三十四話 少女との生活が始まった
しかし、不思議な子だったな。翼もないのにどうやってこんなところまでやって来たんだろう。魔法でも使うのかな?
急いで魔法をモノにするために【放て】しか使ってこなかったから、魔法に詳しいわけじゃあない。だから魔法で本当に空を飛べるのかはわからんが……。
まあいいか、空の支配者だとか豪語していたし、空を飛ぶのには自信があるんだろう。空を飛ぶのもきっと好きなハズだ。仲良くなったら一緒に空を飛びたい。
でも、怪我をしていたから時間が掛かりそうだ。
なんて、縁側に寝そべってツバーシャについてあれこれ考えていると、ラビが俺の顔を覗き込む。
「にこぉ」
「お、おう。ラビ、口元しか笑えてないぞ? 俺は何か悪いことしたのか? まったく見に覚えが無いんだが」
「むぅ。やっぱり笑顔は難しいのです」
笑顔だったのか。てっきり、何かラビの怒りに触れたか、もしくはとてつもなく悪どい事を考えているのかと思った。
しかし、何でまたそんなことを。
「ご主人さまはあの子の事でいっぱいなのです。おシノちゃんの時もそうだったのです」
「そんな事は……。いや、ウソは良くないな。すまんラビ。ラビの言う通り、あの子の事で今はいっぱいだよ」
「だから笑顔でご主人さまの気を引こうとしたのです」
なるほど。つまりはヤキモチか。愛情が足らんのかなあ。
「よーし、ナデナデしてやろうか」
「必要ないのです……」
「な、何だと!?」
これには動揺せざるを得ない。一体どうしてしまったんだ。それじゃあ、ラビに対する俺の存在意義が無くなってしまうじゃないか。
「ご主人さまはケガをしているからナデナデもラビがやるのです」
「なるほど。セルフナデナデか。新しいな」
「せ、セルフナデナデ!? ラビがラビの頭を撫でるわけではないのです!」
「えっ、じゃあ俺がナデナデされるの?」
「そうなのです。そーれ 、わしわしわしわしわ!」
途中からしわしわになっとる。まさか、ラビにナデナデされる事になるとはな。嫌じゃあないけど変な気分だ。
ひとしきり撫でられる頃には、結構な時間が経ち、日も暮れ始めた。
「ご主人さま。そろそろお腹が空いたのです」
「ん? それじゃあ、夕食にしようか」
「作るのはラビたちがやるので、また作り方を教えて欲しいのです」
それじゃあお願いしようか。鍋の残りに新しく材料追加するだけでいいかな? なんだか、旨味がどんどん濃縮されて旨くなる気がするし。
でも、それだけじゃつまらないな。
ラビが摘まみ食いした鳥ハムも少し加えようか。
「よし、晩ごはんは鍋にしよう」
「じゃあ、おシノちゃんを探してくるのです」
「なら、ついでにツバーシャも探しておいておくれ」
「お手伝いに加えるのです?」
「いやいや、仲間になった訳じゃないからお客さんだよ。食い荒らされたら叶わんから、ご飯は出してあげないと」
「なるほど。わかったのです!」
嬉しそうだな。仲間になった訳じゃあない=ご主人さまの独占率かわらないか。
怪我をしているとはいえ、全部任せるのは忍びない。シイタケ位はむしってこようか。あそこにはサルナシの小枝を隠してあるからシノには頼めないし。
かといってラビにばかり任せていたら、シノに勘ぐられそうだ。
何て考えながら縁の下にやってきた。訳だが……。
ギラリっ。
縁の下の闇には鋭い眼光が待ち構えていた。金色に輝き縦に伸びる瞳孔はハ虫類のそれを彷彿とさせる。どこかその瞳には不安や恐怖といった感情が感じられるような気がした。
「魔物……。か?」
「な、何しに来たのよ」
「なんだお前か。脅かすなよ」
そこにいたのは、うつ伏せるツバーシャだった。
おや? あのワニみたいな目じゃ無くなっているな。 さっきのはなんだったんだろう。まさか、人間じゃないとかな……。あり得る。
後でパタパタに聞いてみるか。
「俺はシイタケむしりに来ただけなんだがな。むしろツバーシャがここで何をしているんだよ」
「フン。見れば分かるでしょう。鋭気を養ってるのよ」
いや、見てもわからんがな。どこの世に縁の下で鋭気を養ってる女の子がいるって言うんだ。怖すぎるわそんな世界。
でもそれにしては……。
「何で震えているんだ? そんなに俺が恐いか? 今は俺も手負いだ。怯えなくても大したことは出来やしないさ」
「わ、私が震えてる? 恐い? 怯えてる!? バカにしないでよ! 私は空の支配者よ? この
震えは……。そう、怒りに震えているのよ……」
「うええ? 怒り? 震えるほど怒られるほど俺なんかしたのか?」
「フン!」
ああ、そっぽ向いてしまった。だがそれも良い。ウチの子にしたいなあ。手を伸ばしたら噛みつかれてしまいそうだけど。
「まあ、そんな事を言いに来た訳じゃあ無いんだ。良かったら晩ごはん一緒にどうかなって、誘いに来たんだよ」
「お断りよ。あんたなんかの施しは受けないわ。自分で捕って食べるわよ」
「そう言うとは思ったよ。でも、ここにあるものは全て俺が。いや、俺たちが捕ってきたモノだ。何を捕っても結局は施しを受けているのと変わらないんじゃあないか?」
言ってみてなんだが、城なしにあるものは本当に全部俺たちが捕ってきて作り上げたんだな。ちょっと感慨深いし嘘みたいだ。
何だか不思議な感じがする。
「フン! 分かったわよ。一緒に食べるわ。でも、勘違いしないで。私は飼い慣らされたりしない。見世物にされたり、牧場で飼育される気は無いわ」
「えっ、何言ってるんだ? 何? 異世界ってそこまで荒んでるの? 半端無さすぎるだろう」
「フン。とぼけたって無駄よ。ちゃんと分かってるんだから」
被害妄想も良いとこだ。だが……。ラビの件を考えるとない話でもなさそうだよな。奴隷が既にそれに近いものだし、そんな荒んだ世界であっても不思議ではない。
もちろんそうあって欲しくなど無い。
「変な事をする気は無いから安心してくれ。俺にそんな趣味は無いよ」
「それはどうかしら? じゃあ、あの子に付けた首輪と鎖は何なのよ? お洒落にしてはやりすぎだと思うわ」
「あー……。あれはだな」
いや、そんなに睨まないでおくれよ。すっかりラビに付いてる首輪に違和感なんて覚えなくなっていたわ。
そりゃ、そうだよな。
奴隷のご主人さまにしか見えないわな。いや、奴隷のご主人さまだけど、ラビは奴隷じゃないんだ。ええい何てややこしい。
「ご主人さまー? どこにいるのですー?」
おっと、俺が突然姿を消したからラビが探している。早いとこ出ていかないと心配させてしまう。
「ご主人さまねえ?」
「ぐうの音も出ないな。信じてくれとは言わないけれど言わせてくれ。ラビは奴隷商人に騙されているところを助けて保護したんだ」
「ふーん?」
くそう。まるで信用されてないな。まっとうに生きてきたつもりだが自信が無くなってきた。
「主さまー? どこなのじゃー?」
シノも俺を探しているのか。
「主さまはどう言うことなのかしら?」
「シノは人に追い詰められて崖から飛び降りたところを助けたんだ」
「そう。そうなの。微塵も信じられないわ」
それもそうだ。そんな都合よく人のピンチに駆けつけて一緒に住んでますとか怪しすぎる。いや、しかし、荒んでいるこの異世界なら、そう珍しい事でも無いんじゃなかろうか?
女の子のピンチなんて日常的にあるハズだ!
ああ……。だからこそ、俺が加害者であると疑うのか。
「まあいいさ。飯にしよう。俺が行かないと飯が出来上がらない。肩を貸そう」
「気遣いもいらないわ。そもそも肩を借りても自分の体を支えられないもの」
「そりゃ、大変だな。一体どうしてそんな怪我を?」
「フン!」
言いたくないか。別にいいけど。にしても、ホフク前進で動き回るから、だいぶ服が汚れてしまっているな。
ん? 良くみるとこの服全部皮で出来ているのか。上着は硬め下着は柔らかい皮を使っている。しかし、白い皮って何の獣だろう。
まあ、とにかく、このまま部屋に上がって欲しくはないかな。
「その服洗濯してあげようか?」
「はっ? 何考えてるのよ。あんたなんかに服を渡せる分けないでしょう? それに洗ってる間は裸でいろって言うの?」
「ああ、悪かった悪かった。そう吠えないでくれよ」
確かにデリカシーのない発言だったわ。余計なこと言うもんじゃあないな。
それじゃあ、せめて体をふく布とお湯を用意しますかね。




