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『異世界転生は終了しました』  作者: 秘灯麦夜
第二章 ── 脱走者
10/15

生前






 ◇






 薬品の効いてきたAS-665は、久方ぶりに前世の──つまり生前の記憶を夢に見た。


 どうということはない。


 どこにである話。

 くだらないイジメ。

 友達なんて一人もいない。

 味方さえも一人としていなかった時代。


 それでも親のいう通りに通い続け、イジメられ恫喝され恐喝され続け、何のために生きているのか──そんなくだらない妄想にとらわれていた夕暮れのなか、


 にゃあ


 という声が聞こえた。

 今にも消え入りそうな、か細い声。

 河川敷公園の土手の下──よくイジメの連中に連行されていた底に棄てられていた、小さな命。

 ひどいことをする人間がいるものだと呆れつつ、俺は自分の弁当を分けようとして、イジメ野郎どもに酷い状態にされたのを思い出す。


(しようがない)


 そう思って近所のコンビニで猫缶と猫ミルクを買ってきた。今日は金を財布ではなく携帯ケースに挟んでいたので無事だった。

 俺が供した食料とミルクを、捨て猫は嬉しそうに喰いつき舐め啜った。

 さてどうしたものか。親に相談して家で飼うなど論外。両親ともに動物が大嫌いだった。さりとて、保健所に持っていったり連絡するのも忍びない。

 俺はそいつが捨てられていた段ボールをもって、近所の空き地に移動した……あそこにおいたままでは、イジメ野郎の衆に見つかってしまう可能性が高い。

 あいつらの人格では、最悪こいつをサッカーボールのごとく虐待する場面しか思いうかばない。実際、俺は連中にとって野球のボールみたいな扱いを受けていた。


(またくるからな)


 そう約束した茶色の子猫は意味も分からず「にゃあ」と鳴いていた。俺の与えた猫缶とミルクでよほど眠くなったのか、子猫は眠りについた。

 それから数日後。

 子猫は保護団体に連絡を入れた俺によって引き取られ、里親募集にだされ、幸せな家庭に引き取られたのだった──







 ●






「おはよう、よく眠れましたか」

「おかげさまで」


 朽ちて壊れた礼拝堂、その信徒席を使った簡易ベッドの上で、AS-665は目覚めた。

 随分と懐かしい夢だった。夢を見ることさえ久方ぶりのようにも思える。


「はい、朝食と水」


 正直、食欲とは無縁な身体であったが、喰わねば死ぬことは確実な未来。

 軍用レーションを、AS-665は文句ひとつ言わず平らげる。いつかの猫のように、遠慮なく。


「そんなにおいしいですか?」


 金髪の()大尉が訪ねてくるので、正直に告げた。


「そこまででもありませんが、腹は膨れます」


 確かにと笑う女性の微笑を見て、何かを思い出しかけるAS-665だったが、


「じゃあ、私はまた街に行って必要な物資調達に行ってきます」


 亜人の格好に擬態する耳付きフードを被りながら、ツェツィーリアは礼拝堂を後にした。










後すこしで完結する予定

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