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リティ、適正な召喚獣を知る

 召喚師(サモナー)ギルド内には召喚に関する本が無数にある。召喚に必要なアイテムは一通り揃っており、ここで召喚と契約に成功すれば召喚師(サモナー)の称号を貰える。

 しかし、今となってはそれに不満を持つのがカタラーナだ。一室を借り切って大量の本を物色している。


「支部長辺りがきちんと見定めていればねぇ」

「あ、あの。どうして、私も3級に?」

「クーファちゃんは召喚獣を失ったでしょ」

「はい……私、役に立ってなかった……」

「うん。正直、不合格にしようかなと思った」


 それを聞いたクーファにショックはなかったが、ますますわからなくなった。仮に召喚と契約に成功しても、3級としてやっていける自信がない。

 何かにつけてガリエルが何とかしてくれたので、クーファ自身に局面を乗り越えるだけの知識もなかった。

 冒険者にしても、野たれ死ぬかどうかのところで行きついた選択なだけだ。思い入れも情熱もない。


「クーファちゃんみたいなのにウロウロされても迷惑だし、実際リティちゃんに助けられただけよね」

「は、い……」

「まぁそれはそれとして。素質よ、素質」

「そしつ? 私に?」


 カタラーナは小さく息を吐いて、本をテーブルに置いた。本を熱心に読んでいるリティの横に、クーファも座らせる。


「あなた、聞けば何の知識もなく召喚術を成功させたのよね」

「い、一応……」

「ハッキリ言うね。冒険者ギルド本部にも、そんな奴いないわ。聞いた時、戦慄したもの。いい、クーファちゃん? もしかしたら、あなたはここの連中とは比較にならない逸材かもしれない」

「そ、そそそそ、そんなことないです!」


 少し顔を火照らせて、クーファは手を振って否定する。しかし、カタラーナの目が鋭く真剣だ。そんなカタラーナをちらりと見たクーファは、テーブルに視線を落とす。


「私はね、上に行くのに最終的に必要なのは才能だと思ってる。もちろん死にもの狂いで努力する人間は好きよ。でも素質がある人間がそれをやれば、ない人間とは雲泥の差ね」


 カタラーナは勝手に拝借したカップにコーヒーをそそいで、すすった。リティも真似をしてコーヒーを飲んでみたが、まさに苦い顔をする。

 それでもカタラーナと見比べて、飲んでみようと頑張っていた。が、苦戦中だ。


「この前の受験者達も少しは根性を見せてくれたらよかったんだけどね。あの人達に関しては素質だけじゃなくて努力も足りてない」

「カタラーナさん、何故そうとわかるんですか?」

「私にコテンパンにされて簡単に諦めただけでなく、飲みにいったでしょ。やる奴は悔し涙を流しながら、行動を起こすわよ。現にリティちゃんは諦めなかった」

「そうですけど……」


 リティはまだカタラーナの思想を認めているわけではない。しかし、言わんとしてる事はおぼろげながら理解した。

 かつては自身の才能の無さを指摘されたリティだが、結果を出した今も自分に才能があるとは慢心していない。そんな抽象的なものに惑わされず、目標しか見ない。それがリティだからだった。


「どうせ強くなるんだから、3級にしておいても問題ないでしょ。あとで試験をやるのも面倒だからね」

「……そんな素質ないです」

「そのメンタルだけなら、あの受験者達とどっこいねぇ……。ま、いいのよ。クーファちゃんは素質特化だから」

「私なんかに……」


 今までの惨めな人生が、今のクーファを形成している。残飯あさりや窃盗で暮らし、悪魔ガリエルのせいで対人関係も築けない。

 悪魔は言葉巧みに、自分に依存するように仕向けていた。これを矯正するほうが至難の業だと、カタラーナは危惧する。


「出来ますよ!」


 どうしたものかとカタラーナが思案した時、リティが励ました。無責任で何の根拠もない言葉だとカタラーナは思うが、その言葉には力がある。現にクーファは自然と背筋を伸ばした。

 熟練者で年配な自分よりも、目線が合う同年代に任せたほうがいいという結論にカタラーナは落ち着く。


「……ありがとう、ございます」


 洞窟内で貰ったお礼よりも、リティにはハッキリと聴こえた。


「カタラーナさん。召喚術の本を読んでみましたが、よくわからないです」

「私もそんなに詳しくないのよね。どうしようか?」


 沈黙の時が訪れた。リティは口をへの字にして、クーファはきょとんと固まる。

 なんだ、この女性は。リティのカタラーナに対する評価がなかなか上がらなかった。


「いや、さすがにあなた達よりは詳しいからね。ここに大量の参考資料がある事だし、頑張ろうか」

「頑張りましょう!」


 ギルド内には一通りの生活用品や設備がある。剣士ギルドのような前衛職と違い、泊まり込みで研究する事も多いからだ。

 コーヒーには眠気を覚ます効果があると教えられたリティだが、克服するのに手間取っていた。


* * *


 天使、悪魔、精霊、幻獣。これらをこの世界ではない場所から呼び出さなければいけないのだが、いくつか注意点がある。

 まず基本的に相手は強制的に召喚された立場である。その状態で契約を迫っても、まずうまくいかない。種族によりけりだが、契約を成立させるのも至難の業だ。

 次に重要なのが種族である。まず悪魔族は避けなければいけない。リテラシーがある召喚師(サモナー)の中には、悪魔族を外れとしている者もいるくらいだ。


「クーファちゃんがたまたま召喚しちゃったのが悪魔族ね。こいつらは魔界という世界に生息していて、基本的に信用できないの」

「今ならわかります……」

「天使は優しそうなイメージがあるけど、プライドが高い。総合力は高いんだけどね」

「では精霊か……幻獣?」

「まずクーファちゃんの魔力傾向や性質を調べて、それから呼び出す種族を決定するわ」


「カタラーナさん。ガリエルを倒した時に名前を聞き出してましたよね? あれってどういう事ですか?」


 忘れてた、と手を打つカタラーナ。よほど重要な事を忘れていたのか、コーヒーを一気に飲んでから話し始めた。


「悪魔族は普通に攻撃しても肉体を滅ぼすだけ。精神体が残って、何かに憑依してしまうの。だから殺すにはあいつらの精神の要である"名前"を聞き出して、こちらが認識する必要がある」

「でも、そうだとしたら悪魔は名前を言わないですよね」

「そうよ。だからそこはこっちも試行錯誤よ。こっちに関しては専門職のエクソシストのほうが詳しいわね。だから悪魔族は本部の私達でも極力、回避したい相手でもあるかな」


 ガリエルのような小物だったのが幸いだ。もし何かの間違いで上位の悪魔を召喚していたら、とカタラーナは脅す。カタラーナの助言を、リティとクーファは肝に銘じた。

 参考資料となる本には有名から無名まで、各種族の召喚獣達が名を連ねている。その数は膨大で、すべてを把握するだけで時間がとられる。

 そこでカタラーナはまず二人の魔力傾向と種族性質を調べる事にした。


「別室で出来るみたいだから行きましょ」


「失礼」


 ノックと同時に入ってきたのは教官の一人だ。


「熱心なところ申し訳ないですが、検査室は今日より使用できません」

「は? さっそく嫌がらせ?」

「外部からの研修生を交えて使用する為です。どうかご理解いただきたい」

「はいはい。わかりやすい嫌がらせね」


 カタラーナの挑発に何の反応も示さず、教官は出て行く。深すぎるため息を吐いたカタラーナが、ドアに本を投げつけた。

 リティとしてはこっちが強引に使用しているのだから、と思わなくもなかったが黙る。


「なんてね。知るかって感じでしょ。行くわよ」

「えー?!」

「これは本部の調査だからね。こっちが優先なの」


 3人が部屋を出たのを確認した教官が、ぎょっとして止めに入るが無駄だった。


* * *


 検査室のドアを開けると、教官と見習い達が振り向く。構わずにカタラーナは、半透明の玉が置かれているテーブルへと移動した。

 遠慮するリティとクーファを手招きして、申し訳なさそうに二人も進む。


「カタラーナ様、ここは本日より」

「研修生が来るまでの間よ。こっちはどうせすぐ終わるんだから、みみっちい嫌がらせしないで」

「私が支部長に叱られてしまいます……」

「大丈夫よ。私達が勝ったら、あいつは失脚だから」


 絶句する教官だが、カタラーナはリティ達に半透明の玉について説明を始めた。触れて魔力を込めるだけで色、そして反応が現れる。

 それには魔力を放出するという最低限のスキルが必要だ。リティも微力ながら魔法を使えるし、クーファも召喚術の経験があるので問題ない。リティ、クーファがそれぞれ半透明の玉に触れた。


「リティちゃんは……魔力が弱いわね」

「弱いんですか?」

「色がとても薄い。でも魔法職を目指すわけでなければ、気にしなくていいわ。そして色はレッド……オレンジ?」


 リティとしては何気に意気消沈する事実だ。しかし、そんな事でめげている場合ではない。

 カタラーナによれば、レッドに近ければ炎魔法を得意とする傾向にある。そして明滅を繰り返してるところから、適正召喚獣は幻獣とわかった。


「魔力はその人の性質を表してるから、呼び出した召喚獣との契約成功率にも関わってくるの。もちろん絶対じゃないけどね」

「私は幻獣を呼び出せばいいんですね」

「そうね。そこからどんな幻獣がいいのか掘り下げていきましょう。次はクーファちゃんね」


 クーファが半透明の玉に触れると、ブルー一色になった。それが激しく揺らいでおり、見ていた教官も声を上げて驚く。


「こ、これほどの反応は見た事がない! この子は水属性の使い手としても、やっていけるかもしれんな!」

「……なんでこの段階で、それがわかるのよ。どうしようもないギルドね」

「す、すみません。支部長の指示でして……『悪魔族召喚など滅多にない! 検査などいらん!』と言われまして……」

「マジで失脚だわ」


 クーファの適正召喚獣は精霊だ。しかし精霊族は性格も様々で、傾向が把握しにくい種族でもある。

 穏やかな者から暴れ者と、呼び出した精霊によっては惨事を招く事もあった。しかしこの事実をカタラーナはあえて黙る。クーファへの脅しにメリットがないからだった。

 ちなみに悪魔族は闇属性、黒。これが出た時点で召喚師(サモナー)への道を諦めさせる指導者もいるほどだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 明確に精霊適正が強いのに、悪魔との契約を黙認して継続させたのか。。。 上もゴミだし、部下達もゴミですね。
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