第42話 オークキング②
包丁が今にも勇太の頭に落ちそうになっている。
後1秒にも満たない時間で勇太の首を切り落とされるであろう。
ここから距離はまだある……間に合わない。
しかし俺は焦ることなく、冷静に判断する。
俺にできること――今この瞬間に勇太を助ける方法――
あった。
ブランから手に入れた能力――【閃光】が。
「【閃光】」
スキルを発動させた瞬間、世界の時間がスローモーションのようにゆっくりとしたものに変化する。
音が遠のき、世界の色が灰色に変わる。
包丁の動きがじっくり観察すると動いているのが分かる程度。
俺はそのゆっくり動く時間の中で全力で走り出す。
ゆっくりの中で速く動ける。
俺だけはこの時間の中で普通に動けるのか。
一瞬でオークキングとの距離を詰め、包丁を蹴り壊そうという思考をした瞬間だった。
――時間が加速する。
色が戻る。音が聞こえてくる。
通常の時間の流れに戻って行く。
ある一定の時間しか効果がないのであろうか?
それとも、攻撃するという行為、意志を持つことによってスキルの効果が遮断されるのであろうか?
どちらかはまだ判断しきれないが、とにかく【閃光】のスキル効果が終わる。
バキンッ! と俺の蹴りで砕け散る包丁。
オークキングと勇太が俺の方へ視線を移す。
「……誰だ?」
「ただの助っ人だ。こいつらと町の人々のな」
オークキングはくつくつ笑いながら、こちらに体を向ける。
「仮面の戦士様! 気をつけて下さい!」
由乃が大きな声で俺にそう言う。
仮面の戦士様って……なんだよその言い方は。
俺は心の中でため息をつきながら、オークキングが反応できない速度で拳を突きだし、相手の腹に触れる。
「?」
【弱化】――これでオークキングの戦闘力は低下したはずだ。
俺は勇太に手を差し伸べ、ガバッと身体を起こしてやる。
「おわっ!」
「諦めるな。死ぬその瞬間までは」
「……ああ」
「おい、お前」
オークキングは目の前で背を向ける俺に怒りを滲ませながら口を開く。
「そんな隙だらけでいいのか?」
「隙だらけなのはお前の方じゃないのか?」
「何?」
オークキングの背後には――迅い動きで円が詰め寄っていた。
しかしオークキングは不敵に笑うだけで、後ろを向こうともしない。
「ぐはは! この女の攻撃は通用し――ないっ!?」
ズバッと背中を切り裂かれるオークキング。
痛みに顔を歪め、そこでようやく後ろを振り向く。
「……なんで?」
ポカンとするオークキング。
勇太も勝機と踏んだのか、剣を手に取り奴の背中へとズブッと突き刺した。
「ぬあああああああ!?」
元々どの程度の強さがあったのかは分からないが……【弱化】は十分に発動しているようだな。
由乃も磯さんも素早い動きでオークキングへと接近する。
俺はクロスボウを取り出し、周囲の敵を一気に蹴散らしていく。
「んなっ!? 何だとぉ!?」
ボボボボボボッと凄まじい速度で四散していくオークたちの姿を、オークキングは驚きに驚く。
地面に落ちている槍を拾い上げ、こちらにその矛先を向けてきた。
「お、お前は何者だ!?」
「言っただろ。ただの助っ人だと」
俺を最大限警戒するオークキング。
だが周りから勇太たちが一斉に襲いかかった。
円の剣に背中を斬り付けられ、磯さんの槍に足を貫かれる。
由乃のハンマーが腕の骨を粉砕し、勇太の剣が胸を切り裂いた。
「がぁあああああ!! さ、さきほどまでの強さとは段違い……どうなっているんだ!?」
「この戦いの中で俺たちが成長したのかもな」
確かに成長はしているみたいだけど……【弱化】のおかげだからね。
俺はそんな口を挟むことなく、勇太の剣が光に包まれるのを眺める。
「【聖剣】――どりゃああああ!!」
「な……なんで――」
下段から振り上げられた【聖剣】は、オークキングの股から頭の先まで縦一文字に切断する。
二つの音を立てて崩れ落ちたオークキングは、砂となって消えていく。
勇太たちはその場に膝をつき、ぜぇぜぇ息を切らせている。
安堵の表情を浮かべながら、俺の方に視線を集めていた。
「サ、サンキューな、仮面の戦士」
親指を立てる勇太。
俺は「別に」と短く返事だけをしておく。
「だがまだ終わりじゃない。オークはまだ残っている」
遠くから聞こえてくる騒ぎ声に、勇太たちはサッと起き上がり走り出した。
「オークキング倒して終わりだと思ってました」
「俺もそう思っていたがな。だが、どうやら頭を潰しても終わりじゃないようだな」
俺の隣で併走する由乃がニコッと笑いながら言う。
「仮面の戦士様。ありがとうございます。あなたのおかげでこうして死なずにすみました」
「すみました、というのは、全部終わってからにしろ」
「……はい!」
由乃は俺の言葉に首を縦に振り、全力で走る。
俺たちはガリアが戦っている場所まで駆けつけ、まだまだオークが残っているのを視認した。
町の人たちが襲われ……そして追い詰められたダラデニー王もいる。
「お、お前たち! 俺様を守れ! 盾になるんだ! 俺様のために死ねぇ!!」
真っ青な顔で、住人たちにそう命令するダラデニー王。
俺は苛立ち、頭でも殴ってやろうかと考えるが……町の人たちはおずおずとその命令に従うかのように、ダラデニー王を取り囲む、盾代わりになろうとしていた。
俺は呆れ返りながらも、クロスボウをオーク目掛けて乱射を開始する。
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