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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第2部 第3章 教会本部

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第53話 採用面接

 サミーたちは先を行くオーウェンとカルセドの後に続きながら教会本部の奥へと進んで行った。

 廊下には一定間隔ごとに高そうな絵画や壺が飾られ、途中の広間や階段の踊り場には宗教画を模したらしい大きなステンドグラスが嵌められている。


 装飾品だけでなく人の数もかなり多かったが、すれ違う人々は皆立ち止まりオーウェンたちに深々と頭を下げていた。

 セシルはサミーの後ろに隠れるように歩きながら、両手で抱いているオルレアにこっそり話し掛けた。


「オルレアさん、あの二人ってそんなに偉い人なの?」

「そうですね。なにしろ枢機卿ですから」


 枢機卿。

 先程のカルセドという男もそう呼ばれていたが、セシルにはそれがどれほどの偉さなのか今一つピンと来ない。

 それが顔に出ていたのだろう。オルレアが補足するように言った。


「ざっくりした説明になりますが、イリス神教で一番偉いのは教皇様です。その次に枢機卿、司教、司祭と続きます。例えるなら教皇が国王、枢機卿が大臣、司教が各地方の代表で司祭がその部下という感じでしょうか。だから見習いの私などにとっては枢機卿は雲の上にも等しい存在になります」

「なるほど」


 セシルはその説明を聞いて納得した。

 カルセドと揉め事になっていた時サミーの腰が引けていたように見えたのはそのためか。

 それだけ階級が上の相手なら強く出られないのも当然だろう。


 そんな事を考えている内に、どうやら目的地に着いたらしい。


「空いているようだからここを使わせて貰うとしようか。さあ、入りたまえ」


 言われるままに足を踏み入れると、そこは応接室だった。

 中央に細長いテーブルが置かれ、向かい合うように五つずつ椅子が並んでいる。


 他に目に付くものといえば大きな窓とカーテン、それと客の荷物を置くためらしい部屋の隅の小さな棚だけ。

 シンプルな印象の部屋だが、その代わり全て一目で高価だと分かる物ばかりだった。

 枢機卿二人が片側に並んで座り、それに向かい側にサミーとセシルが席に着く。


「それでは話を――」


 オーウェンが切り出そうとした時、扉がノックされた。


「おや、誰かな」

「私が追い払います」

「まあ待ちなさい。……どなたですか?」


 苛立たし気に腰を浮かせたカルセドをオーウェンは手で制し、扉に声を掛ける。

 するとノブが回り、女性が一人入って来た。


 服装を見るにオーウェンやカルセドと同じ枢機卿だろう。

 年齢は四十くらい、面倒見の良さそうな柔和な笑みを浮かべた恰幅の良い女だった。

 その姿を見てカルセドが驚きの声を上げる。


「ケテル枢機卿、何故こちらに?」

「いえね、ちょっと息抜きをしようと思ったら、面白そうな人がいらしていると聞いたものだから。同席させて頂いても宜しいかしら」


 ケテルと呼ばれたその女性はニコニコしながら答え、それからサミーたちに軽く会釈をした。

 オーウェンが立ち上がり、空いた席の椅子を引く。


「構いませんとも。さあ、どうぞこちらに」

「これはご親切に。それにしても特別な行事でもないのに枢機卿が三人も集まっているのねえ。いっそのこと残りの二人も呼んでこようかしら」

「それも面白そうですな」


 ケテルとオーウェンと和やかに談笑している。

 しかしそれと対照的にサミーは顔中からダラダラと汗をかき始めた。

 ただでさえ枢機卿二人相手に緊張していたところへ、多少は話し易そうとはいえ説得しなければいけない人間が飛び入りで増えたのだからまあ無理もない。


 幸い(?)それ以上は枢機卿が増えることもなく、全員が席に着いたところで話し合いが始まった。

 オルレアは人形だし、セシルは目上の人間との言葉使いなど分からない。

 ここはサミーが頼みの綱である。


「さて、まずは確認をしようか。君たちはここへ悪霊を祓うために来た。それで間違いないかね?」


 オーウェンが穏やかな口調で、しかしやはり目元は笑わずにサミーに問いかける。

 サミーは汗を拭いながら答えた。


「は、はい。我々に任せて頂ければ必ずや祓うことが出来ると考えております」

「ふざけるな! 悪霊など現実にいるわけがないだろう! たかが噂話相手に祓うも糞もあるか!」


 カルセドがテーブルを叩いて怒鳴った。

 するとオーウェンが苦笑いしながら言う


「カルセド君、そんな事を言ってはいかんだろう。我々教会の重要な仕事の一つには悪魔祓いもあるのだよ?」

「それとこれとは話が別です。こんなどこの馬の骨とも分からぬ者どもに助けを請わずとも、私が以前から進言している通り教会の下を調べてみればそれで解決する話ではありませんか!」

「それについては前にも言ったでしょう。噂に惑わされて神聖な施設を破壊したとあってはそれこそ教会の威信に傷を付けることになる。だから穴を開けるなど以ての外だと」


 ケテルが言った。

 しかしカルセドは尚も自分の意見を主張しようとする。


「し、しかしですねケテル殿」

「いい加減にしたまえ。これでは先程の正門でのやり取りと同じではないか。……君のその几帳面さと真っ直ぐな精神は私も買っているところではあるが、少しは柔軟さも覚えて貰わないとな。とりあえず反論はこの客人の話を聞いてからだ。いいね?」

「は、はあ……」


 カルセドはようやく引き下がった。

 オーウェンが溜め息を付きながらサミーに視線を戻す。


「いや、すまなかったね。話を戻そう。君たちは悪霊を祓うことに随分自信があるようだが、その根拠はなんだね? 私もリディア司教補佐とは以前に会ったことがあるが、彼女はなかなか頭の切れる方だった。あの方がわざわざ推薦してきたというなら、我々を納得させるだけの証拠も用意してあるのだろう?」

「それはもちろん」


 サミーは答えるとセシルに目で合図した。

 セシルは頷いて立ち上がると、テーブルの上にオルレア――人形を置く。

 人形はちょこんと座ったまま微動だにしない。

 ケテルが怪訝な顔でサミーに尋ねた。


「そういえばさっきから気になっていたのだけど、そのお人形はなあに?」

「これはただの人形ではありません。――さあ、セシル」

「はい」


 セシルは人形の背中に軽く触れた。

 すると人形はひとりでに立ち上がり、三人の枢機卿を見回したあと、スカートを摘まんで丁寧に頭を下げた。


「はじめまして、枢機卿の皆さま」

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