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アラサー魔法少女ラヴリームーンの引退  作者: 有栖賀馬頭(TL名義は朱里雀)


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第一章 私、普通のアラサーに戻ります!

「待った?」

 月歌は待ち合わせ場所の喫茶店でシルキーに声をかけられ、スマホで読んでいた不倫ドロドロ無料漫画から顔を上げた。


「ううん、今来たところ。撮影、大変だったんだって? お疲れ様」

 本当は30分ほど待っていたが、別に言うほどのことでもない。


 シルキーは店員にブラックコーヒーを頼み、ピョンとしなやかな動きで椅子に飛び乗った。


 宇宙生物、シルキー。


 本人は宇宙猫だと言い張るが、どちらかというと信楽焼の狸に似ている、魔法少女ラヴリーズのマスコット。動物的な真っ白な毛並みを持ち、肉球もピンクだが、二足歩行もできる知的生命体だ。月歌をラヴリームーンに変えた張本人でもある。

 とはいえ、今はともに戦っていない。


 首につけていた魔法少女のコスチュームとおそろいの可愛いリボンを、今は特注のネクタイに付け替え、三つ揃えのスーツを着こなし実業家兼マルチタレントとして東京と大阪を往復している。


「全く、やってらんないよ。監督が近頃、意識高い探偵の意識度が低いんじゃないかとか言い出してさぁ……」

 

 シルキーは初回からずっと『このエニグマは既にソリューションしている……!』の決め台詞でおなじみのミステリードラマ『意識高い探偵久門』に出演している。


 所謂、長寿番組というやつで、久門とバディを組む刑事役は何度か交代してきた。


 一人目は久門の意識の高さに影響され、己も意識高い系として目覚め、海外ボランティアへと旅立った。

 二人目は久門の意識の高さについて行けずドロップアウトし、三人目は意識が低すぎて犯罪者になり、四人目は同じ意識の高さを保っていたが転職し、現在一人目が帰ってきている。

 月歌としては四人目が特に好きだった。久門に対し言いたいことはちゃんと言い、己を騙すことなかったからだ。


 そんな風に、相棒がコロコロと変わっていく中、シルキーはトリック解決のヒントをくれる意識高いしゃべれるペット役として毎週欠かさず出演している。


 最もテレビに出演した人外生物としてギネス記録を持っているくらいだ。

 因みにギネスの申請はシルキー自身が行った。


 要するに、俳優やタレントとしてテレビでマルチに活躍するシルキーのファンは多い。

 今も、店内にいる客や店員がチラチラとこちらを見ている。このままではシルキーはサインを求められるかもしれない。


 シルキーはファンに塩対応はしないが、面倒だったと後でブチブチ言われることが見えていたので、月歌は変身アイテムでもある三日月型の文字盤の腕時計を確認した。


「それ飲んだら丁度いい時間になるだろうし行こっか」

「了解。っと、その前に今日の戦果は?」

「いつもの通り、魔王が現れたので撃退したよ」

 一応は気にかけてくれているらしい。いつも同じ報告しかしないというのに毎週、同じ質問をしてくる。


「そう、お疲れ。じゃあ行こうか」

 猫設定のくせに猫舌ではないのかと聞きたくなる速さでシルキーはコーヒーを飲みきり、席を飛び降りた。小さな手で伝票を持ってくれている。


「いいよ、自分の分は自分で」

「待たせたからこれくらい出すさ、気にするな」

「ありがとう、ご馳走様」

(いつもはすごくケチなのに珍しいこともあるわね)


 シルキーがショルダーバックからスマートフォンを取り出し、電子決済した。

 そう、この宇宙生物は月歌よりずっと先進的だった。

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