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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第3章:呪いの館の住人たち その2

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第22話 めざせ快適生活

 次の日。

 セシルが自室である執務室にいたところ、半透明の首が三つ、壁からいきなりニュッと生えてきた。


「セシル、おはよう」

「……遊びに来た」

「あそぼう、あそぼう」

「おう、お前ら起きたのか。久々だな」


 ポルターガイストの怪異、ポール、タガー、イストの三兄弟だ。

 魔力の補充が終わってようやく目を覚ましたらしい。

 随分姿を見なかった気がするが、生活リズムも怪異ごとに結構違うようだ。


「ていうかお前ら、ちゃんと入口から入って来いよ。せっかく扉があるのに勿体ないだろ」


 セシルがそう言うと三人はキョトンとして顔を見合わせた。

 それから三つの首は壁の中に引っ込んだかと思うと、少し間が空いてからガチャリと扉が開いて幽霊三兄弟が入って来る。


「お邪魔します」

「……これでいい?」

「あそぼ、あそぼ!」

「うん、まあそれでいいや。次からもそれで頼むぞ、お客様方」

「わかった!」


 イストが元気よく答える。

 よく分からないが、お客様と呼ばれたのが気に入ったらしい。

 ごっこ遊びか何かのつもりなのだろうか。


「……セシル、いつもと服が違う」


 タガーが言った。

 するとポールとイストも初めて気付いた様子でセシルをじろじろ眺める。


「本当だ。どうしたのその服」


 セシルは昨日まで着ていた年代物の赤いドレスではなく、腕まくりした白いシャツに黒いズボンというラフな格好をしていた。

 ついでに言うと右手には雑巾を持ち、髪を隠すようにタオルで頭を縛っている。


「ああ、これはウェンドリンさんが作ってくれたんだ」


 昨日、風呂から上がった後のこと。

 ウェンドリンは肌着姿のセシルの寸法を測ると、棚から何種類か糸玉を取り出した。

 そして「すぐに用意するからちょっと待っててね」と、あやとりでもするような手つきであっという間にセシルの衣装を織り上げてしまった。

 糸を操る能力というのは想像以上に便利な物らしい。


「……元のドレスはどうしたの?」

「あれはウェンドリンさんが修繕してくれるって言うからそのまま預けたよ」

「……ふーん」

「セシル、その格好もかわいいね!」


 イストがセシルの周りをぐるぐる飛びながら言う。

 セシルは腑に落ちない様子で自分の身体に目をやった。


「かわいいか? どちらかって言えば格好いいと思うんだが」

「うん。でも、よくわかんないけどかわいい!」

「多分だけどいつものドレスと印象が全然違うから逆にかわいく見えるんだと思うよ。僕もそう思う」


 ポールがイストの言葉を補足する。


「そういうもんなのか。そういやウェンドリンさんも似たようなこと言ってたな……」


 セシルは曖昧に頷いた。

 自分は男だという意識があるので可愛いと言われても少々複雑な気分である。

 ただ一方で、嬉しいと感じている自分がいることにも気が付いた。

 人形とはいえ少女の身体に心が影響を受けているのかもしれない。


 ちなみにウェンドリンが作ってくれたのは今着ている上下だけではない。

 クローゼットには他にも何着か衣装が入っている。

 動きやすい物を、というセシルの希望で作ってもらったこのシャツとズボン以外は、元の赤いドレス以上にフリフリだらけの可愛らしい衣装がほとんど。

 ああいうデザインのものに袖を通すのは心理的に少々抵抗があるのだが、着ないままにしておけばその内無理やり着せられそうで内心戦々恐々としている。


「ところでセシルは何をしていたの?」


 ポールが言った。

 セシルは手にした雑巾を軽く持ち上げた。


「見りゃわかるだろ。部屋掃除だよ」

「……掃除?」

「そう、掃除。そうだ、暇なら手伝ってくれないか?」


 セシルがそう言うと三人は不満そうに顔をしかめた。


「……めんどい」

「掃除や片付けなんておっちゃんに任せればいいじゃん」

「そんなのよりあそぼうよ」


 セシルは呆れ顔で腰に手を当てた。


「いやいや、自分らで散らかしたのをリンゲンさんに投げるなよ。あの人カンカンだったぞ?」

「でも掃除なんて詰まんないし」

「……そうだそうだ」

「あそぶほうが楽しい!」

「お前らなあ……」


 どうしたもんかな、とセシルは思った。

 別に手伝ってくれないだけならいいが、この様子だと遊びに付き合わなければこちらの掃除を邪魔して来かねない。

 何かいい方法は無いか、とセシルは考えたが、そんなセシルの手をイストが引っ張る。


「ねえセシル、あそぼうよう」

「いやいや、そりゃ遊ぶのも楽しいけどさ、ここってオレたちにとっては秘密基地みたいなもんだろ? だったらなるべく快適な場所にしておきたいじゃないか」


 セシルはやや困った顔で言った。

 すると駄々をこねていた三兄弟はどういう訳かピタリと動きを止めた。


「……秘密基地?」

「ああ、だってここは俺たちしか住んでいないんだし」

「………」

「ん? オレなんか変なこと言ったか?」


 セシルはキョトンとした。

 秘密基地、という言葉はセシル本人としては何気なく頭に浮かんだだけで特に意味は無かった。

 だが、三兄弟は物凄い勢いでセシルに顔を寄せてきた。


「僕、掃除する!」

「……秘密基地、格好いい」

「わたしたちの部屋もおそうじしたい!」

「お、おう」


 どうやら秘密基地という単語が子供心を刺激したらしい。

 先程までの不満な様子はどこへやら、手の平を返したようにやる気満々の様子である。

 セシルは勢いに押されながら慌てて言った。


「わかったわかった。じゃあまずはオレの部屋の掃除を手伝ってくれよ。そしたら次はお前らの部屋だ」

「わかった」

「……頑張る」

「おそうじ! おそうじ!」


 セシルと三兄弟はわちゃわちゃと執務室の掃除を始めた。

 床やテーブルなどの雑巾がけはセシルがやり、天井や棚の上などセシルの手が届かない場所は三兄弟がそれぞれ担当する。

 四人がかりだったので掃除は思いのほか捗った。

 ただしそれでもその日の内には終わり切らず、続きは翌日に、ということになった。



 ※ ※ ※



 その後、セシルは慌ただしいながらも充実した毎日を送った。


 掃除については自分や三兄弟の部屋だけでなく、ついでだからと他の部屋や廊下、中庭に至るまで全体を少しずつ綺麗にしていった。

 その合間にリンゲンから家具や装飾品の修理法を習ったり、ウェンドリンにカーテンや絨毯などの布製品の補修をお願いしたり。

 謎肉で保存食を試作してはアルベルトの所へ持って行き、試食会を開いて感想や改善策などを話し合ったりしもした。

 そしてうっかり食べ過ぎたときは幽霊三兄弟と鬼ごっこをして発散する。


 それから、この館の怪異としての役割も何度か果たした。

 興味本位で館を訪れた人間を脅かして叩き出す、というセシルも人間だった頃にやられたあれである。

 やってみて分かったが、人間を脅かすのって想像していた以上に楽しい。



 そんな感じであっという間に一日一日が過ぎて行った。

 そして気が付けば、セシルがこの館へ来てから二ヶ月ほどの月日が経っていた。

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