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背羽  作者: KMY
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#1 背羽

 久しぶりにここに投稿してみました。今までに僕のここに書いた小説はことごとく完結していなかったので、すっかり忘れられていたかもしれませんぬ。今回は詩を書く感覚で書いてみたので、いつもと作風がちょっと違います……けど、文体はちょっと作風を引きずっているところがあります。あと、濁点の間違いも健在です。ごめんなさい。生まれてきてすいません。

 少年は、目撃した。

 人通りの少ない、いつも通りの晴れた朝。いつも通りに少年は、学ランを着て、自転車に乗って、学校に向かっていた。

 その途中にある泉盛寺せんじょうじ公園を通りかかったとき、少年はその光景から目を逸らさずにはいられなかった。

 フェンス越しに、見てしまったのである。

 その公園の中央にある、大きな桜の木。

 桜の花びらが、地面に舞い散っていた。

 その花びらとともに、羽根が舞っていた。

 下半身にはスカートを穿いていたが、上半身は裸であった。

 その少女の背中に――大きな翼が生えていた。

 その翼は、桜の木の下で、その木の半分はあるのではないかと思うくらいの大きさであった――。

 長髪の少女は、ちらとフェンスのほうを一瞥する。

 少年は慌てて、自転車のペダルを強く踏み、その場から全速力で離れた。

 見てはいけないものを、見てしまったような気がした。


 桜の花びらが、舞っていた。


 少年の名前は、泉佐野萩人いずみさのはぎと。西田中学校の3年生。

 しかしその日、少年は動揺していた。

 見てはいけないものを見てしまったという恐怖感が、只管しかん少年にはあった。


 中学校の始業式。

 泉佐野にとっては、3回目の経験となる。

 校長先生が舞台に立ってスピーチをするだけで、はい終了。

 そのスピーチの内容も、短い。

 一回目にこの始業式を経験した後は頭がキーンとなったものだが、3回目ともなるとさすがに慣れた。

 解散となった後、泉佐野は黙って体育館を出ようとする。

「ちょっと、泉佐野」

 後ろから声がしたので泉佐野は振り向く。

「龍造寺」

 龍造寺孟りゅうぞうじたけしが立っていた。龍造寺は眼鏡をかけている。

「今日、朝学校に来てから全然僕と話していないよ?今まではたくさん話していたのに挨拶ずらしてないよ?何があったの?」

 泉佐野は、答えに詰まった。


《――なぁ、あの事件のこと知っているか?》

《――それって、例の連続殺人事件?この辺で起きている》

《――ああ、被害者は全員打撲だってさ》

《――うわあ、怖い。何にぶつけたんだろうね》


 体育館を出た泉佐野は、空を見上げる。

 横の龍造寺が、もう一度泉佐野に尋ねる。

「本当にどうしたの?」

「……予感がする」

 泉佐野は、ぼやくように答えた。

「えっ?」

「……嫌な予感がするんだ」

「それって具体的にどういう?」

「分からない」

 弱い声であった。

「どうしてそんな予感がするんだ?」

 龍造寺が尋ねると、泉佐野は首を横に振る。

「今朝……、見てしまったんだ」

「何を?」

「……っ」

 泉佐野は、背中がぞくっとした。

 これを言ってはいけないような気がした。

「前までは気が強いのにどうしたんだよ急に。春休みに何かあったのか?」

 いや、違う。

 今朝。

 今朝、泉盛寺の公園で見てしまった。

 見てはいけないものを見てしまった。

「背中の羽……」

「羽?」

「いや……、何でもない」

 泉佐野はそう言って、走り逃げるように体育館の出口から何メートルか離れた校舎の裏口に入る。

「ちょっと、本当にどうしたんだよ……」

 龍造寺も、泉佐野の後を追う。


 教室の中では、再会を喜ぶ人々が話し合っていた。

 しかし、二人だけは静かであった。

「背中の羽がどうしたの?」

 隣の席の龍造寺が尋ねてくる。

「黙ってよ」

 泉佐野はそれだけ言うと、うつむく。

 龍造寺は、これ以上詮索してはいけないような気がした。

「分かった」

 それだけ答え、泉佐野とは反対側を向く。

 泉佐野は、机の木目を眺めていた。

「あれは……夢だよな」

 ぼつりと言う。

「なぁ、龍造寺……」

 龍造寺がこっちを向いてきたので、泉佐野は続ける。

「僕、今朝、この学校に来る途中に、泉盛寺公園でさ……」

 と同時に、教室のドアが開く。

 生徒たちは雑談をやめ、教室の前を見る。

 1年生のときからずっと2組を担任してきた桐生きりゅう先生、そしてその後ろには一人の少女が控えていた。

 その少女の横顔を見て、泉佐野は恐怖した。

 今朝見てしまった、あの少女を連想してしまった。

 体型も、あの少女を連想させるものであった。

 背は女子としては高い。泉佐野と同じくらいの身長である。

 スカートの色――今朝見た色と同じだ。尤も他の女子も同じ色だけど――。

「転校生です」

 女の教師、桐生先生はにっこりとそう言って、黒板に字を書く。

”瀬庭 美奈子”

 くるりと生徒たちのほうを向いた桐生先生は、明るい声で続ける。

「この転校生は、瀬庭美奈子せばみなこと言います。みなさん仲良くしてくださいねー。それじゃ、自己紹介して」

「はい」

 瀬庭と呼ばれた少女はそう返事をして、桐生先生の横に立って言う。

「瀬庭美奈子と言います。これから1年間だけですが、よろしくお願いしま

す」

 明るい声で、そう言ってぺこりと頭を下げる。

 ぱちぱち。

 生徒達の拍手の音。

「それじゃ、これから席替えをしますがその前に瀬庭さんは一番後ろに空いている席があるからそこに座ってください」

 桐生先生が言うと、瀬庭は「はい」と答えて、泉佐野のほうへ向かってくる。

 背中まで伸ばす長髪。目もかわいかった。

 その顔を見て、泉佐野はどきっとした。

 瀬庭は、その泉佐野の顔を見て、にっこりと微笑みかける。

「あ…よろしく」

 泉佐野が、誰にも聞こえないくらい小さな声で言った。

「ふふっ」

 瀬庭は、微笑する。かわいい顔であった。

 そして瀬庭は、座っている泉佐野とすれ違った。

 泉佐野の耳にふと、瀬庭の声が入った。

「……言ったら、殺すからね」

 泉佐野は、どきっとする。

 その心臓の鼓動は、明らかにさっきとは別のものであった。

 泉佐野は、思わず後ろを見る。瀬庭の背中。

 翼は生えていなかったが、それはまさに――今朝見たあの人。

 泉佐野はぼっかりと口を開けて、その背中を眺めていた。

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