リティ、召喚師と戦う
支部長一派との決闘は、召喚師ギルド内にある決闘場で行われる。
召喚獣同士を戦わせたりなどの用途であるため、頑丈に作られていた。天井が吹き抜けになっており、その広さは外観からは想像もつかないほどだ。
「ずいぶんギャラリーが多いわね」
「隣国からの研修生や冒険者達に来ていただきました。あなたとしても、望むところではありませんかな? カタラーナ様」
支部長が下卑た笑みで、カタラーナを挑発する。それよりもカタラーナは気になっていた。支部長サイドの人数である。
「あなた、味方が一人しかいないってやばいわね」
「なんて事を! 支部長にはこの私、マクリトがいれば十分です!」
「この人望はさすがに泣けるわ」
先日の召喚術を手伝った教官達はカタラーナ側にいる。少し前までなら、彼らは支部長側にいただろう。しかし、夜通しの共同作業によってカタラーナ達と教官達の絆は深まった。
クーファの召喚成功に全員が歓喜して、リティの召喚獣に脱力する。クーファは数日の特訓を行った。そして全員が目を見張るほどの成長を遂げたのである。
結果的にカタラーナの見込みは当たっていた。クーファの才能が本物だと、全員が認めたのだ。
「カタラーナ様、ここには冒険者達もいます。つまり万が一、そちらが負ければ本部の失墜にも繋がりますな?」
「冒険者の中には、それを期待してるのもいるでしょ」
「ご自分の人気をよく知っておられる。クックックッ……」
「いい機会だ。これであの女が懲りれば、本部から別の人間が来る」
カタラーナによって不合格にされた者、試験すらさせてもらえなかった者がこぞって集結している。
合格者0を連発した彼女の人望は、この場において支部長以下だった。更にはここにいる研修生、当然ながら全員が隣国から来た召喚師志望だ。
まだ召喚獣を決めかねている者や召喚について純粋に学びにきた者。つまり彼らにとって支部長側やカタラーナ側の両者とも、この国における召喚師の顔といってもいい。
が、そんな彼らがどうしても目を離せない存在がいる。
「みゃーん!」
「よしよし」
リティが頭や顎を撫でてる謎の生物である。リティの腰に巻きついて、自由なスタイルだ。
カタラーナ自慢の冒険者が召喚したのだからという期待と失望が、彼らの中で渦巻いている。
「ふむ、そちらのリティといいましたか。調べさせていただきましたよ。冒険者になって日が浅いにも関わらず、凄まじい戦果ですな」
「褒めていただいて嬉しいです!」
「しかし、その幻獣はいただけませんな。ミャーンなど、弱小すぎて戦力になりません」
「そんな事ないですよ。この子はすごいんです」
「みゃん!」
支部長のダメ出しにも、リティは素直に対応する。こればかりは支部長の言う通りだと、カタラーナ側の者も頷かざるを得ない。
しかし、カタラーナはここにきて疑問を抱いた。契約や契約違反の有無、何よりリティとミャーンが通じ合っている事に。
特級冒険者として召喚についても並み以上の知識はあったが、こればかりはわからなかった。
「当ギルドでは優秀な人間を求めています。何故なら、優秀な人間が集まれば認める人々も出てくる。
それが結果的に冒険者ギルドや召喚師そのものの発展にも繋がります。更にその過程で有力者とご縁をいただければ、多額の融資も見込めます」
「一言で言いなさいよ。私利私欲しか考えてませんってさ」
「人聞きの悪い事を。少なくとも冒険などといって、未踏破地帯に死にに行くよりは健全だと思いますがね」
支部長の吐き捨てるような言葉に、リティはピクリと反応した。冒険者は死にに行くのではなくて、冒険に行く。その前提が揺るがないリティにとって、支部長の言葉は理解し難かった。
「ま、それはさておき。リティ君、当ギルドの為に働く気はないかね? もちろん優遇は約束する」
「遠慮します」
冒険をはき違えた発言をした支部長に、リティが好感を持つはずがない。短く断ると、支部長はかすかに歯ぎしりをする。
「では、こうしましょう。今から行う勝負にて、あなたが負ければ従ってもらいます。勝てば召喚師の称号を進呈しましょう」
「称号……!」
本来であれば召喚と契約を行った時点で召喚師の称号は貰える。しかしリティは正式な手続きをして、行ったわけではない。
称号などなくても困らないと普通の人間なら考えるが、そこはリティだ。
「それなら受けます!」
「よろしい」
支部長がしてやったりと笑みを浮かべる。ここまで支部長が強く出られる理由、それは支部長派の教官マクリトがいるからだ。冒険者達はリティの即決の後で、彼について思い出す。
「あー、あいつってもしかしてマクリトか?」
「あの"近接殺し"の?」
「しばらく見ないと思ったら、教官になってたのか」
冒険者達がマクリトについて囁き合う。やや角ばった顔をした壮年の男マクリトが、それに耳を傾けて得意気に笑う。
支部長は目でマクリトに促し、試合場へ行けと指示した。
「少女よ、君の相手は私だぞ」
「はいっ! よろしくお願いします!」
円形の試合場へとリティが上がり、武器を吟味する。彼女は武器を一つも身につけていない。
マクリトはリティを侮った。リティの事は支部長から聞いていて、その戦い方も彼との相性はいい。だからこそ、笑っていられるのだ。
「私はプライドの高い男でね。現役時代は、やっかんできた冒険者を何人も叩き潰したよ。口先だけで何の実力もない連中だった」
「そうですか」
「君はどうなんだ? 確かに功績は認めるが、たまにいるのだ。初めだけ勢いがついて失速する奴がね。弱い冒険者によって、冒険者の評判が落ちるのは耐えられない」
「信用されないと、誰も依頼してくれなくなりますのでわかります。マクリトさんは深く考えているんですね」
てっきり食ってかかってくると思っていたリティの態度に、マクリトはやや調子を崩した。
遠回しに彼女を弱者扱いしたのだ。怒って当然だと考えたのは、マクリトだけではない。研修生や冒険者達の間で和やかな笑いが漏れる。
挑発に失敗したマクリトは怒りを露わにして、召喚を始めた。
「支部長が君を買っているというのに! 君は! まだまだ子どもなんだな! そこにいる女よりも、支部長のほうが聡明な考えを持っている!」
「どちらも間違ってないと思います! でも支部長の考え方には賛成できません!」
マクリトが杖を振るって動作を終えると、試合場の石畳に魔法陣が浮かぶ。
「吹き荒れろ! 風の精霊フェーンッ!」
魔法陣の中心から突風が起こった直後に出現したのは、小太りで丸い顔をした精霊だ。それが宙に浮き、所々に竜巻を帯びている。その困り顔は、人によっては苛立ちを誘発させるだろう。
「吹かれて飛んでフェーンふぇん。ご主人様、何用で?」
「あそこにいるガキが敵だ。やるぞ」
「はいはいふぇん」
その精霊を見た瞬間、リティは走った。が、そんなリティを横から直撃したのが暴風だ。バランスを崩して飛ばされたリティは、暴風に遊ばれるようにして竜巻に乗ってしまった。
「ひゃあああああぁ!」
「みゃぁぁん!」
「召喚師に召喚を許すな、鉄則だぞ! 少女よ!」
教官らしい発言だが、マクリトはすでに必勝パターンに持ち込んでいた。風の精霊フェーンによる竜巻、暴風で相手を無力化する。その上で次の手だ。マクリトがまた杖を振るう。
「フェーンよ! ウインドカッターを撒けッ!」
「はいはい、わかりましたふぇん」
風向きの反対方向から、風の刃が襲ってくる。暴風で身動きが取れない中で、ウインドカッターで仕留める。これが現役時代からの彼の戦術だった。
大体の相手はここで終わるので、マクリトはすでに勝った気でいる。だが――
「ていやぁっ!」
「な、なにっ!」
剣を持ったリティが、爆炎斬りでウインドカッターを相殺する。その反動でわずかな間ながら、移動したのだ。
どこから剣を、という疑問は次のウインドカッターを迎撃したところで解消された。
「みゃああんっ!」
ミャーンが大口を開けて、そこから出てきたのは片手槍だ。そして最後のウインドカッターを爆破して移動した先が地上だった。
そこで石畳に片手槍を突き刺して、片手で持って暴風に耐える。ミャーンの口に片手剣をしまって、今度は片手斧だ。斧を持った手を突き出すと、槍を軸にリティが暴風に煽られてくるくると回りだした。
「何をしているんだ?! フェーン、奴に止めを刺せ!」
「あ……」
フェーンが声を出したと同時だった。暴風で凄まじい回転力を得たリティが、槍から手を離す。
そこから飛んできたリティの両足が、マクリトの顔面に直撃する。その威力たるや、マクリトを試合場外にぶっ飛ばすほどだった。顔面を血まみれにして、ぴくぴくと体を痙攣させたまま動かない。
「ふぇぇん? 終わったふぇぇん? じゃあ、さよならふぇん」
風の精霊フェーンが、竜巻と共に消えてしまった。暴風は止んだが、リティも明後日の方向へと飛んでいる。観客達の前で起き上がると、マクリトの気絶を確認した。
「召喚師に召喚を許すな、ということは召喚師を倒せば終わるんですね。勉強になりました」
勝利の余韻を感じてなさそうなリティが、しっかりと立つ。槍を取りにいき、再びミャーンの口に仕舞った。
あれだけの暴風なのにウインドカッターは反対方向から飛んでくるのを見て、リティは思いついたのだ。暴風よりも重く速いものであれば、一瞬なら逆らえると。
「ミャーン、二人の勝利ですね」
「みゃんみゃーん!」
「でも、召喚獣がいなくなってしまいましたね」
体をくねらせて左右に振るミャンの勝利のポーズだ。リティはミャンを撫でてから、支部長のほうへと向く。完全に沈黙した支部長からのコメントはなかった。
代わりにカタラーナがリティに返答する。
「術者が戦闘不能になれば、召喚獣に戦う理由がなくなるからね」
「でもあれって魔力は使ってるんですか? どうもそんな気がしません……だとしたら、召喚師はすごいジョブです」
「そう、魔術師と違って契約条件さえ満たせば力を使い放題なのよ。彼がフェーンとどんな契約をしていたかは知らないけどね」
「またまた勉強になりました……」
勝ったというのに、まだ何かを吸収しようとしているリティを初見で理解するのは難しい。研修生や冒険者は唖然とするが、支部長は打ち震えていた。
なんとしてでも欲しい、彼女は間違いなく当ギルドの看板となる。ミャーンとの連携は、彼を魅了してしまったのだ。




