36話 流されるモブ
さて、冒険者ギルドに着いた。
クリスさんは?と周りを見ると奥からゆったりと歩いてくるクリスさんを見つけた。
「クリスさん」
「ユキ、今日も可愛いけど、なにか用かな?」
小首を傾げるイケメン。
可愛いすぎてヤバいです。
萌えが発生しますね。
モブでも身悶えするレベルです。
少し離れたほうがいいですね。
あっ、手をとられました。
あっ、あっ、身体が抱き締められて……苦しくはないのですが絶妙な力加減で逃げだせません。
モジモジ、クネクネと身体を動かして逃げようとするのですが、ますます拘束がキツくなります。
やっ、これでは恋人がギュッと抱き締められているみたいです。
周囲の方々に誤解されてしまいます。
離してくださいと、クリスさんの目を見ます。
熱に浮かされたようにクリスさんの瞳が潤んでいます。
色気ー!
色気がダダ漏れです。
モブは冷静に、毅然とした態度をとらなくてはなりません。
モブはモブなりに人生を大切にしているのです。
いくら超絶イケメンだろうと好き勝手は許しません。
アイテムボックスから特級ポーションを取り出します。
それをクリスさんの手の中に押し付けて。
えいっ、えいっ。
クリスさんに特級ポーションを握らせました。
その瞬間、弛んだ腕の中から逃げだします。
セーフ。
危ないところでした。
「特級ポーションです。受け取ってください」
クリスさんが手に持っていた特級ポーションを自分のアイテムボックスに入れます。
それを見て、私もアイテムボックスから次々と特級ポーションを取り出し、クリスさんに渡します。
12本全部渡しました。
「ありがとう、ユキ」
クリスさんがニッコリと笑われ、感謝されます。
美形過ぎて微笑みが宗教画です。
神々しくて、まぶしい。
さて、用事は済みました。
退散するとしましょう。
スルッと腰に手がまわります。
うん、クリスさんの手ですね。
「ユキ、お礼に食事をご馳走したい」
「えっ?」
「ユキの好きなものは何?」
好きなもの、なんだろう?カレーかな。
「カレー?とか?」
「カレーって何?」
うん、この世界にはカレーが多分ないんですよね。
だったらカレーを作ればいいのですが、どうしましょう、どこかキッチンを貸してくれるところはないのでしょうか。
「どこかキッチンを貸してくださるところがあればカレーが作れるのですが」
「ユキ、作れるの?」
「はい、材料も購入すればありますし、あとは作る場所さえあればいいのですが」
「良かったら、私の家に来ませんか?」
「クリスさんの家にですか?」
「はい、私の家にはキッチンもありますし、今からならまだ時間は早いですから、帰りも遅くはならないですしね。勿論、泊まっていってくれてもいいのですよ?」
「泊まりはしませんが、キッチンだけお借りします」
「ユキの手料理楽しみです」
クリスさんにキュッと手を握られ、冒険者ギルドを一緒に出ます。手を握られるのも慣れました。
なんとなく、流されてるなぁ、とモブは警戒します。
 




