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アラサー魔法少女ラヴリームーンの引退  作者: 有栖賀馬頭(TL名義は朱里雀)


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2

 翌日、月歌は昼の情報番組を見ながら箸を落としかけた。


 ラヴリームーンではないときの普段の日根野月歌はただの中小企業の事務員で、職場の休憩室で冷凍食品と夕飯の余りだけを詰め込んだお弁当を食べている。


 宇宙規模で世相を斬るコメンテーターとしてシルキーがテレビ出演しているのはこいつものことで、それは問題ではない。


 問題は、アナウンサーがシルキーさんからのお知らせです、『新星、魔法少女マジカルラヴリーズオーディション、出場者募集!』と言い出したせいことだ。


 昨日の今日でオーディションが告知されるとは思ってもいなかったし、ラヴリームーンの引退も同時に報道されるとも思っていなかった。


 特に話題もなく、マスコミからはもう何年も取材を受けていなかった。そのせいだろう、若い頃の写真が表示されている。肌のキメが今よりずっと綺麗だ。


 アップになった真面目な表情を作っている芸人が「ラヴリームーンさんはずっと人類のために頑張ってくださっていたので、しばらくはゆっくりしていただきたいです」などと訳知り顔で何も知らないくせに言っている。


(温泉にでも行こうかな)


 最後の旅行は修学旅行なのだから、ちょっとくらいは楽しんでもいいかもしれない。


 しかし、次の瞬間、情報番組が婚活の話題に移ったので月歌は現実に帰った。


(陽奈にそろそろ考えろって言われてたな……)

 月歌よりずっときれいでキャリアのある女性が婚活に挑戦し、失敗している映像には危機感を煽られる。

 そこで、スマートフォンで結婚相談所を検索し、入会金と月会費を見てみた。

(たっか! まずは婚活パーティーとか、身近なものからにしようかな……)


 そう、己に言い訳をしつつ検索し直すと婚活パーティーは沢山表示された。

 結婚相談所に比べるととても安い。

 しかし、いざ参加してみようとなるとなかなか勇気が出ない。


「あらぁ、日根野ちゃん! 婚活するの?」

 パートのおば様が月歌のスマートフォンを覗き込んでいた。

「あ、いえ、考え中というか……」

 そんなに大きな声で喧伝しなくていいではないかと唇をとがらせる間もなく、別のおば様達もわらわらとやってくる。


「あっらぁ、参加すべきよぉ。運命の王子様は捕まえに行かなきゃ」

「絶対行くべきよ!」

「そうよそうよ!」

 集団で囲まれ月歌は圧に負けてうなずいた。


「じゃあ、来月の……」

 スワイプしようとしたが、指を捕まれて止められる。

「ちょうど今週末のあるじゃない!」

「これにしなさいよ、これ! 女性千円ランチ付き!」

「そうよそうよ!」


 背中を叩かれ、勧められた婚活パーティーに登録をする。勿論、完了するまできっちり見守られた。個人情報という概念はどこにいったのか。


「それで、服はどうするの服は?」

「服? ですか? 運営がお気に入りの普段着で来てと書いてくれているのでその通りに」

 頭の中で適当に選んだ五、六年前に買ったワンピースを思い浮かべるも、すぐ様否定された。


「駄目よ! 買いに行きなさい」

「お店の人に似合うものを見繕ってもらいなさい!」

「そうよそうよ!」

「見繕ってもらうんですか……?」

 いつも服は量販店の安い物しか買わないため、ショップに入るとなるとなかなか抵抗があった。


「娘がよく行っているお店の名前を教えてあげるから行きなさい!」

「この人の娘、すっごくお洒落なんだから」

「そうよそうよ!」

 いつもよりは被服費が高くついてしまいそうで正直嫌だが、拒否することもできず月歌は頷いた。


「……ありがとうございます」

「頑張りなさいよぉ」

「成果報告してね!」

「そうよそうよ!」

 それだけ言っておば様方は去っていったのだった。

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