あっれれー?おっかしいぞー?この世界!
洗濯日和という言葉にぴったりな、初夏の柔らかな日差しと心地よい風が吹き抜ける快晴の爽やかな午後。
今までスルーしていた違和感が、怒涛のように証拠を突きつけていく。頭を抱えるのに十分なそれらを、1歳児の身体と精神で受け止めるのは至難の業だった。
というか出来かねますお引き取りください切実に!
天使はテレビに齧り付くタイプではなく、週に2〜3回ニュースを見るのと、お気に入りと思われるバラエティ番組が2つ、音楽番組を1つ見る程度だった。
自由の効かないこの身体では唯一と言っていい娯楽であったので、もっと頻繁につけて欲しいところであったが致し方ない。
その代わり、家の中では音楽が頻繁に流されていた。胎教や教育にお馴染みのクラシックではなく、おそらく流行りのJ-POPで、前世では聞いたことのなかった歌手の曲ばかりであった。
よくよく考えれば、この事もヒントになっていたのだ。俺が転生をしたのは死んでから10ヶ月後。おじさんだったといえど、流行りの歌手の1人や2人は知っていた。3人は自信がないけどな!
そのおじさんでも知っている歌手の曲が1曲も流れなない。普段流されている曲については、天使が選んだものであろうから、その歌手を毛嫌いしている事もあり得る。だが前述したように、毎週見ている音楽番組にも登場しないのは明らかにおかしいと気づけたはずだった。
このようにテレビを見る事で、この世界に少しずつ違和感を覚えてはいたのだ。
しかし今日のニュースは一味違った。
ありのまま今起こった事を話すぜ!何を言っているかわからないと思うが、俺も何を言われているのか分からなかったぜ。
その前に、今までの違和感について語ろうと思う。
最初に気づいたのは、出演者の性別の偏りだった。
例えばお昼の情報番組。司会者は女性。アシスタントも女性。コメンテーターは3人いるが、全員女性。街頭インタビューに応じているのも女性ばかり。男性の姿が1人も映らないのだ。
男はとうとうテレビに映せないほどの汚物になってしまったの?と一瞬戦慄したのを覚えている。
CM中も出ているのはひたすら女性。
時折画面の端に映り込む通行人の中に、男性らしき姿が見えることもある。よかった。写したらNGな汚物であることはギリ回避できた!やったねたえちゃん!
しかし「出演者」としての男性は皆無と言っていい。
前世のテレビでは、男性も女性も当たり前に出演していた。司会者もコメンテーターも、性別は関係なかった。なのにこの世界のテレビは、まるで女性だけの楽園のようだ。
これはその時だけの偶然ではなかった。ニュースやバラエティの「出演者」は全員女性。唯一音楽番組だけ、この1年間で2組(ソロと3人組のアイドルグループ)男性を見かけたことがあった。
次の違和感は「女性の露出規制が異常に緩いこと」だ。
昼間から女性タレントが上半身裸に近い状態で出演している。下着姿のような衣装で、平然と笑っている。いや下着ですらない。透けている。完全に透けている。見えちゃいけないものが見えていてガン見してしまった結果、天使が「おっぱい飲みたいのねぇ」と嬉々としてポロリしてきたのを覚えている。遠慮なく吸い付きましたが何か?
脱線したが、前世では考えられない光景だった。日本のテレビでは、女性の露出には厳しい規制があったはずだ。詳しくはないが、時間帯にやっては緩かったのかもしれない。しかし流石に真昼間からはアウトすぎるだろう。1発レッドカードで謝罪案件のはずだ。
しかしこの世界のテレビはまるで規制が存在しないかのように、女性の肌を映し出している。流石に下半身露出した時にはモザイクがかかったが、逆にモザイク入れれば放送できてしまうのだ。びっくりして天使の反応を見てみたら、笑いを堪えていた。マジかよと顔をガン見した状態で固まっていたら「どうしたの?おっぱい吸う?」と聞かれたので、もちろん吸った。
そして不思議なのは、その光景に「性的な売り」を、いやらしさを一切感じないことだ。
出演者たちは恥ずかしそうでもなければ、媚びる様子もない。ただ自然に、当たり前に肌を晒している。それはまるで、女性同士の空間で誰も男性の視線を気にしていないかのようだ。
女子校の世界。
その言葉が頭に浮かんだ。前世で聞いたことがある。女子校では、男性の目がないため女子生徒たちはスカートが捲れて下着が見えたり、暑いからと服をはだけたりすることに抵抗がなくなるという。
この世界のテレビはまさにそれだった。男性の存在が、完全に無視されている。男性の視線を意識しない。だから、露出も自由。だから女性だけが楽しそうに笑っている。
俺は、背筋が冷たくなるのを感じた。
これはおかしい。この世界は何かが根本的に狂っている。いよいよ男性は、おじさんは排除されてしまったのだろうか。今世では女性であるが、冷や汗が止まらなかった。思わず思考放棄して気づかなかったふりをした。
3つ目の違和感。
女性を指す職業がそのまま生きているのである。
スチュワーデス、看護婦、保母。男女雇用機会均等法やジェンダー平等の理念により、消えていった筈の名詞達が何の問題も無いように使われていた。
それどころか「〜マン」と付く職業も、「〜ウーマン」になっていた。サラリーウーマン、カメラウーマン、パーウーマンにスーパーウーマン。おまけにドラごぜん。え?ごぜんってなんだ?
もうここまで来ると、何かしらのパラレルワールドであることは確定的に明らか。国民的キャラクターの名前がドラごぜんだもん。
要するに、この世界では何かしらの理由から、「男女を区別した言葉」としての認識に至ってない、もしくはその事に意を唱えるものがいないのだ。かつ、女性が主体であるということだろう。
マジで男性くん息してるー?
しかしながら、前述したように少なくはあるが男性芸能人も存在してはいる。男性への対応を見る限りは大事にもされてそうであった。
迫害や嫌悪されているわけではないのか?もしくは最近になって差別問題が意識されるようになって、男性迫害も緩和されつつあるとか?
天使は男性をどう思っているんだろう。3人組のアイドルが歌って踊っている場面が放映されている時、天使の様子を盗み見たが……無である。「すんっ」と音がしそうなほど無の表情である。いつもニコニコな天使がである。
男性めっちゃ嫌いそうじゃん……バレたら殺されるだけじゃ済まなそうなんですけど?めっちゃ怖いんですけど。まただわかっていないこの世界の真実より怖いんですけど。わかってないのに断言できちゃうんですけど。
怖くなって震えていると「楓は男の人苦手なのね。そうよねぇ。怖いよねぇ。よちよち。おっぱい吸って落ち着きましょうねぇ」とご招待されたのでおとなしく吸い付いた。何も考えずに無心で。
そして違和感を感じたら、それがテレビだけの話ではない事にも気づく。
無患樹家も小鳥遊家も父親がいない。
たまの来客や、宅配便等の配達員も男性がいたことはない。
いわゆる男女逆転世界なのだろうか?
女性は社会へ出て稼ぎ、男は家庭を守る。
それが徹底されている世界。
……つまり天使は男?マジでか。
ついてるの?あの顔で?うっそん。男の娘なの?
ママじゃなくてパパだったの?
ない、ないな。天使の足の間によく抱えられるが、3番目の足を感じたことはなかった……多分。
ないって言ってよ!こんな時どう言う顔すればいいのかわからないよ!
はっ!おっぱいあげれる男子はいない!論破完了!
……本当に気づいてよかったぁ。安堵で泣けてきた。
そうすると単純に男女逆転世界ってだけではなさそうだ……と言うところまでが今日のニュースを見るまでの考えだった。




