2-5
ようやく再開です!
明日以降、複数UPしていけたら…と思っております。
それと、重大訂正事項。
なんと4話か5話辺りから主人公の名前を間違えておりました……。有り得ないほど最低なミスです。
予測変換機能に頼るとダメですね……。
ということで、当初の名前にすべて修正しましたので、すでに読まれていた方には違和感があるかも知れませんが、よろしくお願いいたします。
庭園から離宮へ戻る途中で、ふと、ヴァレンティナはカイに尋ねた。
「カイ様は、回復魔法が使える魔導師なのに、どうして薬草も育てるのですか」
「あ、あの、ぼくは平民ですので、カイで……カイでお願いします。恐れ多いです」
大きな目をさらに大きくさせて、カイはぶんぶんと手を振った。
それから、きょろきょろと周囲を見渡す。
「えっとですね……あそこに庭石がありますよね?」
指差した先にあるのは、一抱えほどある大きさの庭石。
「あの石を、あそこからこっちまで持ち上げて運ぶと……疲れますよね」
「そうですね。というか、わたくしでは、運べないかも知れません」
「はい。魔法も、まあ、そんな感じ、です」
「え?」
「手で運ぶのと、同じだけ疲れるんですよ。動かす場合は物の大きさや重さに比例します。案外、魔術って大したことないんです。呪文を覚えて使いこなすまでの手間と、発動にかかる時間を考えれば、普通に手でやる方が早いと思いますねー」
「……なんて夢のない…………」
思わず唖然として呟く。指先一つ、ぱちんとやれば、簡単に物を動かせたり、敵を倒せたりするのかと思っていた。
カイは苦笑する。
「その通りです。ぼくの場合は、ケガを治したら三日くらい普通に寝込みます。なので、補助が必要なんです。ありがたいことに、薬草などは魔導師が魔術を用いて調合すると、普通より効果が高くなるんですよ」
「そうなのですね。勉強になります」
「あと、聖石も使います。この指輪もそうです。これがあると、発動時に力が増幅されます。でもこれ、お値段がめっちゃ高いんですよー…」
眉が下がり、情けない声でカイは溜め息をついた。役に立つ魔導師として働くには、先立つ物も必要となり、なかなか大変なのだろう。
「光の乙女もそうですが、聖女くらいですねー、規格外の力を持つのは。あの力は、神の恩寵ですから」
聖女の力と魔導師の力に大きな違いがあるとは、驚きだった。だからこそ、聖女の出現は大騒ぎになるのかも知れない。
そんなことをヴァレンティナが言ったら、後ろに控えていたロルフが頷いた。
「聖女出現の報が流れると、各国が奪い合いになります」
「……聖女様も戦争の道具ですか」
「言葉は悪いが、そうならざるを得ない部分がある。例えばヴァイスベルクのように、他国からの攻めをここまで無効可できるのならば」
悲しい話に、ヴァレンティナは唇を噛み締めた。
戦争は、嫌だ。何もかも奪ってしまう。光の乙女は平穏を願ったのに、その力さえ、多くの国々は本当は戦争に使いたかっただなんて。
思わずロルフを非難めいた眼差しで睨んでしまった。
「帝国は、もう充分大きいのに、まだ力が欲しいのですか」
ヴァイスベルクのソフィア公女を望む理由がそれなら。もし、戦争に使うというなら。大したことも出来ない自分だけど、全力で阻止したいと思う。
しかし、ロルフは視線を逸らさず、真っ直ぐにヴァレンティナ見つめた。
「確かに、帝国はこれまで拡大路線だった。だが、巨大になりすぎては末端まで神経が行き渡らない。新しい皇太子は、戦争ではなく、心安らぐ平和と国民が豊かな生活を築けることを望んでいる。―――この訪問は、そのための一歩です。争いのためではない」
深い青の瞳は一切揺らぐことなく、真摯に紡がれたその言葉は、信用していい気がした。
離宮に戻り、カイやロルフと別れて談話室に入る。
そろそろ午後のお茶の時間だが、テオドルフ達はまだ戻っていないようだ。
(大丈夫?)と、リナが目線で聞いてきた。
それへ笑顔で頷いて、置きっぱなしになっていた本を手に取り、座る。今日は二度も庭園をうろうろしたので、足がすっかり疲れてしまっていた。ヒールで散策は、正直、向いていないと思う。
テオドルフ達が戻ってきたのは、夕刻近かった。
予定よりもかなり遅い。ラウラもイーラも疲労感が漂っている。
一方、テオドルフは平然と笑みを浮かべ、優雅にイーラをエスコートしての帰宅だ。
「遅かったな」
玄関ホールで待ち構えていた自身の護衛の台詞には、目をきらめかせる。
「馬車が溝にはまって動かなくて、大変だったよ。町の人達に助けてもらって、結構な距離を押した。面白い体験だったな」
「?!」
コンラートとベルタが硬直する。
最後に玄関ホールに入ってきたアロイスが頭を下げた。
「殿下のお手まで煩わせることになり、本当に申し訳ありませんでした」
「アロイス、謝罪はもういいと言ったはずだ」
ご機嫌な調子で言い、「では、少し部屋に下がらせていただきます」とロルフを伴って二階へと上がってゆく。
それを見送ってから、ラウラがはぁぁぁ…と長く息を吐いた。
「まさかこんな事態になるとは、想像もしていなかったわ」
「あの……何があったのですか」
コンラートがラウラとイーラを談話室の方へ誘いながら、心配そうに問う。アロイスが眉間を押さえながら、答えた。
「皇太子殿下が仰っしゃった通りです。帰る途中に、馬車が溝にはまりました。私と御者の二人が押しても抜け出せず、皇太子殿下にご助力いただくことになりました」
「そこから先の道も状態が悪くて……皇太子殿下が周囲の町の者に声を掛けて、交代で大通りまで押してもらったのよ」
ラウラが後を引き取って説明する。
ベルタが引きつった顔で「それは……大変でございましたね」と呻く。
「地図で決めるのではなく、事前に一度、馬車を走らせておかなければならなかった。失敗したわ……」
「時間がございませんでしたから」
「そうね。でも、それは理由にならない。皇太子に何かあれば、国際問題ですもの。わたくしの手落ちね」
いつになく落ち込んだ様子でラウラはもう一度、深く息を吐いた。
「ごめんなさい。少し、部屋で気持ちを落ち着けてくるわ」
「お部屋に、お茶をお持ちいたします」
ベルタは小さく礼をして、急いで厨房へと向かった。
結局、夕食は皇太子一行と別れて取ることになった。
イーラとラウラも要らないと言う。
「まだ二日目……?」
グレッチェンが遠い目をして呟く。
「明日は、あたしの番なんだけど。どうしたらいい?」
リナは戸惑いを隠せない声で、誰にともなく聞いた―――。




