リティ、貴族令嬢を見送る
街の出口で、デマイルとマームを見送りするリティ。一人欠けてしまったが、ナターシェ他二人の護衛がいるので安心していた。
しかしリティにはまだ心残りがある。魔法を教わってまでやりたい事があるというマームの真意だ。
余計なお世話かもしれないが彼女にとって、やりたい事が出来ないというのは他人事と思えなかった。
「リティさん。この度は本当にお世話になりました。それと4級、おめでとうございます」
「ありがとうございます。マームさんもお元気で。私もいつか王都へ行きます」
「その時はぜひ立ち寄って下さい」
「うむ、歓迎するぞ」
馬車の窓から顔を出したマームの横にはデマイルがいる。彼がいる手前、マームの本音を聴くのに躊躇した。
が、リティは勇気を振り絞る。
「マームさん。もしやりたい事があるなら、私も力になります」
「え、あの?」
「私、考えたんです。昨日、警備隊の人にも少し疑われました。でもデマイルさんの言う事は素直に聞きましたよね。これってつまり、私という人間への信用が足りてないんです」
マームもデマイルも、話の要点が見えずに言葉を返せない。しかしマームは確かに内に秘めているものがある。
それをこの場で言い出す勇気はないが、リティは見抜いていた。
「今の私はまだ4級になったばかりです。実績も信用も実力も足りてません。信用されなくて当然なんです。でも……もし、私が力も実績もつけたら。きっと多くの方々が認めてくれると思うんです」
「リティさん、お気持ちは嬉しいですが」
「私もやりたい事がやれない日々を送ってました。でもこうして冒険者になってよかったと思ってます。だからマームさんには後悔してほしくないんです」
リティに気圧され、マームが何度も瞬きをする。自分の胸に手を当てて、何かをじっくりと考え込んだ。
自分のやりたい事、それは父親に言えば反対されるだろう。怖くて言い出せなかった。
しかしリティはそれを後押ししてくれるというのだ。
「お父様。私……」
「マーム?」
言葉が出てこない。心配をかけてしまう、怒られるかもしれない。心臓が高鳴り、口を噤んでしまう。
ふとナターシェが馬車の外で、握り拳を作ってみせた。その笑顔が後押ししてくれているのはわかる。
そこへリティも同じポーズをとって見せた。
マームは大きく深呼吸をしてから、グッと拳を握る。
「私……魔法使いになりたいです」
「なっ、何だって?!」
「本を読んだりしているうちに、憧れたんです。それに回復魔法も使えるようになれば、お母様みたいに苦しむ人もいなくなるかなって……」
「マ、マーム。しかしだな……」
「お父様の気持ちはわかります。だから今すぐじゃなくていいんです」
そう言って、視線をリティに移す。そして父親へ戻すと、手を馬車の外へ向けた。
意図を察したリティとナターシェがどく。
「……ファイアッ!」
マームの手の平から一瞬だけ噴き出た勢いのある炎。攻撃魔法と呼ぶには足りてないが、それはリティを大きく上回る威力だった。
デマイルが大きく口を開けたまま、声を出そうとしている。
「マ、マーム、お前、いつの間に……」
「黙っていて、ごめんなさい。今はまだこの程度ですが、これからたくさん勉強したいんです。リティさんの言う通り……いつかお父様に心配をかけないように上達したら。その時は……」
「マームよ……」
控えめで大人しかった実の娘とは思えない行動と発言に、デマイルは必死に言葉を探している。
自分の教育が間違っていたのか。いや、そこまで考えていた事に親としてまったく気づかなかった。自分は親失格ではないのか、と。
「その時は、どうか認めてほしいんです!」
「……そうか」
そう声を絞り出すのが精一杯だった。そこまで自身について考えてる娘に、何を言えようか。多忙を理由に今までほとんどそういう話をしてこなかった。
その間、思いつめていたはずだ。すべては娘との距離を縮めなかった自分の責任だと、デマイルは理解した。
「少し考えさせてくれ。ただし……お前と一緒にな」
「お父様……!」
「いや、なんというか。何せあの魔法を見せつけられた後ではな。心の整理もしたくなる」
「はい、二人でたくさん話しましょう!」
「すまなかったな。ワシもまだまだ勉強せねばいかん事がたくさんあるようだ」
デマイルが娘を抱き寄せる。気づけばナターシェや他の護衛二人も涙を浮かべていた。彼らもデマイル親子とは付き合いが長い。情の一つも沸く。
リティはやはり二人に、故郷の両親と自分を重ねていた。ホームシックというわけではないが、一早く顔を見せたいとより強く願う。その為には。
「マームさん。今の私はまだまだ未熟ですが、いつか胸を張れる実績を積んだ時……必ず迎えに行きます!」
「リティさん……」
「デマイルさんも心配させないほど……いえ! 安心して任せられる冒険者になります! その時まで待っていて下さい!」
「……わかりました。私も負けないほど勉強します」
馬車の外に手を出したマームがリティと握手を交わす。二人で笑い合い、そして手を離した。
それを確認したナターシェが馬車に乗り、いよいよ手綱を強く握る。
「ではその為にはまず王都に戻りませんとね。私も引き続き協力します」
「はい! ナターシェさん!」
「ん? 協力? はて? どういうことだ?」
「あっ……! さて、出発!」
「おい、ナターシェ! どういう意味なのだ?!」
半ば口を滑らせたナターシェがデマイルに問いつめられる中、馬車が遠ざかっていく。
ここまで来たらうまくいくだろうと、リティは楽観して馬車が見えなくなるまで眺めていた。
* * *
冒険者ギルドに戻ると、見慣れない男がギルド支部長と話している。テーブルでくつろいでいる冒険者達も、男達の会話に耳を傾けていた。明らかにいい雰囲気ではない。
「ですから、支部長。処置を間違えなければ問題ないのですよ。あそこはまだ資源的価値があります」
「私は反対です。あなた達はスカルブの恐ろしさをわかっていない」
「あんなものザコでしょう。数だけですよ」
男と支部長のやり取りを観察するリティに、ロマが手招きをする。彼女が一連の事態の概要を教えてくれるようだ。
「ロマさん、何があったんですか?」
「あの支部長と話してる男は隣国から来た商人でね。遥々やってきて、ビッキ鉱山跡に目をつけたの。あそこを掘り起こそうってね」
「へぇぇ、でもスカルブがいますよね」
「そう。だからああやって、冒険者ギルドに協力を仰いでるの」
「あんな弱小の魔物など、今の魔道具をもってすればどうとでもなるのだよ」
小太りの男が二人に近づく。他にも冒険者らしき数名が、周囲についている。護衛だろうか。
その一人が、ギルド内を見渡している。
「どうやらこの国には豪商ディビデの名が通ってないらしい。お前達、知らんのか? この方は宝石商にして、放棄された鉱山の資産的価値を見出して何度も再生させているんだ。現に隣国じゃ知らん奴はいない。レグリア鉱山の話はかなり有名なんだがな」
「フン、腰抜けギルドに用はない。行くぞ」
ディビデが護衛を引き連れて、ギルドから出ていく。その不遜な態度に、気を悪くしている冒険者がいるのが伝わってきた。舌打ちや悪態がその証拠だ。
「ふぅ、妙なのが来ちゃったわね」
「でも、もしビッキ鉱山が再利用されるなら良い事では?」
「スカルブの巣の規模もわからないし、リスクが大きすぎるわ」
「まずいな……。連中、勝手なことをしなきゃいいが」
支部長が頭を抱えて奥に戻っていく。リティもスカルブの厄介さは肌で感じているから、リスクについては理解できた。
もし、あれ以上の数が出てきたらどうなるか。そう考えると、支部長が渋るのも仕方ないとリティも納得する。バフォロにしろスカルブにしろ、群れになればその脅威は何倍にも膨れ上がるのだから。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これでリティは「冒険者ギルド支部(トーパス支部)に認められた冒険者」となりました。
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