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リティ、王都に到着する

 巨大な門構えに民家3軒ほどの幅の道、そこをごった返す人々。この時点でリティは圧倒された。

 何せトーパスの街とはスケールが違うのだ。行き交う人々も通路も、そして鋭い眼光で見張っている衛兵。しかも、トーパスの街の警備兵とはまるで違う武装だ。

 そんな彼らがリティに目を向けるが、すぐに別へ移す。一瞬だけリティは身構えそうになったが、やましい事はしていない。


「オイッ! そこの商人ッ!」

「は、はひ!」

「今、目を逸らしたな! 荷物を置け!」

「え、いえ、何もありませんよ?!」


 気の弱そうな商人が衛兵二人に囲まれ、荷物をぶちまけられた。その中の一つを衛兵が持って、商人に突きつける。

 ビンに入っているのは何かの卵か。リティにはその正体がわからなかったが、衛兵は見通しているようだ。


「これはヴェスパの卵だな! ヴェスパの養殖は法で禁じられている!」

「あ、あれぇ?! いつの間にそんなの入ってたんだ?」

「とぼけても無駄だ! 来いッ!」

「ひゃっ! 痛いやめて下さい乱暴しないで下さい!」

「違法養殖によって大量発生したヴェスパに滅ぼされた村もあるのだぞ!」


 一瞬の逮捕劇に、リティは目を奪われていた。更にすごいのは、人々があまり関心を持っていない事だ。

 もはや日常の風景なのか、衛兵への信頼性によるものか。いずれにしても、リティを感嘆させるには十分だった。

 そこへ通りすがりの男が、リティに耳打ちする。


「王都内に取引相手がいるんだろうな。どっちもバカな奴だよ。この王都の警備は大陸でも一、二を争うってのによ」

「はぁ、それはすごいですね」

「取引相手も芋づる式で捕まるだろうよ。お嬢ちゃんも勉強になったろ?」

「はい、とてもなりました」


 リティを田舎者だと見抜いてからかったのか、男はクックックッと笑って去っていく。

 まだ王都に入ってない段階でこれだ。やはり冒険はやめられないと、リティは体の芯から感動で打ち震える。しかし、感動ばかりしていられない。

 珍しい魔物を追いかけたり、脇道に逸れているうちにずいぶんと到着が遅れた。3級への昇級試験の日程が気がかりだったのを、リティは思い出す。

 

* * *


「あの! 冒険者ギルドはどこですか?」

「そこだよ」


 指で示された先を見て、息を呑む。三階建ての建物がこれでもかと目立ち、豪邸のごとく幅をとっていたからだ。

 しかも出入りするのは冒険者だけではない。頻繁に一般の人間と思われる者も目立ち、そもそも人間ですらない者もいる。猫耳、兎耳、ふさふさの毛。獣人だ。

 ユグドラシアのドーランドはハーフだが、あちらよりも彼らのほうが獣に近い風貌だった。


「失礼しまぁす!」


 意を決して中に入ると、リティの挨拶が目立った。何事かと目を見張る人々に、さすがのリティもやってしまったと後悔する。王都の巨大冒険者ギルドとはいえ、自然体でいいのだ。


「もしかしてここ、初めてか?」

「は、はい」


 近くにいた冒険者が、親切心からリティに声をかける。


「じゃあ、そこで整理券を取って待ってな」

「せーりけん?」

「あれを見ろ。いくつものカウンターがあるが、どれも満員だ。報酬の受け取り、納品、依頼の申し込み、相談なんかで常にあんな状態さ」

「じゃ、じゃあ3級への昇級試験の日程を聞くのも?」

「え? あれ、君、3級になるの?」


 リティがそれに似つかわしくないから、青年は驚いた。そして親指で掲示板を示す。

 そこに張り出されていたのは昇級試験の日程だ。3級の日付が本日、しかも今日を逃すと一ヶ月以上待たされる。

 日時の他に指定された場所、それはリティには馴染みのない王都の住所だった。


「こ、これってどの辺りですか?」

「君、3級になるんだろ? 親切に住所が書かれてる場所を聞くなよ」

「で、でも、うー!」

「いや、うーって……」

「わかりました。あなたの言う通りです。甘えずに探します」

「へ?」


 ダッシュで冒険者ギルドを出て行ったリティに、青年は開いた口が塞がらない。その決断力もそうだが、何より今の瞬発力。あれが戦いで活かされたら、と思うと1級である青年も興味が沸く。


「おい、今の女の子は知り合いか?」

「いや、全然」

「そろそろ打ち合わせを始めるぞ。"レッドフラッグ"のリーダーがいなくちゃ始まらん」

「つまらん盗賊退治でしょ。とっとと赤旗を見せつけてやっちゃいますか」


 その赤旗を見て生き延びた不届き者はいない。が、リティはそれどころではなかった。


* * *


「とうちゃーく!」

「威勢がよすぎる子が来たわね」


 結局、道行く人に聞いて全速力だ。そこは王都の西門付近だった。すでに大勢の受験者が集まっている他、額にサングラスをかけたスタイルのいい女性が一人。

 特に隆起した部分は、他の誰よりも優れていた。その女性が手を叩いて、受験者の注目を集める。


「はいはーい、そろそろ時間ね。えー、そうそう。3級? 皆、なりたい?」

「なりたいですッ!」

「元気よすぎね。はい、私が冒険者ギルド本部から来たカタラーナです。ちなみにカタラーナが、かたらーないとかいうギャグは大嫌いです」

「わかりましたッ!」


 リティのリアクションがうるさすぎて、他の受験生の声が消える。試験官であるカタラーナばかりに気を取られるが、他も猛者揃いだ。

 中にはディモスのように、数回目の受験に挑む者もいる。そんな者からすれば、リティのような新米など歯牙にもかけない。

 どうせすぐに現実を知る。それはほぼ満場一致であった。


「始める前に一つ、聞きたいの。あなた達、本当に3級になりたい?」

「……さっきからくどいな。なりたくない奴がここにいるわけないだろう」

「それもそうなんだけどね。でもね、どうも疑わしいのよねぇ」

「さっさと始めてくれ」

「ううん、やっぱりダメかな」


 ざわつく受験生だが、リティは何も言わずにカタラーナの言葉を待つ。リティは3級になりたいのだ。

 いかに試験官といえども、要領を得ない話には反応しない。ひたすら話が進むのを待っている。


「おい、カタラーナさんよ。試験をやるから集めたんじゃないのか?」

「そのつもりだったけど、やめたわ。だってあなた達、向いてない」

「何だって?」

「見ただけでわかる。特にあなた、右腕と左足首にガタがきてるわ。その調子で3級になっても、周囲の足を引っ張るだけよ」


 指摘された冒険者は言葉を返せなかった。長年、酷使し続けた体は回復魔法をもってしても、フォローできなくなってる状態だ。

 続けてカタラーナはもう一人の冒険者の前に立つ。


「あなたはねぇ、根本的に弱い。重心ですでにわかるわ。昇級試験へ推奨した支部にクレームを入れてやりたいくらいよ」

「なっ……!」

「そっちのあなたは論外。ポケットに手を突っ込んで、死にたいの?」

「うわっ!」


 カタラーナのデコピンで、冒険者が縦回転を見せて倒れる。あまりに豪快なアクションに、周囲の不満の声が静まった。

 何かのスキルか。そんな推測が飛び交うが、普通のデコピンだ。つまり指摘の通り、冒険者が弱すぎただけであった。


「こっちのあなたもー! 帰っていいよっ!」

「ひぎゃー!」

「さようならっ!」

「わぁぁぁっ!」


 まるで荷物でも投げ飛ばすかのように、次々と冒険者達が宙を舞う。街中での彼女の奇行に衛兵も黙っていないはずだが、見て見ぬ振りだ。

 カタラーナ一人によって、冒険者達が地を這った。何人かが立ち上がろうとするも、カタラーナによってまた伏せられてしまう。そして残ったのはリティだ。


「で、あなた」

「はい」

「あなたが一番、お話にならない。実力もそうだけど、その武器の数よ。何それ。多すぎ」

「これはですね」

「帰っていいわ」


 リティの視界がぐるりと回る。宙にいる最中、自分も投げ飛ばされたとわかった。武器を背負っている自分を軽々と。

 しかし、リティだけはしっかりと着地する。それを拍手で称えるカタラーナだが、目は笑ってない。


「私のジョブ、何かわかる?」

「グラップラーなどの体術に特化したジョブでしょうか……?」

「ブブー! 不正解! 正解は……」


 今度こそ、リティは胸を突かれて弾き飛ばされてしまう。込み上げる嘔吐感を堪えつつも、同じように倒されてしまった。

 起き上がろうとしても、なかなか起き上がれない。ただの体術か。リティの中で、分析が始まる。


「スナイパーです。得物ないじゃんって? あるから心配しないで」


 気さくに手を振るカタラーナの体のどこにも、弓らしきものがない。そして、明かしたジョブは体術とはかけ離れている。

 つまり不得意な体術をもってしても、ここにいるメンバーを制圧できるとカタラーナは見せつけたのだ。この惨状を見ていた衛兵が呟く。


「あーあ……冒険者ギルド本部ってホントまともな奴いないよなぁ。ましてや、あの女か……」


 彼がこの光景を見るのは初めてではない。カタラーナという人物の特異性を知っているからこそ、冷静でいられるのだ。

 冒険者ギルド本部は各国と提携している存在であり、国民や財産に害が及ばない範囲であれば多少の乱心は許される。それが試験とあれば尚更だった。

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