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リティ、襲撃者と戦う

 先にニルスが動いた。この状況で笑みを浮かべるリティに気圧されまいという勇み足だ。

 スキルは元より、身体能力も経験もまるで違う。瞬殺だ、そう信じたのだが――


「……チッ!」


 槍での薙ぎ払いで、牽制された。明らかにおかしい。さっきと違って、動きが読まれている。

 するとリティが走り、攻めてきた。


「遅……えっ?!」


 槍を地面に突き立て、そのままリティは自分の体を飛ばした。棒高跳びの要領で、ニルスの上を取る。

 すかさず片手の剣での疾風斬りだが、さすがにニルスも甘くない。かわして、リティの着地地点を予想してからの反撃。


「昇襲ッ!」


 下から流れるような鉤爪の連撃。着地寸前で逃げ場がないリティだが空中で体を捻り、回転。

 さながらミキサーと化したリティが、グラップラーのスキル【昇襲】を相殺する。

 弾かれた勢いで、再び距離を取って着地した。


「なかなかやるね。意外と面倒だ」

「面倒?」

「すぐに決着をつけてあげるよ。今、君がやってみせた回転……それ少し足りてないね」


 ニルスが両腕を伸ばし、自身を回転させた。それはリティの比ではなく、グラップラーのスキル『円転爪』だ。

 攻防一体かつ敵陣への奇襲にも長ける高難易度のスキルを、ニルスはやってみせた。

 薙ぎ払い、受け、回転、スピアガード。どれをとっても、それを防ぐ手段がない。

 リティが焦りの表情を見せて安心したのか、ニルスはまた笑う。


「今度こそ怖いだろう? 上位職なんて、君にとっては――」

「面倒でも怖くもないです。すごくワクワクします」

「は?」

「だってこれが冒険ですよね?」


 またも理解不能な事を言い出す。ニルスにとって、それは癪に障る発言だった。

 どうせここで終わりだ。そう自分に言い聞かせ、ニルスは止めに入る。

 回転したままリティに突っ込み、そのまま肉塊だ。そうビジョンを見たが、リティは意外な行動に出た。

 剣を捨てて、槍を両手で構える。


「そんな槍で円転爪をッ!」


 リティに迫った瞬間、ニルスは気づいてしまった。彼女の狙いが、自身の足元である事を。

 彼女はただ集中していた。その細い槍で、ただ一点。


「やぁぁっ!」


「うおおぉっ!?」


 突いたのは、ニルスの足元だ。石畳と軸足、その隙間をついて回転を殺した。

 一気にバランスを崩して、両手を広げて無防備となったニルスは当然激しく転倒する。

 その拍子に自身の鉤爪で怪我を負ってしまい、血を飛び散らせた。


「いぎゃあぁぁぁ!」


「……私の勝ちでいいですよね?」


 勝利宣言する少女に激しい憎悪を募らせるも、負った傷は浅くない。

 強化魔法での威力底上げが仇となったのだ。回転を殺されたばかりか、その威力が自身に返ってきてしまった。

 そもそも対峙した段階では、この少女は自分の動きについてこれなかったはず。

 何もかも理解できない。何故、自分は敗北したのか。

 ニルスは胸に深く刻んでしまった傷を抑えながら、リティを見上げた。


「何故、お前みたいな奴がグラップラーのスキルを!」

「自分も回ってる時、思ったんです。こうされたら危ないなって……。だから瞬間的ならいいかなと」

「嘘だ、僕がこんなガキに!」

「なんでこんな事をしたんですか?」

「お前ェ! ズール様に何か貰っただろ! そうでなければ僕が負けるわけない!」


 要領を得ない有様に、リティもさすがに困惑する。怪我もあるし、このまま放っておけば死ぬだろう。

 しかしリティに情はなかった。剣を突きつけ、あくまで情報を引き出そうとしている。


「私は何も貰ってません。才能がないと見捨てられましたから」

「そ、そうなのか? ハハッ! そうだろうね! さすがはズール様!」

「ズールさんはすごい人ですよ」

「そうとも! 僕みたいな"追放冒険者"を雇ってくれるし、冒険者ライセンスを剥奪されたって関係ない! あの人は平等だ! あの人は――あ……」


 突然、ニルスの表情が強張る。そして歯の根が合わず、涙すら浮かべた。


「ち、違う。やばい、今のはなしだ、違うんだってちがあががぼぼッ」

「え? えぇ?!」


 ニルスが口から大量の血を吐き出し、体を激しく痙攣させる。そして終わった頃には完全に動かなくなっていた。

 リティがその脈を確かめるが、結果は想像通りだ。


「なんです、これ……」


 さすがのリティも、よろめいてしまう。ようやく騒ぎを聞きつけてやってきた警備隊を驚愕させるほどの吐血量だ。

 彼らもすぐには言葉が出なかった。


* * *


 ホテル「スカイオーシャン」に逆戻りとなったリティ。警備兵達を交えて、事情聴取を受けている。

 ナターシェから手当てを受けて、怪我はほとんど問題ない。

 ニルスがリティと交戦したのちに死亡という事実を一番受け止められないのは、雇い主だった。

 マームが寝入ったのが不幸中の幸いか。


「あのニルスが、なぜ……」

「以前、彼が少しだけ話してくれたんです。自分はこんなはずじゃなかった、もっと上に行けたはずだと……」

「ナターシェ、それは本当か?」

「彼は"追放冒険者"だったみたいです。現状の評価に満足できず、何者かの甘言に乗ってしまったのでしょう」

「そいつが黒幕か? なぜ我が娘を狙った?」

「そこまでは……」


 何らかの理由でパーティから追放されて、行き場がなくなった者を追放冒険者という。

 或いは冒険者ライセンスを剥奪された者でもある。

 そういう者は大抵何らかの問題を抱えており、他に行っても似たような結果になる。

 リティの昇級試験を担当したロガイもその一人だ。彼のように教官の道を選んだ者はまだいい。

 大体は現実を受け入れられず、プライドを捨てられずに道を踏み外してしまうのだ。

 これが能力がない者ならば、さして問題はない。問題なのはそうでない場合である。


「時として悪の道にいっちゃう人もいるみたいです。昼間に襲ってきた刺客達もその類と見ていいかもしれません」

「そのような者達がいるのか……。悪いようにはしてなかったというのに、ニルス……」

「マーム様も、彼にだけはなつかなかったですね。どこか察していたのかも……」


 追放冒険者と聞いて、リティは考えた。何故、追放されてしまうのか。

 同じ志を持つはずの冒険者でも、そうなってしまう場合があるのか。

 ニルスの事情はよくわからないが、リティは彼を通してより決意する。


「悲しいですね。私はそうなりたくないです」

「うん。リティちゃんには真っすぐでいてほしいな」


「警備隊の者です」


 やってきた警備隊の一人がリティに詰め寄る。先日の暴漢騒動の時は見逃されたが、立て続けとなればそうもいかない。

 以前とは違う警備兵で、その目はどこか光ってた。

 リティが状況をありのままに説明すると警備兵がなるほど、と一言。


「5級冒険者が3級をね……。確かに遺体の損傷からみて、自らの武器によるものだとわかった。だが、仮にも3級だ。そんな死に様をするなんてね」

「警備隊の方よ、こちらのリティの潔白はワシが証明する」

「し、しかしデマイル様。あなたが雇っている護衛が殺されたのですよ?」

「ワシの責任でもあるな。存分に追及してくれて構わんぞ」

「う……それは、いえ」


 睨みを利かされた警備兵が、何も言わずに部屋から出ていった。親馬鹿で甘いイメージはあるが、彼は立派な伯爵貴族だ。

 もしマームが起きていれば、今の父親に恐怖しただろう。マームはそんな父親を見た事がないのだから。


「ふぅ……リティ、面倒な事に巻き込んですまなかった。今、警備隊の彼にああいったがな。ニルスという人間を見抜けなかったワシの責任でもある」

「いえ、いいんです。冒険者をしていれば、こういう事もあると思いますから」

「そう言ってもらえると少しは気が楽になる。そうだな、ギルドに登録していた報酬だがな。少し上乗せしよう」

「え! そんな、ですから別に」

「君への評価の上乗せという意味でもある。ワシからギルドに伝えておくよ」


 有無を言わさないデマイルの決定を、リティはもはや拒否できなかった。

 思わぬ高評価を受けたことに悪い気はしないが、ニルスの件は釈然としない。

 謎を残したまま、リティは帰路についた。


* * *


 翌日、冒険者ギルドにて出会ったのはナターシェだった。外では立派な馬車が待っており、デマイルとマームが乗っている。

 ちょうどリティが4級に昇級するということで、見届けにきたのだ。


「ニルスの事は私もちょっと引っかかってね……。警備兵に聞いたんだけど、昨日の昼間に襲ってきた連中を指示していたのも彼だったみたい」

「では体調を崩したというのは……」

「部屋に籠った振りをして動いていたみたいね。デマイル様の人の良さを逆手にとった嫌な奴よ、まったく……」

「なぜそんな事を?」

「警備隊がいいところまで喋らせたんだけど、血を吐いて全員死んだ」


 その言葉だけで、ニルスと同じ末路を辿ったのがわかった。ズールが彼らに何かしたのか。

 黒幕が彼だとすれば、何が目的なのか。アルディスは、ユグドラシアは。

 今のリティではどうやっても辿り着けそうにない。しかしリティはある意味で嬉しかった。


「これも冒険して解明できればいいなぁ」

「一応、警告しておくけど私は身を引くわ。相手が悪すぎる」

「もちろん普通にいろんなところを冒険したいですけどね。でも、もし……その人達が関わってくるなら」


 ナターシェは身を震わせた。リティの目が笑ってなく、口元だけがうっすらと歪んだからだ。


「これも冒険って思い込まないと、それこそ面倒じゃないですか」

「それこそ……?」


 己の理想とする冒険というものがリティの中にある。しかしそこから外れたからといって、失望したり投げ出さない。

 思わぬ強敵との遭遇、命の危機、それすらも楽しめるというのは紛れもない彼女の資質だ。

 しかし本当に危ない時に笑える人間など、そういない。

 ナターシェはそんなリティの本質に気づき、二の腕をさすった。


名前:リティ

性別:女

年齢:15

等級:4

メインジョブ:剣士(ファイター)

習得ジョブ:剣士(ファイター)

      重戦士(ウォーリア)

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