リティ、パーティについて考える
「……いた。君だな」
クーファとリティが寝ている病室に、冒険者達が入ってきた。騎士団の者が同行しているので警戒には値せず、二人が迎え入れる。
見知らぬ相手だとリティは思ったが、そうではなかった。以前、グランドシャークに兄弟パーティが殺されたと告げにきた者達だ。それなりの風格で、彼らもまた実力者だとリティは見抜く。
「突然の訪問で申し訳ない。俺達は"風来坊"というパーティを組んでいる冒険者だ。今日はお礼を言いに来た」
「風来坊……。"風の旅人"と兄弟パーティの方々ですよね」
「知ってるのか?! そこまで知名度もないはずだが……」
「いえ、そうではなくて」
リティがあの場に居合わせた事を説明すると、リーダーの男が納得した。彼らの用件は二つ。一つは敵討ちをしてくれた件だ。これについてはリティが意図したものではないから、さすがに恐縮する。
「褒められた感情ではないが、胸の内がスッとした。連中のいかれ具合を考えれば、俺達が下手に動くと危なかったかもしれん」
「目撃者の証言を元に、奴らを訴えるつもりだったがな。つい感情を優先させちまって……奴らに揺さぶりをかけたくなった」
「今にして思えば、俺達が殺されていた可能性があったもんな……」
風来坊のメンバーが口々に真相を語り始める。彼らが狙われて殺されていたという点においては、リティもロマも同感だった。
黙って騎士団に通報していればよかったのだ。彼らの行動が結果的に、グランドシャークの暴走に繋がったのだから。もし水面下で進めていれば、速やかに彼ら全員を拘束できていた可能性はあった。
「ふーん……。まぁ、その目撃者がいたのは幸いだったわね」
「あぁ、その子のおかげだよ」
「その子?」
ロマの問いかけに、リーダーは少女を指して答える。ロマが果物の皮を剥いている横で、片時も目を離さなかった少女だ。
グランドシャークに同行していた少女なら確かに、とロマは考えるが立ち止まる。
時系列も辻褄も何もかもが合わないからだ。
何せこの少女はクーファと一緒にいたので、風来坊と接触する暇があるはずもない。そんな疑問を察するかのように、リーダーが一人の人物を紹介した。
「この男は"風の旅人"のメンバーだ。他の人間は殺されてしまったが、こいつだけはかろうじて無事でな」
「初めまして……。そこの少女が瀕死だった俺を癒やしてくれたんだ。おかげで時間はかかったが、動けるようになってね」
「え……この子が?!」
クーファがそうリアクションすると、少女がお辞儀をする。
「彼らに見つからないように回復してくれたんだよな。ホントすごい治癒能力でさ……。奴隷らしき扱いを受けていたが、グランドシャークの奴らは利用しなかったのか?」
「どうなんですか?」
「叩かれてばかりでした、ご主人様」
ジョズーが現れた時とは打って変わって、少女は冷静だ。自身への虐待の事実も率直に話す。
これにより疑問が氷解した。ジョズーは奴隷の少女が密告したと勘違いして襲ってきたが、当てが外れていたのだ。
そして、その事実を一切知らないまま死亡した。どこまでも救いがなく愚かだと、全員が同じような感想を抱く。
「あなたは……」
「はい?」
「いえ、何でもないです」
改めてクーファが少女に身元を問おうとしたがやめた。グランドシャークのワードで取り乱したように、またそのような事態になるかもしれないからだ。
彼女が何者であっても、クーファの意思は変わらない。かつての自分と同じ思いをさせまいと、少女を守ると己に対して誓う。
「さて、次は我々の番か。では質問いいかな?」
「騎士団の方ですね。私にわかる範囲であればお答えします」
「白いローブをまとった人物を王都内で見かけた事はないか?」
「はぁ……白いローブの人物ですか。すみませんが、わかりません」
「おっと、足りなかったか」
これだけではダメか、と反省した騎士が改めてリティ達に問い直す。
「そいつがグランドシャークのメンバーの一人、ギリーザと共に消えたのだ。魔力の残滓がなかったことから、魔法の類ではない。冒険者ギルドに照会を依頼したが、該当する人物はいないそうだ」
「そんな人がいるんですか?! すごいですね!」
「そうだろう。我々も頭を抱えてなぁ。一応、王都内はくまなく探しているが注意してくれ。恐らく相当な実力者だろう」
「魔法じゃないとすれば何ですか?! スキル?」
「いや、だからそれがわからんと言ってる……」
「リティ……」
ロマに制されて、リティは大人しくなる。事の重大性よりも食いつきがよく、騎士も半ば呆れ顔だ。
気を取り直して、騎士が引き上げの空気を演出する。
「とにかく、もしそれらしき人物を発見しても戦わないでほしい」
「はい、わかりました」
「ユグドラシアに続いてグランドシャーク事件だ。王都内がごたついているから、今は大人しくしていたほうがいいだろう」
騎士達と風来坊が立ち去り、ロマが果物を差し出す。真っ先に身を乗り出したミャンが一つ、果物をかじる。
「みゃん! みゃみゃん!」
「もう、食い意地ばっかり……」
変わらない調子のミャンのおかげで、リティも落ち着いて考えを整理できた。先のジョズー戦でリティに思うところがあったからだ。
この先、彼のような強敵と相対すれば自分一人ではどうにもならないかもしれないと感じている。
あのユグドラシアでさえパーティを組んでいるのだ。更にはレッドフラッグや風来坊と、実力者でもまとまって行動する者は多い。
果物に手をつけるクーファと少女、ロマを見てリティは話を切り出そうか悩む。
「あの、皆さん。皆さんは冒険者を続けますか?」
「いきなりどうしたの? もちろんよ」
「わたしも、一応……」
「そうですか……」
歯切れが悪いリティに業を煮やしたロマが、距離を縮める。びくりと体を震わしたリティの所作が彼女らしくないのだ。
ハッキリと言わせるために、ロマも相応の態度を示した。
「リティ、何でも言って」
「いいんですか? では……お二人とも、私とパーティを組んでくれませんか?」
「いいわよ。クーファちゃんは?」
「わ、わたしが!? リティさんと!」
大袈裟に布団を跳ね除けたクーファ。その際に少女にシーツが被さる。
「ロマさんはいいんですか?」
「むしろ私からお願いしたいくらいよ。というか今までずっと行動してたじゃない」
「そうですよね」
「クーファちゃんは?」
「わたし、が……」
シーツを体に巻き付けた少女を見てから、クーファが思い悩む。彼女はまだリティと並び立てると思っていないからだ。
リティはどちらかといえば憧れの存在に近い。そんなリティからの誘いに素直に応じられるほど、クーファの肝は据わっていなかった。
「……クーファさん。あなたとアーキュラさんの力が羨ましいんです。私には魔力があまりないですし、戦いの幅も限られています」
「羨ましい、だなんて」
「ですから……助けてくれませんか?」
「わたしなんかが、リティさんを……」
コバンザ戦では無茶をして騎士団に助けられたのだ。アーキュラに見放されると覚悟していたところだったので、クーファに即答できるはずもない。
しかし歩みを止めれば、それこそアーキュラに見放されてしまうとも考えている。
「クーファちゃんはリティと同じ3級よね。私もなんだけど……なんていうかさ。お互い遠慮はやめましょう?」
「遠慮というと……?」
「例えばまず敬語とかね」
「でもロマさんは、わたしより歳が……」
「……そうね。リティが出来てない事を求めるところだったわ」
調子を崩したロマだが、言わんとしてる事は伝わっている。クーファは意を決して、リティの申し出に対する答えを出した。
「わたしでよければ……」
「どうもです! 心強いですよ!」
「あ、足を引っ張るかもしれませんが……」
「私のほうが助けられるかもしれませんよ」
「……え」
「クーファさんとアーキュラさんのほうがずっとすごいですから」
この瞬間、クーファはやっと理解した。リティは自分を対等に見てくれていて、一方的に憧れを抱いて距離を置いていた自分を改めようとする。
リティの屈託のない笑顔が、嘘偽りのない言葉だという事を後押ししていた。
しかしクーファはアーキュラを気にかけている。これが彼女にとって望ましくない決断であれば意味がないからだ。
「ま、いいんじゃないー?」
機嫌を伺うように見ていたクーファへアーキュラが答えた。軽い言動のせいで真意をくみ取りにくい相手なだけに、クーファの不安が完全に消えたわけではなかったが。
「それじゃ、パーティ結成でいいわね。さっそくギルドへ登録しに行きましょう」
「パーティ単位だと昇級試験が楽になりますね」
「そうね。でもその前に受けられるだけの実績を積まないと」
「パーティ名もですね」
リティの何気ない発言にロマが思考停止する。生真面目な彼女にとって、これこそが難関だった。
名前の由来、将来性、縁起、様々な概念を考慮した上で決定しなければと考えているのだ。グランドシャークなど、彼女にとっては論外である。
「まぁ……そうね」
「3人で頑張る隊はどうですか?!」
「みゃんみゃーん!」
「すみません! 3人と1匹で頑張る隊ですね!」
「みゃあん!」
加えてリティのネーミングセンスが最悪だという事実が判明して、早くも前途多難を感じたロマであった。
* * *
「おそようッ! 諸君! カタラーナはいるか?!」
「はいはい、いないわよ」
王都の冒険者ギルドに突如として現れた男を、カタラーナが気だるそうに出迎える。
ブーメランパンツの他にはリュックを背負い、マントと覆面しか身に着けていない。彼女でなければ不審者扱いしても仕方がない姿だ。
常にこのようなコスチュームでいるせいか、肌は日に焼けている。
「あの、カタラーナさん……その方は?」
「こんなのでも本部の冒険者だから安心して」
「そうなんですか。それならいいですけど……」
「ハッハッハッ! 警戒心があってよろしい!」
ギルド職員に不信感を抱かれても、男は機嫌よく笑う。
居合わせた冒険者達も、彼から目を離さない。
防具どころか服すら着ていない彼への感情は察するに難しくない。
「なんだよ、あいつ……ただの変態だろ」
「ただでさえ冒険者のイメージがやばいんだから、やめてくれよ」
「そこなのだよ、諸君!」
「ひぃっ!」
高速で割り込んできた男に、冒険者達ががっしりと肩に腕を回される。その力たるや、4級の彼らでは振りほどく事も出来なかった。
「後輩にうざ絡みしてないで、とっとと用件を話しなさいよ」
「こういうスキンシップも大切だろう? それがわからないから君は嫌われる」
「はいはい、嫌われ者同士ね」
「実はユグドラシア、グランドシャークの件で本部のほうも荒れてな」
各冒険者ギルドと本部は常に連絡を取り合っている。伝達手段としては専属のハーピィであったり、彼のような韋駄天が主な役割だ。
本部からファクティア王都まで、この男なら数日も要さない。
「ここ王都でも冒険者への依頼が減ってるだろう? さすがにまずいと判断して、しばらくは昇級試験を取りやめようと言い出す者まで出る始末だ」
「それは後輩がかわいそうね」
「そうだろう? だから本当に芽がある者だけを上に引き上げようという結論が出た」
「ユグドラシアみたいな連中を特級にまで上げてしまったものねぇ」
「私も胸が痛む思いだ。そこで今回は準2級昇級試験に挑む者達を極めて限定した」
男がリュックからリストを取り出してカタラーナに渡す。そこに刻まれた者達もそうだが、問題はその数だった。
「いや、たった3人って……」
「合格者0を叩き出した君が驚くほどか?」
「で、なんでこの子達なの」
「3人とも実力に裏打ちされた実績がある。だから最終確認を行いたいのだ」
男が依頼が張り出されている掲示板から紙を取る。それを満足そうに確認してから、カタラーナに手渡した。
「3級にはもってこいの依頼だ。これらを彼女達が達成した時に、君から準2級への昇級試験を案内してやってくれ」
「なるほど、単純な戦闘能力だけじゃ解決できない依頼ね。わかったわ」
「では試験場所と内容だが……」
特級同士で話が進む中、周囲にいる冒険者達はただ見届けるしかなかった。
すでに彼らの実績を飛び越えた話の内容であり、何より特級特有のオーラをひしひしと感じている。
「では諸君! たっぷりとロマンしてくれよな!」
片手を上げて挨拶した後、男は休む事なく外へ出ていった。冒険者ギルド本部にはまともな冒険者がいないという噂の真偽を、全員が知る。
男のコスチュームからして、まともな人間では無理なのかと半ば諦めさせかねない空気だった。




