五十話 生きていたツカイッパー
数日後。
あれから色々大変だった。色んな人が謝りにくるし会えないと死んじゃうとかだだこね奴までいたし。
俺の両腕は魔法で治療してもらったので元通り。ラビに何かあったわけでもないから、別にどうでも良い話だ。
ラビに至っては、ちょっとしたスリルと冒険が楽しかったらしく。
「ラビがお耳でご主人さまと活躍したのです!」
と、ツバーシャに何度も語りかけ。
ツバーシャは本日13回目、通算64回目の「そう。それは良かったわね……」をラビに返す。
それでも、なんでかツバーシャは、ラビの話をよく聞く。
シノは3回聞いただけで体よく逃げ足すようになり、パタパタは6回目で狸寝入りをし始めたのに。
気になってこっそり聞いてみれば。
「人と同士の会話なんて人が思うほど変化なんて無いもの……」
と、哲学めいたお言葉を頂いた。悟りを開いてしまったのだろうか。
それはともかく、今日も俺は後始末の対応に追われている。
「天使様。謝罪状が51簡ほど届いております」
「うっ。読みたくないんだが」
「では、適当に代筆して返します。ツカイッパー!」
「はっ! 一生懸命頑張って書きます!」
俺は応答するだけで後は勝手にやってもらえるが。
と言うかツカイッパー君。君が書くのか。散々走り回った次はお手紙地獄とか可哀想だ。でも、俺は偉い人に対するお手紙とか書けないんだ。
スマン。
それでも、ツカイッパー君は嫌な顔一つせず、壺を台にして早速ペンを取った。
彼は、なんとかお茶の苗を見つけ出し、持ってきてくれた。中々良さそうな物で早速城なしの壺畑に仲間入りだ。
首が繋がって良かった。お茶をありがとう。
「えー、拝啓、お父様、お母様……」
「ツカイッパー! お前はその手紙をだれに出すつもりだ? 首が飛ぶぞ!」
「はっ!」
また首がかかってる! 大丈夫だろうか。
「それにしても何だってこんなに謝りたがるんだ? 俺に謝ると徳でも高まるのか?」
もう、十分な謝罪は受けているし、さすがに毎日これでは鬱陶しい。
「神には言い逃れ出来ぬと必死なのです。上空からの不可避な一撃、暴れ狂う飛竜。天使様は存分に神力を知らしめました」
「神力ねえ……」
城なしやツバーシャが神力に見えるとかちょっと信じられん。
もっとこう、何だ?
カッコ良く無い感じの力……。
やけくそパワーとか八つ当たりパワーとか、そんなのの方がしっくりくるわ。
「それで結局、悪の組織とは何なんだったんだ?」
「我が国にはアーブネーダヨ派とデージョーブタ派の二つの教派があります。元々は単一の教派で、アーブネーダヨ派では不安だと言う声が上がり、デージョーブダ派が生まれました」
アーブネーダヨ派とかちょっと危なそうな名前だもんな。
俺だって不安になる。
「それだけなら良かったのですが、大抵組織が分裂する背景には他国の影があるもので」
「なるほどのう。不安を煽って分裂させたのかのう。内から侵食するか、内戦を誘導するか。美味しい手がつぎつぎ浮かんでくるのじゃ」
うおっ。
どっからともなく現れてシノが食い付いてきた。
シノ忍者だからそう言うの得意そうだよね。
今回もどさくさに紛れて誘導や撹乱をしていたみたいだし。
「はい。そして、今回もデージョーブダ派を煽り、神に仇なし、我が国に神罰を下すように働きかけたのです」
「なるほど。体よく俺たちは利用されたのか」
そう考えると癪だなあ。
まあ、その黒幕に何かしようと言う気はめんどくさいので起きないけど。
「申し訳ない限りです。しかし、デージョーブダ派は物理的に消滅し、弛んでいた王宮、貴族、教会が引き締まり私としてはありがたい話です」
「こんな国滅べば良いのに何て言っていたものな」
まあ、悪いことばかりじゃなかったみたいで良かったわ。
「ところで、そろそろアレは完成なのでしょうか?」
「城か? うーん……」
城なしの城は順調ににょきにょきと育ち、一応城っぽくなった。
なったのだが……。
「俺は城を間近で見たことがないんだが、あの城はどうなんだ?」
「扉をくぐって直ぐに水場があると言うのは斬新で居住性がないものの芸術性に秀ていて、時代を先駆けるような作りになっており、大変素晴らしい城だと思われます。ツカイッパー!」
「はっ! 中で泳いだら気持ち良いだろうなと思いました!」
「よーし、ツカイッパー。そこに直れ。一発ガツンといれた方が賢くなりそうだ」
「やめたげて!」
しかし、二人の言う通り、芸術であって、プールみたいなもんなんだよなあ。
小さくて、水源囲んだら足の踏み場が無くなったんだろう。
屋内プールになってる。
しかもその水は飲食に使うので泳ぐのには使えない。
それに城なしも気づいたのかじわりじわりと大きくなっている。
築城どころでは無いほどに石が必要だから、中々大きくならない。
「そろそろ、移動して欲しいところだ。羽を休めたい」
「おや、天使様の意思で自由に動かしている訳では無いのですか?」
「城なしは城なしだよ。意思も感情も存在する。俺たちとかわらないんだ」
「ふむ。哲学めいたお言葉ですね」
いや、そんな大層なもんじゃなくてことば通りなんだけど。
まあ、いいか。
ずっと一緒にいないと理解は難しいところだろう。
「しかし、天使様。ここを離れるのであれば、一言頂けると助かります」
「約束は出来ないな。城なしは気まぐれなんだ」
「うーん。仕方がないとは言えそれは寂しいお話ですね」
だよなあ。
突然いなくなるのはなあ。
俺だって寂しいわ。
「しかし、そうなったとしても俺たちは空を飛んで移動するからな。また会うこともあるだろうさ。城なしは早いぞ?」
「そうですか。またイギリシャ王国の近くまで来たときは是非お立ち寄り下さい。たくさんの石をご用意して置きますゆえ」
「あはは。ありがとう。城なしも喜ぶよ」
何だか別れの挨拶のようになってしまった。空気もしんみりだ。
しかし変だな。さっきまでは早く移動したいと思っていたのに、別れる事を考えたら惜しくなる。
きっとまた会えるんだろうけどね。




