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第98話 最後の戦い③

 現れた男は至って普通の男性であった。

 アノニマスのように、適当な男の肉体を借りて現世へと降りて(・・・)来た、もう一人の【制作者】だ。


「誰だよ、お前は……」

「僕はこの世界を創った者の一人」

「世界を創った……」


 司は目の前に現れた男の言葉に一瞬で血が頭に上る。

 こいつのせいで……こいつのせいで皆も、俺の両親も、由乃も!


「お前が全ての元凶か!」

「そうだと思う。君たちの世界で起きる現象は全て僕たちの責任だろう」

「このっ……」

「天野はどこに行ったの?」


 司と同じように男を睨み付けるながら円は抑揚の無い声でそう訊いた。


「彼女の魂は彼女の望む場所へと送り届けてあげたよ。さっきの化け物の勝利は彼女のおかげでもある。彼女の勇気に対して、せめてもの手向けだ」

「何が手向けだよ! お前がいなかったら、彼女は死なずに済んだはずだ!」

「でも僕がいなければ、君たちはこの世に誕生すらしていない。辛い気持ちは理解しているが、僕は君たちの生き死にまでには関与していない。運命だったんだよ、彼女の死はね」


 あまりにも穏やかな男の口調に、司は冷静さを取り戻していく。

 円も睨むような真似はやめ、司と並んで男を見据える。


「……お前の目的は何だ? 俺たちを処分でもしにきたのか? あっちの俺みたいに」

「そんなつもりはないよ。だって君たちは、僕の計画のキーマンなんだからね」

「キーマン……?」

「ああ。彼にゲームで勝つための、大事な駒の一つさ」


 また怒りが腹の底から込み上げて来る。

 司は憤慨しながら男に叫ぶ。


「まともなことを言うと思ったらやっぱクソみたいな奴みたいだな! 何がゲームだ! 何のことかは知らないけど、俺はお前の駒になるつもりなんてない!」

「だけど現実問題として、君は僕の計画通りここにいるし、もう一人の君は彼と戦っている。全て僕の思惑通りに事は進んでいるんだよ」


 司は剣を構え、男の背後に回り込もうと思案する。

 しかし男が右手を突き出すと、金縛りにあったように体が動かなくなってしまう。


「くそっ……何だよ、これは!」

「君では僕に勝つことはできない。残念ながらそうなっているんだよ」

 

 全力で抵抗するが、金縛りから逃れられない司。

 円はそんな司の姿を見て、男に特攻を仕掛けようとする。


「止めておいた方がいい。君の大事な人でも僕には勝てないんだ。君が僕に敵うわけないだろ? 抵抗は止めて、そこでジッとしておくといい」

「!」


 円も金縛りにあい、身動きできずに男を睨む。


「少し話をしよう。僕は君と争うためにここに来たわけじゃないんだ」

「話だと……殺すなら殺せよ! あんたを見ていると腹が立って仕方がない!」

 

 男は微笑を浮かべながらゆっくりと語り出す。


「僕たちはいくつもの世界を創った。少しずつパターンを変えてね」

「…………」

「僕たちは、幾つもの宇宙を創り出し、それぞれの世界にほんの少しずつ手を加えた。君もバタフライ効果と言う言葉は聞いたことあるだろ? 蝶の小さな羽ばたき一つが、後に大きな影響を及ぼすこともある。簡単に言えばそういう話だ。少し風を吹かすだけでも世界の結末は変わった。数ある宇宙の中では、人間が滅んでいたり、宇宙人が地球に侵略してきたり、猿が地球を乗っ取っているといった世界もあったね。とにかく、色んなパターンの宇宙を創り出して楽しんできたんだ」

「何が言いたいんだ」

「ゲームの話だよ。どんな風にすれば人間は面白い進化を遂げるのか。どうすれば人間は醜い争いを始めるのか。色々と試して彼と笑い合ったものだ。そしてこの世界は特別に手を加えた物でね。神の塔とステータスを与えるとどうなるか? 現実離れした力と敵を前に人はどんな行動をするのか、どう変化するのか。新たな試みの一つだね」


 やはりゲーム感覚でそう話す男。

 司はぐつぐつと怒りを煮えたぎらせていく。

 だが動くことができない。

 黙って男の話を聞いた。


「そしてもう一人の君がいる世界……一応名目としては、【召喚】されたことになっているが、実のところは世界を書き換えただけなんだけどね」

「世界を書き換えた?」

「うん。世界の上書きだね。君たちが共有している世界観の上から、ゲームの世界に書き換えたんだよ。それがもう一人の君が現在いる世界だ」


 まさに神だ。

 司は男の言動にそう思うしかなかった。

 そして同時に絶望感が胸を支配していく。

 どうあがいたところでこいつに勝てるわけがない。

 次元が違う。

 漫画の世界の住人が、作者を殴るぐらい無理がある。

 

 だが苛立ちは募るばかり。

 歯を食いしばりながら話を聞く司。


「……僕以外にもう一人世界を創る【制作者】がいるんだけれどね、僕は彼の鼻を明かしてやりたいと考えているんだ」

「……どういうことだ?」

「いまもう一人の君と戦っているはずの彼。その彼にとって、とびっきりのサプライズを用意しているんだよ。その為に君にはここまで来てもらったんだよ」

「来てもらったって……来たのは俺自身の意志だ! 世界の……円のためにここに来た!」

「それも全て僕の計算の内なんだよ。君たちは僕の手のひらで踊っていただけなのさ」


 クスリと笑い、男はそう言った。

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