おままごとは平安時代から続く、由緒ある遊びらしい。つまり伝統芸能って事ですね。
「かえちゃん!きょうはなにする?」
朝起きると、既にスズメが来ていた。彼女も起きたばかりだろうに、元気いっぱいにそう聞いてくる。髪は寝癖でぐしゃぐしゃなのに、目はもうキラキラと輝いている。このエネルギーはどこから来るのか。前世含め、俺が朝からこんなに元気だったことは一度もない。つまり今も元気はない。むしろ寝てた。気持ちはまさに休日のパパ。娘には逆らえないところも含めな!
「うーん、なにしようか」
眠い目をこすりながら、仕方なく起きる。トーストの匂いにお腹が鳴る。
天使はもうとっくに起きているようで何かを焼く音と、油がはねる音が聞こえてくる。
目玉焼きかなぁ。君は半熟というか生派。生派とか卑猥。
「すー、おままごとしたい!」
朝食に考えを巡らせていると、雀が俺の返答を待ちきれずに提案してきた。
その内容に一瞬固まってしまう。コイツはヤクい!
「……また?」
「また!」
元気よくそう言って雀は俺の手を引っ張る。その力強さに、俺は抗う術を持たない。3歳児の体では、雀のフィジカルモンスターぶりに太刀打ちできないのだ。
「せめて朝ごはん食べさせて!」
「もー。しょうがないなぁ」
なんとか一時凌ぎに成功したが、食べ終わった後を思うと憂鬱すぎて情緒豊かな3歳児のおれは泣いてしまいそうになる。なんとか、なんとか他に誘導しなくては。
……ところで雀さん、なんで隣に座っておれのスプーン握ってるんですかね?よこ取りする気満々なの?一刻も早く朝ごはんを終わらせてやろうって魂胆?
「はい、かえちゃんあーん」
ちっがーう!食べさせての意味がちがーう!そしてスプーンの上には何も乗っていなーい!
だってまだ調理中だからね!おままごと始まってんじゃん!油断も隙もなさすぎる……!
「すーちゃん、朝ごはん食べてからね?」
「かえちゃんはあかちゃんでしょ!」
雀がそう言ってスプーンを突きつけてくる。おーまいごー!ふぉーりしっと!なんて日だ!
というか会話になってないよね?雀さん強引すぎね?これぞ3歳児クオリティ?
「雀ちゃん、ご飯終わるまで待ってあげてねぇ」
絶望している俺に天使が救いの手を差し伸べる。さすが天使!さすてん!やはり天使しか勝たん!
配膳しながらすずめを抑えてくれる様はもはや天使超えて女神。自由を束縛する女神爆誕!
……なんか厨二病的なルビがつきそうだよね。自由を束縛する女神とか?
ダメだセンスがない。俺には厨二病はまだ早かった。3歳だもの。
現実逃避的におバカな事を考えていたが、なんとかご飯中におままごとから他の遊びへ気を逸らさないと……。
このままでは恐怖のエンドレスおままごとが始まってしまう。赤ちゃん役で過ごす1日をひたすらループすることになる。バブー以外言わせてもらえない悲しき世界。自由を束縛する女神は雀だった!?しょうがないので最終奥義を出そう。ボーロではないよ?
「昨日おっきいカエル見たよ!まだいるかもだからあとで見にいこ?」
雀はカエルが大好きなので、このお誘いに食いつく事鯉の如しであろう。1番お気に入りのキャラはスリーオのけろぴーである。なんか微妙に前世の世界線と違うんだよなぁ。
「今日雨だからお外はダメだってー」
一瞬キラキラした目になったが、残念そうにしょぼくれてしまった。大失敗すぎる。
悲しませるつもりはなかったんだごめん。大きいカエル見たのも嘘ですごめんなさい。
しょうがないじゃんおままごとキツいんだよ50歳児には。飽きずに繰り返されるし。「俺のお世話をする」の好きすぎなんだよな雀は。
とりあえず室内でできる遊びで興味を逸らすしかない。最終奥義テイク2行きます!
「……ポケハン、新しい武器作れたから前に負けたモンスター倒せるかも?」
ポケットモンスターハンター。略してポケハン。150種類のモンスターを捕獲してお供にしたり、討伐して武器や鎧の制作素材にしたりできるアクションゲームである。最初天使がやっていたのを見た雀がやりたがり、「よくわからないだろうからすぐ飽きるでしょ」と思って自由に触らせていたようなのだが……。
雀はあっという間に操作を覚えていき、下位クエストであればクリアできるようになっていた。
であるならば自由に遊べるようにと、古いゲーム機と初代作品が押し入れから引っ張り出され、3歳児の玩具となっている。天使は自由の女神でFAですね。
しかしながら所詮は3歳児。雀はゲームのシステムを理解できていない。
狩の腕だけは異常なほどに良い。モンスターの攻撃を紙一重で避け、的確に攻撃を当てる。その動きは
前世で似ているゲームをプレイ済みの俺よりよっぽどうまい。この身がまだまだ不器用で、うまくコントロールできないから……と言い訳したくなるが、多分前世の俺よりうまいんだよなぁ。将来はプロゲーマーかな?
だが問題は文字が読めない事だ。数字も1から10までは数えられるが、それ以上は全て「いっぱい」だ。
モンスターを倒す事で武器や防具を強くできるというサイクルはわかっていても、どのクエストに行けばいいのか、素材が今いくつあってあといくつ必要なのか、そう言ったことは丸投げになる。
というかモンスターと戦えればそれでいいっぽいので、秘書の如く俺が管理している。
雀は狩り担当でアクションを、俺はサポート担当で武器やモンスターのコレクションを楽しんでいる。
……俺がちゃんと理解してゲームを進めていることに、天使は気づいてない。バレたらやばいネタの1つだったりする。天才児現る!で誤魔化せんかな?
「二十歳過ぎればただの人」の典型パターンになりそうだけどな。
***
「はーい、あかちゃん、ごはんですよー」
雀はそう言って、小さなプラスチックのスプーンを俺の口元に持ってくる。俺は仕方なく口を開ける。当然、何も乗っていない。
「おいしい?」
「……おいしい」
「よかったねー。もっとたべる?」
「……うん」
阻止できませんでしたぁ!エンドレスおままごとの始まりである。ちなみにすでに何食目のご飯かわかりません。多分15食目くらい。ご飯食べてお風呂入って、ご飯食べてオムツ替えて、ご飯食べて抱っこされて……。このハイライトを失った目を見ろッ!見て慰めろッ!
正直、これがかなりキツい。人生のハイスコア47歳の記録を持つそんな俺が、3歳児とおままごとで赤ちゃん役をさせられているのだ。精神的に来るものがある。いや、別に雀と遊ぶのは楽しいんだ意外と。おじいちゃんが孫と遊ぶ感覚での楽しさだけどな?だけど、赤ちゃん役がずっと続くと自分の尊厳というものがじわじわと削られていく気がする。
「すーちゃん、そろそろおままごと終わりにしない?」
一縷の望みをかけて、そう提案する。案の定、雀は不満そうな顔をする。わかりやすくご立腹である。それもまた可愛いけど、俺はニコニコ笑顔派だ。スマイルください。0円で!
「やだ!まだやるの!」
「でも、もう3時間もやってるよ」
「3じかん?」
雀は首をかしげる。まだ時間の概念が完全には理解できていないようだ。まぁ3歳児に時間の概念を求める方が無理な話かぁ。てか凄くない?おままごとって3時間もできるものなの?天使なんて見守り疲れてソファーでうたた寝しちゃってるけど?……嘘だろ、ガチ寝してるな?よだれ垂らして健やかに寝息を立ててやがる。そんな状態なのに可愛いのずるくない?全ての女子に怒らるぞこれ。
「ずっと、ずっとやるの!」
「……はい」
おっと、説得中だったの忘れてた。しかもよそ見してたから、雀がちょっとキレ気味だ。
ご機嫌取るためにも、もうしばらく続けるしかねぇな。辛たんすぎる。
覚悟決めるかぁ。3時間できたんだ。今が折り返し地点と思えば、後3時間くらい持つだろ俺。
……いや、無理だわ。もう一度同じだけ繰り返すって考えたら発狂しそうだわ。
「あかちゃん、ねんねのじかんよー」
雀が俺を布団の上に寝かせようとする。長い1日だったなぁ。一瞬で2日目になるんだろうけれども?
とりあえず黙っていう事を聞く。今は我慢。耐えるんだ!ここは耐える!ここを凌げば、凌ぎきれば、流れが来る!来るに決まってる!
俺は誘導されるがままに寝転がると、雀は俺の隣に座ってトントンと胸を叩いてくる。あんれぇ?おっかしーぞぉ?本気で眠くなってきやがった。雀さんまじテクニシャン……おっそろしい子……!
負けない。こんな心地よさになんか負けないんだからぁ!でも身体は正直なのぉ……。
***
「かえちゃん、おっぱいのむ?」
おままごと中に寝てしまったようで、体を揺すられて目を覚ました俺に雀が突然そう聞いてくる。寝起きにぶつけてくる言葉がそれかぁ。心臓に悪いなぁ。寝起きじゃなくともビビるけど。
「え?飲まないよ?」
思わず素で答えてしまったが、赤ちゃん役としてはバブーと言うべきだったか?
役者魂炸裂してしまったが、雀は嬉々として服めくって咥えさせようとしてくるのは目に見えているからこれが正解だったな。グッジョブ寝ぼけた俺!
「かえで、今日は飲まないの?」
天使?あれ?
天使が悲しげにこちらを見ている。仲間にしますか?……じゃねぇ!
天使のおっぱいは飲むよ?飲まないのはおままごとでの話でですね?天使のは一生飲むってばよ!
我ながら気持ち悪い事を考えながらも状況の整理を試みる。
まぁ整理するまもなく、ただ単に寝ているうちにおっぱいタイムになったから起こされたってやつだなこれ。
「おっぱいの時間だから起こしてあげて」とか言われた雀が起こしに来たやつだ。
天使を悲しませるとか、極刑を求刑します寝ぼけた俺に!何がグッジョブだ寝ぼけんな!
「ママのおっぱいは飲む」
「だっこー」と言わんばかりに天使に向かって両手を広げる。これには流石の天使もにっこり。
ふ。我ながら3歳児の外見を利用した庇護欲掻き立てムーブは完璧だぜ!母性をくすぐられる奴なんていないなんて言わせないよ絶対。
「かえちゃんは、まだおっぱいのむんだ?」
ちゅーちゅーとれいん中の俺に、雀がドヤ顔通り越してメスガキ顔で聞いてくる。コイツ煽りよるワイ。
俺は返答に詰まる。これはなんと答えれば天使を悲しませず、かつ雀にイジられずにすむのか。
……よく考えたらいじられていいんじゃね?そんなマウント雀も可愛いもの。
しかし「天使のおっぱいが好きだから!」なんて言えるわけがない。ただの変態でしかない。
……いや3歳児なら許されるのでは?よしそれで行こう?天使喜んでくれそうだし。なんか頭がうまく働いてないな?寝起きだもんね?
「……ママのおっぱいが、好きなの」
「すーも、ママのおっぱいすきだよ!」
眩しい!100%邪念のない笑顔が眩しい!半分くらい不純な自分は灰になってしまうくらい、眩しい純粋な笑顔である。完全に目が覚めたわぁ。そしてなんか甘えん坊だった自分が恥ずいわぁ。いやほんと恥ずいな羞恥心やべぇぞ。とりあえず顔を覆いたくなって突っ込んだ先は天使のお胸でしたラッキーすけべかな?
……邪念だけ灰になれば良かったのにな?




