四十九話 次はだるまさんが転んだ
何とか地下を脱出したのは良かったのだが。
「開けたホールを通り抜けないと外に出られないのか……」
どうやらここは教会のようで、ずらりと椅子が並び、正面にあたるところが台になっている。
「これじゃ、こっそり出来ないのです……」
「そうだな。まあでも、お祈りの時間ではないみたいで人は少ないし、これなら俺のスキルでどうにかなるかな」
幸い等間隔で太い柱が並んでいるから、あれに隠れて少しずつ進めば行けるだろう。
出来るハズだ。ちと広いがやってやれない事は無いハズだ。神経を研ぎ澄まし、全ての意識を風を見る事だけに集中するんだ。
そうやって、自分を奮い立たせてため息を吐いた。
ふぅ……。
ため息の感覚をたどり風を見る。
「見える……!」
「ご主人さま……?」
「良いかいラビ。俺が翼でラビの体をつんつんしたらしたら進んで。もう一回つんつんしたら止まるんだ」
「ラビの体をつんつんしたらダメなのです」
「そうな。くすぐったいわな。とんとんするわ」
今の俺にはこのホールにいる全ての人間の動きが見えている。
誰がどっち向いているかもちゃんと見えるし、それが分かれば次にどう動くかも分かる。
かくれんぼの次はダルマさんが転んだか。ダルマさんが転んだも苦手なんだよな。じっとしているの苦手だし、他の奴が変な格好で止まってるの見ると吹き出しちまう。
おっと、今はそんな過去を省みている場合じゃあない。
「よし、今なら誰にも見つからない。行くよ……?」
「頑張るのです……!」
靴のままだと、よく足音が響きそうなので、脱いでウエストポーチに突っ込んだ。それでもヒタヒタと足音が立ってしまうが、聖職たち同士の会話やら、足音に紛れて目立ちはしないかった。
ふう……。まずは一本目の柱にたどり着けた。続けて行けそうだな。
二本目……。
三本目……。
あっ、不味い。カップルっぽい聖職者の片割れにちょっと見られた気がする!
「おや……?」
「どうしたのハゼロ?」
「いや、何かウサギの耳が見えた気がしたんだけど」
ラビがちょこっと見られてた。うっ、こっちにくるぞ。
「何もいないわよ?」
カップルの動きに合わせ、柱を軸に右へ左へそっと移動してやり過ごした。
「ははっ、君とこうして二人でいられる時が幸せ過ぎて、ボケてしまったのかも知れないね」
「もうっ……。ハゼロったら……」
ふぅ、危なかった。目の前で色ボケおって……。教会は神聖なところで、愛を確かめ合うところところじゃないだろう……。
いや、人生で一番愛を確かめ合うところか。結婚とかあったっね。
神聖って何だ! なんにせよ爆ぜてしまえ!
そんな感じで危ない場面もあったけど、最後の柱にたどり着けた。
ここからはもう隠れる場所がない。でも、外に出てしまえば派手には動けないから安心して良いだろう。
なんてたかをくくっていたのだが──。
「ゲッ!」
建物は大通りに面していた。そして、大通りには人がたくさんいる。人がたくさんいると俺は持病の発作を起こす。
そりゃ、大通りならたくさんいるわな。これは盲点だった……。
人、人、人、人、人、人、人、人、人。
そして、俺たちに気が付いて追いかけて来た男が叫ぶと。
「まて、絶対に逃がさんぞ!」
必然的に俺に視線が集まる。
「あっ……、うっ……」
「ご、ご主人さま、後少しなのです! 頑張るのです!」
「ぐぐっ……」
ダメなのだ。人の視線を大量に集めてしまうとダメなのだ。
ああ、胸が苦しい……。目の前がぐるぐるして気持ちわるい。
「無理っ!」
ドサッ。
「ご主人さま、ご主人さま、ご主人さま……」
すまんラビ。呼び掛けに応えてあげるのも、今はしんどい。
くそっ。最後の最後でこれかよ。情けないにも程があるぞ。
俺たちはあっというまに聖職者の群に囲まれてしまった。
「さあ、もとの場所にお戻り下さい」
「あなた様のお力添えがあれば、我らの悲願が……」
「今こそ……。今こそ……!」
うおい。止めてくれよ。何でゾンビ見たいにじりじり詰めてくるんだよ。しかも、何かワケわからんことぶつぶつ言ってるし!
「ううっ、くるなっ……。近寄るなっ……!」
「ご主人さま……」
心なしか視界も暗くなってきた。ああ、ここまでか……。
「おっ、おい。何かおかしくないか? 嫌な予感がするのじゃ!」
「何をいって……。確かに。何故暗いんだ?」
「何だ何だ……?」
どうやら、俺がお先真っ暗になって暗くなったわけでは無いらしい。何だか急に辺りが騒がしくなってきた。
これは一体……。
「おい、見ろ! あれは何なのじゃ!?」
「な、何だあれは! 空から山が落ちてくるぞ!」
「ひっ、ひぃ……! 神は我らを見限ったのか!?」
あれは城なしか! まさか、俺たちを助けに来たのか!? でも、このままだと建物にぶつかりそうな気がする。
「おいおいおい、こっちに突っ込んでくるぞ!」
「くそっ! 騙された!」
「おい、何でも良いから早く逃げるのじゃ!」
「しかし、天使様はどうするんだ?」
「良いから逃げろ! 早くしないと押し潰されるのじゃ!」
ゴゴゴゴゴゴ……。ズズーン……。
あーあ。教会潰しちゃったよ……。中の人たちは大丈夫なんだろうか。
「ルガアアアアアア!」
そして、城なしから飛び立つ飛竜。
えっ? ツバーシャも暴れるの? 何だこれ戦争か!?
「アオォォォォン……」
姿なき狼の遠吠え。
突然の出来事に人々は混乱し、散り散りに逃げていく。
俺があっけにとられていると、逃げずに残った聖職者の男が近づいてきた。
「主さま。迎えに来たのじゃ」
「だ、誰だ?」
「だっ、誰とはあんまりな……。あっ、変装したままじゃったのじゃ。ほいっ!」
「あっ、宙返りしたらおシノちゃんになったのです!」
「シノか! 流石忍者。完ぺきな変装過ぎて分からなかったわ!」
みんな助けに来てくれたのか。何だが目の奥が熱くなってきた。
「ご主人さま。おうちに帰るのです!」
「そうだね。何だかもう疲れてしまったよ。しかし、どうやって城なしに登ろう?」
教会潰してもまだ高さがあって登れない。どうしたもんか。
何て考えていると城なしがパタパタと段々を作り階段にしてくれた。
「今日の城なしはサービス精神が旺盛だな」
「きっと、ご主人さまが心配だったのです」
「そうかもしれないね。ところでツバーシャを止めなくて大丈夫だろうか?」
「ぬかりはないのじゃ。キチンとやり過ぎないように釘はさしてあるからのう」
それならいいんだ。ノリノリで手当たり次第壊してるし、火を吹いて街を燃やしてるから心配した。
「いや、ダメだろう! 無差別攻撃しているぞ?」
「なっ、なんと!? や、やめるのじゃツバーシャ! やり過ぎなのじゃー!」
ああ、この始末どうやってつければいいんだろう。
まあいいか。
後のことは後で考えよう。
何だか知らないうちにシノとツバーシャの距離が縮まっていたようで嬉しいし。
今はみんなの気持ちを噛み締めていたい──。




