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二十九話 皆で温かいお鍋をつつき

 襲撃者。城なしの弱点。そしてパタパタの活躍。まだ謎の残るところではあるが、ともあれ城なしに再び平穏が訪れた。


 ならばラビとシノにたらふく肉を食わせるべし。


「さあ、朝ごはんは鍋だぞ」


「お、お鍋を食べるのです?」


「ラビよ。鍋は固くて食えん。鍋に色々入れて食べるのじゃ」


 鍋はある。今回は壺じゃあない。屋根が出来たときに実装されたのだ。囲炉裏にデカイ鍋が掛かっている。


 石で出来た土鍋だ。


「鍋をするとなるとやること沢山あるな。シノにはまず鮭を一匹捕まえてきてほしい」


「お易いご用なのじゃ」


「それが終わったら、お椀、箸、さじ、おたまを作ってくれ」


「お、お易いご用じゃ無くなったのじゃ……」


 ちょっと種類が多い。だが、是非とも全部作って欲しい。本気で鍋したい。シノなら分かってくれるだろう。


 それにきっと忍者ならやり遂げてくれるハズだ。


「ご主人さま。ラビは何をすれば良いのです?」


「薪をかまどと囲炉裏に入れておいておくれ」


「あれ? 両方使うのです?」


「うん。とり肉も大量にあるから加工してしまいたい」


 ハムにするのだ。と言っても薄っぺらい丸いヤツではない。でっかい肉の塊の塩漬けだ。


「ボクは、何すればいい?」


「パタパタは、朝食が終わるまでどこか遠くに行ってておくれ」


「なにそれ、ひっどい!?」


 あ、言い方が悪すぎたわ。


「これから、大量の肉を茹でる。魔物の肉だ。この辺り一帯魔物臭いで溢れるぞ」


「うわっ。それは嫌だね。わかった。番犬らしく城なしの見回りでもしているよ」


「そうだな。また襲撃者がやって来ないとも限らない。よろしく頼むよ」


「うっ……。ま、任せて」


 任せてと言う割りには歯切れが悪い。


「そんなに狂暴な魔物のだったのか?」


「あれは魔物では無いナニかで、魔物じゃ無かったんだよ。魔物以外が相手だとボクは本気出せないんだ」


「そうか……」


 言い訳に聞こえない事もないが、これは恐らく本当の話だろう。ここに住む人を魔物から守るために生まれた。


 しかし、あまりに過ぎた力では、人々が自衛を放棄してしまう。その辺りの理由でそんな制限が掛けられたのだろう。


「手に負えない相手なら俺を呼んでおくれ。俺は戦闘に自信が無いけれど、一人。いや、一匹でどうにかする必要なんて無いさ」


「うん……。ツバサ! ありがとう! 何だか重いものが降りたみたいだよ」


「そうかそうか」


 パタパタなりに気にしていたんだろうな。気が晴れた様で良かった。これで本当に全部元通りだ。


 さて、パタパタも避難させたし、俺も材料集めて下ごしらえをしないといけない。取り合えず、縁の下に回り込みシイタケの様子を見に向った。


 さあて、シイタケは収穫できるかな? 鍋にシイタケが乗っているのと乗っていないのでは大差がある。是非ともシイタケは入れたい……。


 おおっ、ちょうどシイタケがいい感じの大きさになっている。グロくない。丸っこくてほこほこして旨そうだ。


 早速、かまどに戻り、シイタケに手を入れる。


 こいつは笠に十字に刃を入れて手裏剣みたいにするか。はたまた、二の字に刃を入れて顔みたいにするか非常に悩ましい。


 いいや、どっちのタイプも作ってしまおう。


「鮭を持ってきたのじゃ。子持ちじゃぞう」


「あっ、オスで頼む。今イクラとか作ってる余裕ないんだ」


「むあっ。やり直しじゃと? 時間がないと言うのに」


 すまんな。まさか子持ちとは思わなんだ。筋子のバラしかたは知っているので、子持ちはイクラにしたい。だが、今日はやめておこう。


「薪の準備が出来たのです!」


「スタイリッシュ着火×2!」

 

「ラビは後何をすれば良いのです?」


「この干からびた昆布を入れた水がぼこぉってなったら呼んで欲しい」


 何で沸騰させたらいかんのかは知らん。多分格好が良いからとかそんな理由だろう。だから、俺もやろうと思う。


「ほれオスの鮭じゃ。わぁは食器や箸作りに専念するので邪魔するでないぞ」


「ああ、ありがとう。後はどうにかするよ」


 ビッタンビッタン!


 まあ、活きがよろしいこと。あまり絞めるの好きじゃないのよな。悪く思わんでくれよ。


「せいっ!」


 ビクンッ。



 よし、鮭の切り身は出来た。形は不揃いだが許せ。こんなにデカイ魚捌いたことなかったし。


 次はとり団子。これは簡単だな。


 とり肉をナイフで叩いてミンチにしたものを丸める。繋ぎに使えるようなものが無いので良く練り込む事で粘りけをつけて誤魔化した。


 とり団子だけではなく、皮付き肉も入れようか。皮がプリプリになってきっと旨い。これも少し切り分けておこう。


「ご主人さま! ぼこぉってなったのです!」


「おし、昆布取り出すぞ! って、箸がないや」


「さいばしならもう出来とるのじゃ」


 流石忍者、気が利く。さいばしだけでなく、オタマも一緒に渡してくれた。


 出来立てホヤヘヤのさいばしで昆布を取り出したら、鮭、とりモモ肉、とり団子をどぼどぼと鍋に入れる。


 これで後は待つだけだ。


「このカワイイきのこは入れないのです?」


「おっと、忘れていた」


「飾り包丁とは芸があるのう」


 お椀を彫りながらこっち見られるシノの方が芸があるがな。しかも、坦々とスゴい早さで彫ってるし。


「ラビ。なんかばっちいの浮かんできたら、すくいとっておくれ。俺はかまどを見てくる」


「ば、ばっちいの?」


灰汁あくじゃな。わぁがラビに教えるのじゃ」


 ならば任せてかまどに向かおう。


 ふむ。こちらもいい感じに沸騰している。それじゃあ、とり肉を茹でておこう。湯が吹きこぼれないように火を調整しておけば、食事が終わるころには茹で上がるだろう。


 ぐぅー……。


 おっと、腹の虫が鳴いた。もう、鍋がちょうど良くなってる頃だろう。戻って食べよう。


「間に合ったのじゃああああ!」


 おお。お椀は間に合わないかと思ったけど完成したのか。しかも見分けがつくように絵が掘られてるし。ウサギがラビで、猫がシノで、翼が俺の椀かな。


「カワイイのです!」


「時間がないと言った割りには凝ってるな」


「城なしに負けたくなかったのじゃ」


 なんと。城なしと芸術性で張り合ってたのか。だが良いこと だ。こうして文化や文化的な生活とやらは生まれてくるんだろう。


「さて、鍋はどうかな……。うん。もういいな。さあたんとお食べ」


 くくく。これだよこれ。俺はこれをやりたかった。

 みんなで囲炉裏を囲んで鍋つつくの。あったかい感じがして大変よろしいじゃないか。


「わぁが取り分けてやるのじゃ」


「おお。悪いな。そうだ。ラビには箸は難しいだろうからさじを使うといい」


「ご主人さまやシノちゃんと一緒が良いのです」


 箸に興味があるならそれも良いかな。だが、箸を使うなら厳しくいくぞ。最初が肝心だ。


「いいかいラビ。箸はこうやって持つんだ」


「難しいけど頑張るのです! えいっ!」


「これラビ。掛け声あげて、箸でぶすっとしてはならん。挟むのじゃ」


 と思ったけど、シノが厳しいから俺は優しくしてやろう。


 そして、シノによる徹底的な箸使い訓練が始まった。


 刺し箸、差し箸、迷い箸……。探り箸、噛み箸もか。うっ、渡し箸、かきこみ箸は俺もやるわ。ラビの為にもやめなくてはならん。


「うぅ。お箸難しいのです」


「さじを使ってもいいんだよ?」


「絶対に嫌なのです!」


 なんて力強い意思なんだ。仲間はずれっぽくて嫌なのかな。何にせよ良い効果だな。


「俺も鍋を頂きますか」


 鮭、とり、昆布、シイタケ。出汁のオンパレードだな。鮭ととり肉の脂もまたよいものだ。


 うーん、旨い!


「ん? ラビよ。シイタケも食べるのじゃ」


「カワイイから食べられないのです」


「手裏剣の方なら食べられるんじゃないか?」


 んー。飾りを入れたのが裏目に出たか。


「手裏剣とな?」


「ん? ああ。手裏剣みたいだろう?」


「わぁの手裏剣これなんじゃが……」


 ナニこの棒……。あっ! 棒手裏剣か。手裏剣と言って差し出されなかったら分からんかったわ。


「いや、薄い星形の手裏剣の方だ」


「あー……。そんなモノもあると聞いた気がするのう。わぁも知らん忍具を知っている主さまの知識の広さには感服するのじゃ」


 この世界だと棒手裏剣が主流なのか? いや、流派によって違うのかも。忍者同士は仲良く無さそうだしなあ。


 そんな話をしながら食は進み朝食を追えた。


「もう、お腹いっぱいなのです」


「うむ。とり鍋は良いのう」


「そうだね。久しぶりに飯食ったって感じがするよ」


 ふぅ……。食った食った。既に前世の食水準越えてる。味噌おにぎりと食パンばっかりだったからな。鍋って結構金かかるしご馳走だった。


 しばらく毎日鍋にしようか。でも、焼き鳥も捨てがたいかなあ。最終的には唐揚げまでやりたいが、それはもう少し先かな。


 おっと、まだやることがあったんだ。


 俺は一人かまどに向かい、鶏肉が茹で上がっているのを確認すると、肉を壺から出した。熱が飛んだら、あとは塩漬けにするだけだ。


 さて、もう一品作らないと。


 一口大に切り分けた鮭を串に刺し、軽く塩をふって火に掛ける。


 あー。いかん旨そうな臭いがしてきた。食ったばかりなのにまた食べたくなってくる。しかし、我慢だ。太ったら空飛べなくなるしな。


 しっかり中まで火を通すと、器がわりの小壺に刺し、城なしをブラつく。


 さあて、どこにいるのやら。


「ツバサー! 何してるの?」


 おっ、いたいた。


「パタパタ。ちょうどお前を探してたんだよ」


「えっ? ボクを?」


「ああ。ほら、これ」


 俺は鮭串の入った小壺をパタパタに差し出した。


「ツバサ。これなあに?」


「パタパタだけ、なんもなしじゃああんまりだ。だから、即席ですまんが作ってみた。食べておくれ」


「本当に!? ありがとう!」


 どうやら喜んでもらえた様だ。


 俺はパタパタが鮭串を平らげるのを空を見上げてのんびり待ってから、ラビとシノのところに戻る事にした。

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