ですかパンをここにあるだけ全部とか買い占めようとしました人は。
パンは一人に2個までに制限しました。
スープをよそっているのに、物々交換まで頻繁にしたら私がつぶれます。
なので制限しました。
……。
20人あっという間でした。
早かったですね。
残りはありますね、これを1つよそって、パンを1個つけて。
「これを隣のご主人に渡してきてくれるかな?」
エリク君に頼みます。
エリク君は素早く器を持ち隣に行きます。
「ちょっと! あんた! なにを考えてるんだい?! 余計なことしやがって!!」
向かいの店にいた女性が文句を言ってきます。
無視です。
「ちょっとあんた聞いてるのかい!!!」
激昂してますね。
周りを見渡します。
うん? 幾人かの目と合いましたね。
男性たちが集団になって女性に詰め寄ります。
「ちょっとあんた悪いんだが、帰ってくれないか? あんたの狙いはわかってたんだが、今まではゴローニャファミリーがいたから黙ってたんだが、昨日の夜にゴローニャファミリーは一人残らず殺されて、ファミリーは壊滅したそうだ。他のファミリーもこの一件には関わらないという噂を聞いている。あんたの出番はもうないんだよ。この市場から出て行ってくれるかな」
「えっ?」
「あんたたちはもうおしまいなんだよ。娼館のほうでも上の連中は殺されたと聞いた、あんたも殺されないうちに逃げな」
「……」
顔色を悪くして女性が走り去っていきます。
「いままで力になれなくて悪かったな。スープ旨かった、また、よろしくな」
男性たちが去っていきます。
エリク君に聞かせてあげたほうが良かったのか、聞かせなくて良かったのか、どうにもわからない内容でしたね。
壊滅? 全滅ってことですよね。
誰が? 考えてはいけません。パンドラの箱と同じです。開けないほうがいいんです。
危険すぎます。
秘技、封印。
モブはでしゃばりませんよ。
見ざる、聞かざる、言わざるです。




