第43話 ガリア
全てのモンスターを倒し、【結界】を張り直し、城や石造りの建物がいくつか壊れてしまったダラデニー。
死んでしまった人も少なくなく、亡骸にしがみ付き、涙を流している人も大勢いた。
そんな中、町の広場ではダラデニー王がイライラしながら町の人たちを殴る蹴るの暴行を始める。
「くそっ、くそっ! 俺様の町に攻めやがって……ふざけんなー!!」
「ぐふっ!」
大人の男性が腹を蹴られて蹲る。
皆ダラデニー王の八つ当たりに怯え、ガタガタと震えていた。
「お前たち、このままでいいのか?」
「し、仕方ないじゃないか……俺たちはこれからもこの町で……あの王の下で暮らしていかなければならない。弱い者は守られながら生きていくしかないんだ」
仮面を被ったままの俺は近くにいた男性にそう訊ねてみるが、恐怖に縮こまり弱々しくそう言うだけであった。
「だが、あいつはお前たちを守るようなことはなかった」
「…………」
そう。
ダラデニー王は包囲された城に戻れず、そして住民を守るようなことはせず、自分が生き延びるために人々を盾にしていた。
他人のことよりも自分のこと。
人間なのだから自分が大事なのは仕方ないとは思う。
しかし人の上に立つ者は、自分の下にいる人間を守るべきじゃないのだろうか?
それこそが王の役目、リーダーとしての役目だと、俺は思う。
弱者を守るために強い権力を与えらているんだ。
その力は、人々を守るために生かさなければならない。
なのに自分の命を生かすことばかり考え、他人の命を顧みようともしない。
そんなのは、王として大いに間違っている。
「今動かなければ、変わらない日々がこれからも続く。変わることなく王の機嫌を窺い、勘に障れば殺される。いいのか? あいつはお前たちのことを守ってはくれないんだぞ」
「そうだ……思いやりの心もねえあんなやつのために、人生を無駄にすることねえよ。俺たちだっている。立ち上がろうぜ」
「…………」
俺の言葉にも勇太の言葉にも町の人たちは俯いたままであった。
しかし、俺たちの下へと近づいてくる女性が一人だけいる。
それは――桃色の髪のフローラであった。
「私、あいつのことを許せない。私によくしてくれたおじさんも、さっきオークに殺されたわ。あんなクソみたいな男を守って! それに……」
周りはシーンとし、フローラの言葉だけが周囲に鳴り響く。
フローラの言葉を聞いたダラデニー王が、口元をヒクヒクさせながらガリアに命令を下す。
「おい! あの女を連れて来い!」
王の言葉に従い、ガリアがこちらへと歩いて来る。
周囲にいる人たちはガリアから逃げるように左右に避け、俺たちとガリアを繋ぐ大きな道ができた。
だがフローラだけは逃げるようなことをせず、目元に涙を溜めながらダラデニー王を睨み付けている。
俺たちはフローラを守るように、彼女の前に立ちガリアと対峙した。
「どけ」
「どくかよ、アホ」
「おう! この女には手を出させねえ!」
手に持っている武器を振り上げるガリア。
勇太は剣でそれを受け止める。
「お前正気かよ!? あんな野郎の言いなりなのかよ!」
「それが……俺に定められた生き方だ」
二人の剣戟の音だけが広場に響き、固唾を飲み込んで町の人たちは見守っていた。
「何が定めだ! 人間はな、自由でいるべきなんだよ! 他人がどうのこうの言おうが関係ない。自由に生きることこそが大切なんだ! お前の定めなんて……誰が決めたんだよ!」
勇太の力強い一撃に、ガリアの剣は手元を離れ地面に突き刺さる。
「…………」
自分の痺れる腕を見下ろし、微動だにしなくなるガリア。
「どうした! 何をやっているんだ、ガリア! さっさとそいつらを殺して、その女を連れて来い!」
ビクッと反応を示すガリア。
一瞬の迷いがあるも、ズンズンこちらに近づいて来る。
俺は前に出て、そんな奴の腹部に拳を叩き込んだ。
「ぐはっ!」
もちろん手加減はしている。
だが鎧に大きな穴が開き、その場に膝をつくガリア。
兜が頭から落ち、その素顔を見せる。
頭部に髪の毛は生えておらず、生々しい傷跡が多く残っており、目を逸らしたくなるような顔。
由乃たちは視線を逸らし、彼を見ないようにしている。
「その顔は?」
「……王のために働かなければ」
「…………」
虚ろな瞳で言葉には力がない。
「ガリア……」
フローラは涙をボロボロこぼしながら、悲痛な表情でガリアの顔を見つめていた。
「知り合いなのか?」
「彼は私の幼馴染です……きっとガリアは王に洗脳されたんです! 以前は優しい物静かな人だったのに……あんな顔になって」
直視しているのが辛くなったのか、顔を逸らし口元を抑えるフローラ。
そうか。こいつも被害者だったんだな。
王に酷い暴力を受け、いつしか彼に付き従わなければならないほどまでに調教を受けたんだ。
洗脳……一番強い騎士を自分の思い通りに動かすために、ガリアを洗脳したのか。
圧倒的な暴力を持って、非情なまでに追い詰めて。
どこまで非道な男なんだ、あいつは。
俺の腹の中で、怒りの感情が暴れ回る。
「……今からお前を解放してやる」
「…………」
ガリアはダラデニー王に心を支配されている。
逆らうことを許されず、命令に従うことを強要されているのだ。
ならば、俺が彼の心を救ってやればいい。
【合成Ⅲ】――
その新しい能力は、スキルとスキルを合成することができるというものだ。
「【合成】」
俺は【心術】と【回復術】を合成させ、右手をガリアの頭に向ける。
あらゆる怪我を癒す【回復術】の禁呪。
それは失われた部位さえも再生させることができるらしく――ガリアの顔の傷は瞬く間に治り、頭からは茶色の髪が面白いぐらい生えそろっていく。
そして【心術】と【回復術】の力で、縛り付けられている心を元に戻し――本来の彼を呼び起こす。
「これは……」
ガリアは自分の顔をペタペタと触ると自分の変化に気づいたのか、立ち上がり俺に頭を下げる。
「ありがとう。礼を言う」
「ガリア……?」
「フローラ」
奇跡を目の当たりにいたかのような――フローラは目を点にさせガリアを見つめている。
ガリアもフローラを穏やかな顔で見つめていたが、くるりと振り返り、憤怒の表情となりダラデニー王を睨み付けた。
「王よ……覚悟なされよ!」
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