五十二話 見えない鎖と城なしの心
イギリシャ王国を立った更に翌日の事。
「ねえツバサ。大切な話があるから後で二人きりになれないかな?」
朝食を終え、いつもの様に皆で手分けして畑に水をやっている時にパタパタが俺のところへやってきてはそんな事を言ってきた。
「うん? それは別に構わないけど……」
いつもの甘ったれて、抜け作な雰囲気の無さに一体どうしたと言葉を続けたいところだけど、今ここで話をしないところを見るにやめた方が良さそうだ。
真面目な話ってやつか。
「じゃあ、栗林の奥で待ってるから、用事が済んだら来てね」
「ああ、分かった」
それだけ言うとパタパタは背を向けて、林の方へと向かった。
しかし、気になるな。後になればわかるとはいえ、何だか落ち着かない。兎に角早めに終わらせてしまおう……。
「ご主人さま? トマトも田んぼにするのです?」
いつのまにやら、側にやって来たラビが不思議そうな顔をして突拍子も無いことを言い出す。
「まさか。トマトは水に弱いんだ。田んぼにしたら壊滅しちゃうよ」
「でもでも、トマトの壺が田んぼの壺になっているのです」
「えっ? げっ!」
言われて手元を見やればトマトの壺に並々と水を注いでしまったらしく、ふちから溢れていた。どうやらぼーっとしてしまったようだ。
いかんな。考え事をするとつい手元が疎かになってしまう。
「すまないラビ。ご主人さま用事が出来たから、代わりに水をやっておいておくれ」
トマトは枝も整えずにほったらかしにしたので、枝が絡まり合うわ、実の大きさもまばらだわで酷い状態だがちらほらと赤みが掛かりもうすぐ収穫できそうな所まで来ている。
愛着が湧いたし、俺がこのまま水やりを続けて全滅させるのは忍びない。
「分かったのです。全部田んぼにしておくのです!」
「た、田んぼにしたら、全滅しちゃうからダメだぞ」
ちょっと心配だ。しかし、今の俺じゃあどのみちトマトを水没させてしまう。とっととパタパタのところへ行って話を聞いてスッキリしてこよう。
俺はその場をラビに任せてパタパタの待つ栗林へと向かった。
栗の木は順調に育ち、俺の背を越えている。しかし樹木というのはまず背丈を先に伸ばす様で、指で簡単に折れてしまいそうな程細い。
そんな栗の木の立ち並ぶ栗林を進むと巨体の背をこちらに向けて尻尾を振っているパタパタを見付けた。
何かを覗き混むようにして何やらブツブツと呟いている。
「パタパタ……?」
「あ、ツバサ。来てくれたんだ! 早かったね」
「ん。ああ、何の話か気になって仕方がなかったからな。しっかし、なんだってまた俺だけを呼び出したんだ?」
「んー。あんまり大勢だと城なしが混乱しちゃうじゃないかなって思ったんだ」
「なんでそこで城なしが出てくるんだ……」
いや、待てよ。城なしがらみで大事な話っていったら……。
「もしかして、城なしと話せるようになったのか?」
「うん。そうじゃなきゃ、あんな風にツバサの元へ駆けつけるなんて出来ないよ」
「そうか……」
城なしとパタパタの間で意思の疎通が取れるようになったのか。
「なら、城なしは仲間のところへ向かってくれるのかな?」
「あっ、聞いてみるよ」
そう言ってパタパタは、いつだか、シノが拾ってきた城なしのミニチュアを取り出すと話はじめた。
気分的なもので得に意味は無いらしい。
「うん……。そうそう。ツバサは仲間と再会したいんだよ」
電話で話をするのを見ているみたいだ。なんだか懐かしい感じがする。
だが、少し腹が立つ。
『……』
「うん……。うん……」
『……』
「えっ!? それはそうだけど……」
おや? 何かあったんだろうか。パタパタの表情が曇っている。
「パタパタ。城なしは何て言ってるんだ?」
「うーん。城なしは仲間と再開したらツバサが戻って来ないんじゃないかって……」
「いや、俺はここに戻ってくるよ」
「そう言ったんだけど納得してくれないんだよ。城なしはツバサを気に入りすぎちゃったのかな」
なんだそりゃ。
『……』
「あっ、ちょっとそれはダメだよ!」
何やらパタパタが慌てだした。
「パタパタ。何かあったのか?」
「ツバサ逃げて!」
「えっ?」
パタパタが叫びながら俺にぶちかましを決める。
「ゲフッ……!?」
突然の出来事だったので、身構えることも出来ず、ぶっ飛ばされてゴロゴロと転がった。
「いてて。いきなり何を……」
するんだと続けようとしたが、パタパタはひっくり返って腹を見せ、昆虫みたいにワタワタとしていて言葉を失う。
「ツバサ逃げて! 城なしは君を見えない鎖で縛り付けようとしてるんだ!」
「な、なんだって?」
見えない鎖。
以前、パタパタと出会ったばかりの頃、城なしを追い掛けるも追い付けず、力尽きそうになったときにパタパタが利用したアレの事か?
「ボクが絶対に説得して見せるから、はやく!」
と言われても、見えない鎖からどうやって逃げろと言うんだ……。って、【風見鶏】なら見えるか。
「見える……! いや、見えない!?」
どうやら、【風見鶏】でも見えないらしい。
こうなりゃ、めちゃくちゃに動いて空に逃げるしかないな。
俺は、右へ左へ、時にはフェイントなんかも織り混ぜて逃亡を試みた。
こんな姿誰かが見たらどう思うだろう。絶体頭がおかしくなったって思うわ。パタパタに一人呼び出されて良かった……。
しかし。
「ご、ご主人さま? 何をしているのです? 頭がおかしくなったのです!?」
ラビに見られていた。
やっぱりそう思うわな。
「って、ラビ! 何でこんなところに……? 兎に角こっちに来ちゃ危な……」
いや……。俺だけ逃げてどうするんだ。考えたくは無いが、城なしがラビたちに何かしないとも限らないじゃあないか。
皆に何かあったら城なしと今まで通り接するなんて出来なくなってしまう。
そんなのはダメだ。
そう考えて、俺は動き回るのをやめた。
「ツバサ!? 止まったらダメだよ!」
「良いんだ。城なしには世話になってるし、ここに縛り付けられるぐらい甘んじて受け入れるよ」
とは言えこれで仲間探しは出来なくなるし、空を飛ぶことも叶わないだろう。以前パタパタに助けてもらった時に、見えない鎖に助けられたので大体の長さは把握している。
あの長さじゃ飛ぶのは無理だよなあ。
アイス位は作れるだろうか。
「ツバサ……」
哀しい瞳でパタパタに見詰められる。
そんな顔をされたら、哀しくなくてもなんだか哀しい気持ちになってしまう。
「なあに心配はいらないさ。今まで集めたもの、作り上げたものがあるんだ。城なしに縛り付けられても生きていけるさ」
正直に言えば不安が無いわけではない。しかし、やらねばなるまい。目の届かないところに送り出すには心配が残るがシノやツバーシャに探索を頼むのも良いだろう。
そうやって自分に言い聞かせ、俺は城なしの上で生きていくのを決意した。
したのだが──。
四章城なしまとめ
施設
・かまど
・トイレ
・忍者ハウス
・壺風呂
・コンポスト
・小さなお城new!!
家畜
・すずめ
・ひよこnew!!
海産物
・サケ
・タコ
・ナマコ
・カニ
・ワカメ、昆布
・その他未確認のモノが多少
川の生き物
・ヤマメ
畑
・さつま芋の壺畑
・トマトの壺畑
・大豆の壺畑
・米の壺田んぼ
・縁の下のシイタケ
・お茶の壺畑new!!
果樹
・バナナ
・サルナシ
・クルミnew!!
その他
・水源
・川:トイレ直行
・川:池通過
・川:サケ専用
・海
・池
女の子
・ラビ
・シノ
・ツバーシャ
パタパタによる城なしとの最終仲良し評価
「そう言ったんだけど納得してくれないんだよ。城なしはツバサを気に入りすぎちゃったのかな」




