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二十六話 そしてまた暫しの休息を

 日出国で新たにネコマタ忍者のシノが加わり、城なしが更に賑やかになった。


 そして、石造りで四畳半ひと間の忍者屋敷と日本庭園の様な池ができ、それらと新たな新たな作物とその田畑となる壺畑、田んぼ畑が城なしの情景を一新させる。


 極めつけは、壺のゴエモン風呂だ。


 沸かすのに時間と薪を喰うが、土いじりをかなりするので体か汚れやすい。だから風呂があるのは大変助かる。また、空を飛べば汗もかく。


 汗をかいたあとの風呂もまた格別だ。


 あっ、残り湯を田畑に撒いてみようと思ったんだっけか。


 いつもと変わらない朝のやりとりを終え、朝食を済ませると、残り湯を汲みに風呂に向い、そこで異変に気づく。


 なんだ? 土台が無くなってるな。城なしが食べたのかな。しっかりしたモノに城なしが作り替えていてくれてたりしないかなあ?


 なんて期待してたりしたのだけど……。


「主さま。栗林の中にこんなものがあったのじゃ!」


 思案している俺のところにシノがやって来た。


「うん? シノ、何をしに栗林に入ったんだい?」


「そっ、それはそのじゃな……」


「冗談だよ。サルナシは言ってくれれば出すからね」


 いかんいかん。こう言う時は責めたらいかん。隠し事するようになったら困る。いやでも、酒癖の悪さのように結構な醜態を続けざまに晒しているからな。


 少し、厳しくする必要もあるのかなあ。


「それで、何があったんだい?」


「それが良く分からないのじゃ。だから主さまに見てもらおうと思ってのう」


「どれどれ見せてごらん……。むっ。これは……」


 シノの突き出す両手には、まるで城なしを小さくしたような形の石像がのっていた。


 城なしのミニチュアか? あっ、風呂の土台食ったのはこれ作りたかったからか。別のものを食ってくれると助かったんだが、一度作ったものは手を着けたくないのかね。


 しかし、良くできているな。海、栗林、マイホーム……。トイレまで細かく作られているのか。でも、一つ違うところがある。


 このミニチュアには城がある。


 城なしは城を作りたいのだろうか? やっぱり、城があった方がらしく見えるしな。しかし、なんだってまた栗林なんかにこんなものを?


 うーん。


「もしかしたら、城なしは城を作りたいんだけど遠慮して城を作ることが出来ないのか?」


「城? この中央にある建物の事かのう?」


「ん? ああ。日出国とは違った見た目の城もあるんだよ」


 城なしのミニチュアに建っているのは西洋の城だ。


 でも、西洋の城とは言えないよな。この世界に大西洋があるか知らん。しかし、これだけの城となると大量の石がいるから難しいな。


 しかも、水源の上に城を作りたいのか。


「輸送量が問題だなあ。今の俺たちじゃ、こんな城を作れるほどの石を運べないよ」


「もっと輸送手段があればいいんじゃがのう」


「まあ、ないものねだりしても仕方ないさ。でも、城なしには世話になっているから、できる限り協力してあげよう」


 城だけじゃなくて、城なしが成長して大きくなること前提にこの石像作られているんだよなあ。尚のこと石がたくさん必要になる。


 ともあれ、今は海上を移動中だ。石は陸に出るまで待ってもらおう。


「城なしの石像は元に戻しておいてあげておくれ。それが終わったら、作物にお水をあげよう」


「分かったのじゃ。ついでにラビにも声をかけてくるのじゃ」


「あっ、ラビには俺が声を掛けるからいいよ」


 お手伝いしてもらうのに呼びつけてやらせるのはよろしくない。お願いする形で俺から出向くべきだ。


 そんなわけでマイホームに戻ると、ラビはうつ伏せになって足をパタパタさせながら本を読んでいた。


 食料が尽きて飢えてた時に渡したアイテムボックス【防具 布】のカタログだ。


「ラビは、そのカタログを見るのが好きだな」


「あっ。ご主人さま。これはですね。ラビの宝物なのです! 見ているだけでしあわせになれるのです」


「そうかそうか」


 ラビにとってはファッション誌。念じれば欲しいの出てくるんだが、一つだけだからな。カタログも消えちゃうし。


 出さない方が夢を見られるんだろうな。


 俺としては早く綺麗なおべべを来てほしいところだが、無理強いするものでもあるまい。衣服の自作も視野にいれるかね。


 だが、不器用だから裁縫には自信がない。


「ラビ邪魔したな。ゆっくり楽しんでいてくれ」


「何か用事があったのでは無いのです?」


「いいからいいから」


 どうせ時間なんてもて余すほどあるのだ。やっぱり、水やりは俺が一人で行ってしまおう。のめり込めるものがあるのに邪魔してはもったいない。


 そう思い、きびすを返そうとして振り返ったところでシノと目が合う。


「あっ、シノ。いたのか……」


「いたのかじゃ無いのじゃ。主さま? ラビにお手伝いしてもららえる様にとお願いしに来たのに、どうしてそうなるのじゃ?」


「いや、これはだな……」


「あっ。お手伝いするのです!」


「いやいいよ。ほら、どうせ大したことは無いし」


「良くないのじゃ。こう言うのは毎日やることで習慣化させて体に刻み込まなくてはダメなのじゃ」


 やれやれ、シノの押しには勝てないな。


 これじゃあまるでオカンだ。しかし、教育方針で衝突。そんなありふれた家庭のやりとり見たいでちょっと嬉しい。


「な、何故主さまはニマニマしておるのじゃ?」


「さあ、何でだろうね」


「ご主人さまのニマニマはちょっと気持ち悪いのです」


 き、気持ち悪い……。いや、セーフだ! ちょっとだから大丈夫。『マジキモい』じゃないし。ともあれ、ラビがお手伝いしたいと言ってくれるのなら、手伝って貰おう。


 シノにはバナナ、ラビには栗林の水やりをお願いし、俺は大豆に水を撒いた。


 おっと。シイタケに水をやるのを忘れていた。あれも小まめに水をやらんとな。カビたり、苔むしたりするから中々に面倒なやつだ。


 そうして、水撒きが終わってしまえば、やることは何もない。


 暇をもて余してしまうな。たまにはごろごろして過ごすのも悪くないかもしれない。


「さて、わぁは、主さまがこしらえたと言う海で釣りを楽しむとするかのう」


「釣りをするのか? シノは素手でモリモリ捕れるのに?」


「食うためなら素手で捕るがのう。釣りは釣りで楽しみたいのじゃ」


 そんなもんかね。釣りをしたことはあるが良さは分からんかったなあ。ぼーっとするのは嫌いじゃないが。


 ぼーっとし過ぎて魚を逃がしてしまうのだ。


「主さま。海には漁礁があった方が言いと思うのじゃ」


「ぎょしょう? ああ、漁礁か。魚の住みかが必要って事か」


 しかし、珊瑚や倒木などというものはない。


「まっ、それも壺で良いだろう。何個か海に沈めよう。デカイ壺もあるといいな。パタパタにも手伝って貰おう」


「ほー。主さまは壺が好きじゃのう……」


 壺が好きなのは俺ではなく城なしなんだがな。感心しながら呆れるとは、流石は忍者。器用さが高い。


 ともあれ、パタパタを呼んで漁礁を作る事にした。


「そーっと、壺を海に沈めておくれ」


「ねえ、せっかく城なしが作ったのに沈めちゃったらもったいなくない?」


「んなこたないさ。海が豊かになれば嬉しいだろう? それにパタパタや城なしには【見てるよ】で海中も見えるだろう?」


「うん。見えるよ? 見ると何か良いことあるの?」


 おや。水中が見えるのなら、色々楽しめそうなものだが、そんな風には使ったりしないんだろうか。


「もったいないなあ。好きなときに好きな場所で水族館を覗ける様なモノじゃないか」


「すいぞくかん? それなーに?」


「ああ、知るわけ無いか。水に濡れずに水中をお散歩出来る遠い遠いお国にある娯楽だよ。水のなかで暮らす魚たちの様子を見てみたいとは思わないか?」


「んー。ボクは君たちだけを見ていられればそれで幸せかな」


 パタパタは目をほそめ、口の端を引っ張り微笑んで見せる。


 うおっ。久しぶりに、ぶわって鳥肌たった。こいつワンコで良かったわ。なまじ、美男美女であったなら眩しくて死ぬ。


「まあ、いいや。多分、芸術を理解する城なしなら喜んでくれるさ。でっかいアクアリウムだ。俺はお前たちが羨ましいよ」


「あれ? ツバサも似たようなスキル持ってなかった?」


「【風見鶏】のことか?」


 水中に風なんぞ無いだろう……。いや、水中でも音は通るし見えない事もないのか? どれ、試して見るか。


「見える!」


 水中に意識を集中させ、水面の風を辿りながら視認を試みる。


 しかし。


「ダメだな。視界いっぱいモザイクで埋め尽くされたみたいになる」


「もざいくってなあに?」


「ん? ああ。どこぞの文化の進んだ国にはいかがわしいモノをよりいかがわしく見せるための技術があって、それをモザイクって言うのさ」


「なんじゃそれは。けったいな国があったもんじゃな」


 日出国にそっくりな国の話だけどな!


 そんな話をしながらも、大中小と様々な壺を海に沈めて、漁礁作りを終えた。


「さあ、主さまも、釣りをするのじゃ」


「俺は良いよ。釣りをする様子をぼーっと眺めている方が性にあってる」


「い、いや、見られていると気が散るのじゃ」


 ああ、それもそうか。そりゃ、やりずらいわ。シノの釣りするところを見て過ごそうかと思ったんだけどなあ。


 じゃあ、ラビのところに戻ろうかな。


 こっそり離れたところで、シノを【見てるよ】で覗くと言うので、途中でパタパタと別れ、マイホームへと足を向けた。


「ご主人さま。またお手伝いなのです?」


「いや、暇だからラビと遊ぼうかなって」


「あっ! ラビは面白い遊びを見つけたのです!」


 そう言って、ラビは俺の手を引き、囲炉裏の前に座るように促すと、金貨と銀貨を持ってきた。


 ほほう。金貨と銀貨を使って──。いや、金貨と銀貨を立てて並べるのか。


「こうやって、並べていって最後にぱたぱた倒すのです!」


「へー。それは面白いな。金貨と銀貨を並べて倒すと言う点が最高にクールだ」


「く、くーる?」


 ドミノ倒しと言うやつだな。しかし、「あーそれ知ってるー!」などとは言うまい。それにドミノ牌よりこっちの方が好きだ。


「な、なんだかご主人さま悪いかおしてるのです」


「あはは。気のせいだよ。金貨と銀貨を『倒して』遊ぼうか」


「な、なぜ、倒すを強調するのです!?」


 さあ、何でだろうね?


「よーし、二人で交互に立てていって、うっかり倒した方が罰ゲームなんてのはどうだろう?」


「変なのです。倒しちゃった人が更に別のゲームを出来るのです?」


「ん? 罰が抜けてるぞ。倒さなかった方が何でも一つ命令できるなんてのはどうだろう?」


 ラビは良い子だし、ろくでもない命令はしないだろう。


「じゃあ、ご主人さまが倒したら、ずーっとラビのご主人さまでいるって約束して欲しいのです!」


 ほらやっぱり、可愛い罰ゲームだ。しかし、どうしよう。これはわざと倒したりしてしまおうか。


 穏やかな休日。そんな風にラビと楽しく遊んで過ごした。


 きっとまた海が終わるまで、こんな穏やかな日々が続くのだろう。

二章城なしまとめ

 施設

 ・かまど

 ・トイレ

 ・忍者ハウスnew!

 ・壺風呂new!


 家畜

 ・すずめnew!


 海産物

 ・タコ

 ・ナマコ

 ・カニ

 ・ワカメ、昆布

 ・その他未確認のモノが多少


 川の生き物

 ・ヤマメnew!


 畑

 ・さつま芋の壺畑

 ・トマトの壺畑

 ・大豆の壺畑new!

 ・米の壺田んぼnew!

 ・縁の下のシイタケnew!


 果樹

 ・バナナ

 ・サルナシnew!


 その他

 ・水源

 ・川:トイレ直行

 ・川:池通過new!

 ・海

 ・池new!


 女の子

 ・ラビ

 ・シノnew!


 パタパタによる城なしとの最終仲良し評価


「うん。ちょっと作る物に偏りがある気がするし、遥か昔の城なしよりもはっちゃけてる気もするけど、心は開いてきているね」

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