二十八話 かつてない危機をむかえ
「パタパタ。しっかりするんだ!」
「ボクは、ワンコ。人畜無害なワンコだよ……?」
「さっきから、これしか言わないのです」
「ちょっとこれは話を聞ける状態じゃあないのう」
パタパタはよほど恐ろしい相手に出合ったのか、正気を失ってしまった。そんなわけで、話を聞くのは後回し。
片付けを再開する事にした。
幸い、城なしは自重することなく壺を作り続けるので壺には余裕がある。割れた壺を端によけ、土をかき集めて、新しい壺に植え直すだけで済んだ。
「早く……。元気な姿に戻るのです……」
「大丈夫必ず良くなるさ」
励ましてみるも、ラビは奥歯をぐっと噛み締めて辛そうな表情だ。
早くラビも元気な姿に戻ってほしい。
「ふう……。なんだか疲れてしまったのじゃ」
シノまで元気がない。
このままじゃ、城なしにネガティブオーラが充満してみんな病気になってしまう。病は気から。周りの雰囲気が暗くなるだけで人は病気になるのだ。
「けほっ、けほっ。なんだか息苦しいのです……」
「そうじゃのう。わぁは寒気もしてきたのじゃ」
「二人とも、もうここは良いから、ゆっくり休んでおくれ。後は俺がやるよ」
言わんこっちゃない。さっそく、二人の体調に影響が出始めた。
「ラビは止めないのです!」
「わぁも、これだけは終わらせてから休みたいのじゃ」
「いや、しかし……。うーん。もう少しだしいいか」
二人とも何かしないと気がすまない様だ。しかし、無理に休ませても気分は晴れないだろう。だから、俺はそれを止めることはせず、代わりに作業の手を早め、とっとと終わらせる事にした。
何とかしなくちゃな。そうだ! やっぱり今日はお鍋にしよう。お肉を食べたがっていたから、たくさん入れてあげるのだ。
昆布とシイタケで出汁はとれる。そこに油の乗った鶏肉の旨味が混ざるんだ。ふふっ。からだが温まってきっと直ぐに二人とも元気になる!
今日の晩ご飯が決まり、復興作業に目処がたったので早速かまどに向かうと、もうひとつの異変に気がついた。
「あれ、川の水が止まってる?」
「主さま。池に流れる水も、池から流れる水も止まっているのじゃ」
「ご主人さま! まん中のお水が温泉になっているのです!」
一体これはどう言うことだ。 城なしが俺たちのために水源を温めて温泉に? いや、この焦げたような跡は……。
「城なしを荒らしたやつが、火でも吹いて温泉にしたのか?」
「なるほどのう。それで水がせき止められているのじゃな」
「血が付いているのです!」
うわ、水源がずいぶん汚れてしまっているな。水もだいぶ減っている。怪我した襲撃者が、水源を温泉にして治療でもしていたのか?
こんなに水が減るなんて、どんなデカさ何だ。
水は貴重なんだがな。人には水が必要不可欠だ。しかし、城なしには常に水があったから、ほとんど予備がない。
ん? 待てよ? 城なしに常に水があるなら、城なしにとっても水は必要なものだったんじゃないだろうか?
もしかして、ラビやシノが体調不良を訴えたのはこれのせいじゃないか?
「ご、ご主人さま。集めた雪をここに入れて何をするのです?」
「いや、この水は城なしの機能に関わってるんじゃ無いかと思って」
「こんこんと水が湧いておるから、放っておけばまた元に戻るんじゃないかのう?」
「そうかも知れないが試してみる価値はあると思う」
城なしが以前作ったミニチュアには水源の上に城が建っていた。
これが気になる。この水源は城なしの弱点なんじゃないか? それを守る為に水源の上に城を作りたかったんじゃ無いだろうか?
パタパタに聞けば直ぐにでもわかるのだろうが、あの調子じゃあな。
「全然足りないな。地上と城なしを何度か往復してかき集めなきゃダメだ」
「しかし、もう日が暮れて来たのじゃ」
「嫌な予感がするんだ。今日水を足さないと大変な事になる気がする」
久しぶりの徹夜になるかも知れないな。
「すまんな。とり肉はまた今度だ。俺は城なしを助けないといけない」
「バナナで我慢するのです。でもご主人さま。無理はダメなのです!」
「ああ。そうだね。あともう来ないとは思うんだが、何か危ない奴が来たら隠れておくれ」
「わぁは忍者じゃ。心得はある。ラビのことは任されたのじゃ」
頼もしい。忍者なら任せられるな。ラビと一緒に全力で忍んで欲しい。
さて、それじゃあ、久し振りに本気で頑張りますかね。
「それじゃあ行ってくる!」
「いってらっしゃいなのです!」
「無理はほどほどにするのじゃぞ?」
それはどうだろう。今回は無理をしなくちゃいけない気がする。
俺はラビとシノに見送られながら、空に飛び立った。
むう……。城なしの高度も落ちているのか。いつもより雲が近い。やはり、あの水源は城なしにとって重要なモノなんだな。
これは一刻の猶予も無さそうだ。恐らくこのままでは城なしが落ちる……!
とにかく雪を集めよう。どこか雪がたくさん残っている場所はないか?
地上をくまなくみるも、どこもまんべんなく、雪が広がり、一ヶ所にこんもりしている場所はなかった。
しかし、代わりに雪を割るようにして、道になっている場所を見つけた。
あれは……。川か! ついてるぞ! 川があるなら手っ取り早い。それにこれなら、空から見付けやすい。往復するにはうってつけだ。
あそこの水を汲もう。
すぐさま俺は飛び立てそうな崖の近くに着地すると水を汲み始めた。
水を汲むのは簡単で良い。ウエストポーチの口を開けて川に突っ込むだけだ。シノの風呂敷も借りてきたからこれにも入れよう。
あっ、何か魚入った。ちょっと嬉しい。後で見てみよう。今は急がないと。
それから俺は川と城なしを4往復ほどした。
ふぅ……。ようやく水がいっぱいになったな。結局徹夜するほどじゃあ無かった。魚が結構捕れたけど、もう真っ暗だし確認するのは明日にして今日は寝よう。
「むあ……。ご主人さま。もう、終わったのです……?」
「ああ。終ったよ。だからおやすみ」
真っ暗なのにまだ起きていたのか。また心配させてしまったな。俺はラビが眠るまで頭をナデナデしてやった。
「主さま。魚の臭いがするのじゃ」
「うん。水を汲んでいたら魚が捕れた。明日一緒に確認しておくれ」
「い、異国の魚はちと自信がないのじゃ」
そうだった。魚に詳しいからシノに聞けば良いと思ったのだが、ここは日出国ではなかったな。
「まあ、食べられるか、食べられないかぐらいは分かるだろうさ」
「そうじゃな。今日はもう遅いし明日じゃな」
そんな短い会話を終えると、4往復とは言え、結構な疲労なので直ぐに眠てしまった。
「チュンチュン……」
朝か。城なしの様子が気になる。早く見てみよう。
「ご主人さまが早起きなのです!」
「これは珍しいのじゃ。雪降るかも知れんのう」
「ラビ、シノ。おはよう。城なしが気になってゆっくり何てしていられないよ」
だから挨拶もそこそこに皆で水源に向かった。
良かった。いつも通りに戻っている。川と池にも水が供給されてる。
「ああ、そうだ。二人とも寒かったり、息苦しかったりしないかい?」
「大丈夫なのです!」
「すっかり良くなったのう。不思議じゃな」
そう。それは良かった。だが……。やっぱり、水が減ると城なしの環境維持能力が失われるようだ。
空の上は本来寒くて空気も薄い。だから、城なしの力が失われたらあっと言うまに氷の世界だ。そして、恐らく、水がなくなれば城なしは落ちる。
気をつけなきゃいけないな。
「ご主人さま難しい顔をしているのです」
「ああ、ごめん。ちょっと城なしについて考えていたんだ。大丈夫そうだし、昨日ついでに手に入れた魚を見てみよう」
「しかし、どこにも魚何ておらんのじゃが」
おや? 確かにいないな。昨日水と一緒に水源に入れたハズなんだが。
「ご主人さま! こっちに新しく川が出来ているのです!」
「あっ、本当だ。海に繋がって……。繋がってはいないのか?」
海にギリギリくっつかないところで曲がってる。
「おお。こっちに新しい魚がおるのう」
なんだ? 何で新しく川を作ったんだろう。 あんまり無理して欲しくは無いのだけど。
「主さま。この魚ならわぁにも分かったのじゃ! これは鮭なのじゃ!」
「なるほど。鮭は海と川を行き来するから、池の方でなく新しい川を作ったのか」
海を行き来する時は飛べってか。
「美味しそうなのです!」
「うむ。鮭は旨いのじゃ」
「ああ、これはありがたいな」
これは思わぬ収穫だ。何もないとこだと思ったのに鮭が捕れるとはなあ。これで、鍋の具が増える。
早速鍋にしようか。朝っぱらから鍋ってどうなんだろう? 昨日はバナナで済ませてしまったし、構わないか。
しかし、疑問が残る。何で城なしは鮭の事まで分かったんだろう?
まあいいか。城なしはきっと空の上から地上を見続けているから賢いのだろう。
今回は城なしについて色々知ることが出来たし、城なしともずっと仲よくやっていきたいと思う。
あれ? また何か忘れているような?
何だったかと思案すれば、忘れ物は自らこちらへと駆けてくる。
「みんな! 大変だよ! 城なしがすっごくおっきくて火を吐く奴に襲われたんだ! ボク頑張ったけど城なしの水も減っちゃって、このままじゃ……」
そう、またもパタパタを忘れていた。
今の今まであの格好で転がっていたんだろうか? しかし、頑張ったとはいったい……。
「パタパタ。もう全て終ったんだ」
「終わったのです」
「終わったのじゃ」
「あっ、あれ? どういうことなの? ボク夢でも見てたのかな?」
「夢じゃあないさ。それより、今から朝食を作るから、朝食がてらパタパタの武勇伝を聞かせてくれないか」
なんて言いながら、俺はシノにチラリと視線を送る。シノはその意味を理解したのか口の端をあげて悪い顔をして見せる。
「そうじゃの! まさか出会い頭も早々に股に尻尾をはさんでの醜態なんて決して見せはせんかったのじゃろう?」
「えっ!? その……。えっーと……」
困ってる困ってる。
それでも、嘘はつきたくないようで、パタパタは必死になんて言い繕うか考え始めた。
これ以上はかわいそうかな? そろそろ、止めてやろうか。
そう思い、口を開こうとしたところでラビがとどめをさす。
「パタパタはきっと楽勝だったのです! ラビは気付いてしまったのです! パタパタにはかすり傷がひとつも無いのです!」
なんも分かってなさそうな、そんなラビの一撃は抉るようにパタパタの胸を貫いた。
「うっ、うわああああん!」
「すまん、やり過ぎた。別に責めるつもりはなかったんだ……」
しかし、俺の言葉はパタパタには届かず。
「ボクは、ワンコ。人畜無害なワンコだよ……?」
パタパタはそう言ってその場にひっくり返って転がった。




