雨に濡れた窓ガラス、世界を正しく映すのか。
昔、親戚の姉さんが髪を染めた時、本当に本人か信じられなかった。後から知った話だが、人間が顔を認識する時は上半分を重点的に見るらしい。冬場に皆がマスクをしても顔で認識出来るのはそういう事だと納得した。だから、彼女が髪色が変わっただけで認識出来たのは当然だが、それとは別に他人の様に感じたのは至極真っ当な事らしいが、少し不思議に思う。
「訊いても良い?」
「何を?」
細谷さんの車に乗り、目的地である劇場へと向かう間、空気感に耐えられずに質問してみた。
「その、髪色について」
「別に良いけど」
彼女自身が放つ、空気感というか雰囲気というか、そういったもの通りであろう冷たさが言葉から感じられた。
「染めてるの?それ」
「いいえ、能力よ」
「能力?髪色を操るとか?」
「まあ、そんなとこね。ほら」
そう言った彼女は髪の一部を持つと、その部分だけ色を赤に変えた。
「こんな感じ」
「へぇ、面白いね」
「まあ、ね」
「もしかして、髪型も?」
「ええ。時間が掛かるから今はしないけど、好きな程度に伸ばせる」
「じゃあ気分で色々変えられるんだ」
「そうね」
「じゃあ今日青いのは、気分が乗らないから?」
「おいおい、それはやめてくれよ〜」
「細谷さん、そうは言ってもねえ、この天気じゃあ」
「いいえ、気分で決めていませんよ」
「じゃあ、何で?」
「何でって、今日は雨でしょう?」
「そろそろ着くぞ」
ぼんやりと雨粒であまり見えない窓の外を見ていると、細谷さんの声が聞こえた。前回はかなりおしゃべりの様に感じたが、あまり面識の無い人が一人増えただけで嘘みたいに黙り込んでしまっていた。かくいう自分もだが、あれからまともに会話は続かなかった。特にあの返答を聞いてから、何か踏み込んではいけなかった様な気がしてならないのだ。その気まずさを一人でに感じて黙り込んでしまった。昔から地雷を踏むのが多かったからか、そういう時は変な予感というか、第六感とでもいうのか、とにかく何かを感じる。もちろん最近はそんな事がない様気を付けている。だからこの感覚を感じたのは、少し久し振りな気がする。
「一応言っておくが、現地に着いたら案内役がいる。当然そいつはウチの職員で事情もよく知っているから、一応安心はして良い」
「なんて言う人ですか?」
榎川が訊いた。
「ああ、和泉って言うんだ」
「和泉さん。男性ですか?女性ですか?」
「男だ。歳は若いから、何かと通ずるものはあるだろうし、あと色々と気が効くから頼りになるぞ」
この人の言う頼りになるがあまり信用していいのか分からない。少し不安だ。まあでも、どうにかなるだろ。




