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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第3章:呪いの館の住人たち その2

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第20話 七人目の怪異

「ほう、どうやら効果てきめんだったようですな。すっかり元通りのようで」


 戻って来たリンゲンはアルベルトの姿を見るなり言った。

 アルベルトが丁寧に頭を下げる。


「皆さまのお陰です。自分でもここまで効果があるとは思いませんでした」

「じゃあ今後は定期的にお肉を焼いて届けに来たらいいのかしら」

「そうして頂けるならありがたいですが、面倒ではありませんか?」


 そんなやり取りを聞いていたセシルはふと思い付いて口を挟んだ。


「焼きたてじゃなくてもいいなら、もっと手間掛けずに済む方法もあるんじゃないか?」

「と、言いますと?」

「例えば干し肉にするとか。普通の肉じゃないから実際に作れるかは試してみないと分からないけど」

「なるほど。他の加工法も試してみる価値はあるかもな」


 リンゲンが言った。

 職人気質なだけあってこういう技術や実験的なことには興味を惹かれるらしい。


「だろ? 種類が増えればオレもそれだけ色々なもの食えるようになるから嬉しいし」


 セシルがそう言うとウェンドリンがジロリと睨む。


「あなたやっぱり懲りてないのね……」

「い、いやもちろん食い過ぎには気を付けるけどさ」

「はっはっは。では私も楽しみにさせていだだきましょう」


 ウェンドリンは空になったバスケットを手に取った。


「ではアルベルトさん、また近いうちに伺いますので」

「ええ、今日は本当に楽しいひと時でした。――ああそうだ、リンゲンさん。少し宜しいですかな」


 立ち去ろうとした三人にアルベルトが声を掛けた。

 リンゲンが立ち止まり振り返る。


「何でしょう。……ああ、お前らは先に行っててくれ」

「わかったわ」


 リンゲンがアルベルトのほうへ戻って行く。

 一体何の話だろう。

 セシルはちょっと気になったが、ウェンドリンとともに階段を上って行った。


「――そういえば二人が戦ってる間、アルベルトさんに館のことを教えてもらったんだ。あの扉のこととか、ここに怪異がいる理由とか」


 そろそろ地上に辿り着きそうな辺りでセシルは言った。


「あらそうなの」

「それで気になったんだけどさ、この館の怪異って七人いるんだろ? 最後の一人ってどんな奴なんだ?」


 幽霊三兄弟を三人とカウントするなら九人だが、まあその辺は置いておくとして……。

 セシルがまだ会ったことのない怪異は確か『バスルームの霧』という奴のはずだ。

 この館の秘密もわかって来たし、セシル自身がここで生活していくことを考えても早めに見知っておきたい。

 するとウェンドリンは少し考えてから言った。


「なら、ちょっと寄り道して行きましょうか」

「どこへ?」

「あなたの言う最後の一人の所に。――本当は謎肉ちゃんやアルベルトさんよりも先に見てもらうつもりだったんだけどね。まあタイミングを考えたら逆に良かったかもしれない」


 そう言うとウェンドリンは別の方向へ歩き出した。

 あれ? とセシルは思った。

 ウェンドリンの表情はそれまでと変わっていないはずなのに、セシルには何故かどこか悲しげに見えた。



 ※ ※ ※



「ここが最後の怪異の場所よ」

「……ここが?」


 ウェンドリンに連れられて着いた先は、二階の角の部屋の前だった。

 屋内だというのに周囲にはうっすらと霧が立ち込めている。


「さあ、行きましょう」


 ウェンドリンは扉を開けた。

 するとその隙間から霧の塊が溢れ出す。

 セシルは思わず目を丸くしたが中へ入ってみると部屋の中はそこまで霧は濃くなかった。

 特に目を凝らさなくても部屋の様子は見て取れる。何も家具の置かれていない殺風景な部屋だった。

 結露とカビ臭さが少々気になるし、家具を置いてもすぐ駄目になるから退避させているとかなのかもしれない。


 そして問題となる場所はその部屋の奥のバスルームだった。

 霧はどうやらこのバスルームから発生しているらしい。

 ただし、バスタブは空。お湯どころか水すら張られていない。

 他の場所も水漏れなどを起こしている様子はない。

 にもかかわらず、霧は間違いなくこのバスルームから発生していた。


 なるほど、確かにこれは『バスルームの霧』。

 気味が悪くはあるし、怪奇現象には違いない。

 だが……。

 バスルーム内を見回し、セシルは首を傾げた。


「ウェンドリン」

「なあに?」

「これ、本当に怪異なのか?」


 確かに不思議な現象だとは思ったが、それだけだった。

 他の怪異たちに出会ったときのような、何かがいる、という気配をまるで感じない。

 実際、セシルたちがこうして話をしていても霧は単なる霧のままで何の変化も見られなかった。

 ウェンドリンはセシルの疑問を聞くと少し困ったように笑った。


「やっぱりあなた中々鋭いわね。ご明察の通りこれはただの霧よ。リンゲンさんによると壁の中の配管か何かの故障が原因でこうなっているらしいわ」

「へ? それじゃあ怪異は?」

「この霧よ」

「………?」


 セシルは意味が分からなかった。

 ウェンドリンは少し間を開けてから話し始めた。


「この霧は……この子は昔、私たちと同じ怪異だったのよ。ロロネっていう名前で、霧から生まれた怪異でね、身体を霧に変化させてどんな狭い隙間にでも潜り込むことができた。私の役目が館の耳とするなら、ロロネは館の目の役割を担っていたの」

「それがどうしてただの霧になってるんだ?」

「死んでしまったのよ。いえ、私たちは元々生きている訳ではないし壊されたと言うのが正しいのかしら」


 その言葉にセシルは衝撃を受けた。

 怪異でも死ぬことがあるのか。


「壊されたって……一体誰に?」

「あなたもさっき見たでしょう。『この世ならざる者』よ。過去に一度、異様に強い個体が出現したことがあってね。セシルと謎肉ちゃんを除いた全員で立ち向かったんだけど、ほんの僅かな隙を突かれて……」


 ウェンドリンは言葉を切りバスタブのほうへ目を向けた。

 今は亡き友の姿を思い出している。そんな様子だった。


 あの黒い影のような泥のような存在。この世ならざる者。

 リンゲンとウェンドリンが余裕を持って対応していたから実感が無かったが、やはり驚異的な存在には違いないらしい。

 怪異を壊す、というのが具体的にどんなものだったのかはまるで想像も付かないが……。


 セシルはしばらく黙っていたが、やがて躊躇いがちに尋ねた。


「マリアンデールに頼めば蘇らせてもらえるんじゃないかな」


 この館の怪異はマリアンデールが生み出した、とアルベルトは言っていた。

 死んでしまったというのがどういう状態かわからないが、生みの親であるマリアンデールになら蘇らせることも可能なのではないか。

 しかしウェンドリンは首を横に振った。


「無理だったわ。一度壊れてしまえば二度と戻せないとあの人も言っていた。怪異を生み出すのって相当に難しいんですって。怪異になれる適性をもった品に、適切なタイミングで個体ごとに最適化した魔術を施さなければならない。それのどれか一つでも欠けたら不可能なそうなの」

「そうか……」


 余計な質問をしてしまった、とセシルは後悔した。

 セシルが簡単に思い付くようなことを試していないはずがない。

 ウェンドリンは続けた。


「アルベルトさんがあんなミイラみたいに痩せ細っても持ち場を離れようとしなかったのは、その時のことを未だに気に病んでいるからなの。そしてそれは私たちも同じ。二度と仲間を失うようなことはしたくない。……だからセシル、約束してもらえるかしら」

「約束?」


 ウェンドリンはセシルの目線と同じ高さに屈み込むと、真っ直ぐ目を見て言った。


「あなたは戦闘には不向きな怪異よ。だからもし危ないことに巻き込まれそうになったら迷わず逃げて。誰も責めたりしないから」


 セシルはようやく理解した。

 この館の秘密について尋ねたときウェンドリンとリンゲンに警戒されたように感じたが、あれはきっと警戒ではなく不安だったのだろう。

 中途半端な説明では逆に興味を持たれ、不測の事態を引き起こしはしないか。そう思われたのだ。


 端から見れば今回のセシルは、人形にされたばかりなのに平然としているばかりか、館に対しても興味津々という意味の分からない奴である。

 あの時点ならそういう反応になるのも無理はない。


「わかった。自慢じゃないが逃げ足には自信があるんだ。何があっても絶対に生き残ってみせるよ」


 セシルはウェンドリンの目を逸らさずに頷いた。

 ウェンドリンは安堵したように微笑んだ。


「ありがとう、セシル」

「いや、感謝されるようなことは言ってないんだが……」


 セシルは照れ隠しで顔を逸らした。

 そして……それはそれとして、と気を紛らわすのも兼ねて考えた。


 このセシルの身体、戦闘には不向きなのか。

 ここでの快適な生活を目指すなら、あの『この世ならざる者』の存在はどう考えても障害になる。

 自分から危険に首を突っ込むつもりは無いが、ただ逃げ回るだけでは芸が無い。

 というか、守られているだけというのも性に合わない。

 何かしら対抗できるような策を練っておきたいが……。


 するとその時ウェンドリンがセシルの身体をガシッと掴んだ。

 セシルは企み事が顔に出てしまったのかと焦ったが、どうやらそうでは無かったらしい。


「それじゃあ湿っぽい話はこれでおしまい。湿気のせいで体のほうもジメジメになっちゃったし、お風呂に入りましょうか」

「へ? この風呂壊れてるんじゃないのか?」

「ええ、だから私の部屋のお風呂に行きましょう。きれいにしてあげるから」

「それはつまり、一緒に風呂に入れと……?」

「そうよ。だってあなたの部屋はお風呂無いでしょ?」


 セシルは身体を硬直させた。

 全身からダラダラと雫が垂れるが、これは霧による結露だけが原因ではない。


「い、いいよ、ほらオレ人形だし」

「だーめ。女の子なんだからキレイにしなきゃ。ついでにドレスも新しいのを用意してあげるから。どんなのが似合うかしら」


 ウェンドリンはセシルを抱き上げると、ドレスのデザインをあれやこれやと考えながら部屋を出て行く。


「だ、だから俺は男なんだって……!」


 セシルは腕の中で必死にもがくが、まるで抜け出せそうにない。

 戦闘に不向きな怪異という評価は間違いではないらしい。

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