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リティ、ビッキ鉱山跡で戦う

 トーパスの街から程ない距離にあるビッキ鉱山はかつて魔石採掘で栄えていた。国外からも出稼ぎ労働者が来るほどで、最盛期は数千人が鉱山近くで住まいを構えたほどだ。

 だがそれも長くは続かない。ある日、昆虫型の魔物"スカルブ"の住処を掘り当ててしまった事で状況は一変。

 彼らは労働者を食い殺し、追い出した。一時期は国が討伐隊を編成してスカルブ討伐に乗り出すが、結果は全滅とまではいかなかった。

 鉱山の資産価値と人命、どちらを取るか。疲弊した人間側に選択の余地はなく、鉱山を放棄する事で事態の収束を図った。

 だからといって放っておけば、スカルブが鉱山の外にあふれ出す。

 そこで白羽の矢が立ったのが冒険者だ。彼らに定期的に討伐をしてもらう事で、鉱山に関する一応の決着がついてしまった。

 そんな騙し騙しの結論が果たして正解なのか。少なくとも冒険者の稼ぎにはなっているが、国が本腰を入れないのが原因だと憤る者もいる。


「そんなビッキ鉱山で繁殖してるスカルブだけど……これ自体は5級の魔物で大した事はないわ」

「でも数が多いんですよね? ロマさんは一度、行った事があるんですか?」

「先日、ソロで討伐を試みたけど、結果はよくなかったわね。洞窟内の狭さもあって戦いにくい。数の多さに加えて、一体当りの報酬単価も安い。これじゃ誰も寄り付かないわ」


 たまたま冒険者ギルドにて再会したリティは、ロマとパーティを組む事にした。彼女もあれから精力的に活動をして、地道に実績を積み重ねている。

 剣士ギルドで会った時から、どこか雰囲気が少しだけ変わったとリティは思った。

 リティが重戦士(ウォーリア)の称号を獲得したと知っても、多少の驚きを見せただけだ。剣士の称号を先に獲得された時とはまったく違う。

 それはロマの実力だけでなく、内面的な成長の表れでもあった。


「ここがビッキ鉱山ですか。ロマさん、ライトの魔法が使えるんですよね」

「えぇ、魔法使い(マジシャン)ギルドの時に教わったわ。後であなたにも教えてあげる」

「助かります」

「それと、ロマさんはやめてと言ったはずよ」

「えぇー、ロマ……」


 村での暮らしとはいえ、無礼がないようにと両親に礼儀だけは叩き込まれたのがリティだ。

 外部の者達にこれだから田舎の人間は、と軽く見られる事にメリットはない。村人達もそれは意識していた。

 そんな中で育てられたリティにとって、年上を呼び捨てにするのはなかなか難しい。


「そろそろ入りましょう」


 リティの今回の武器は剣と盾、ロマは両手剣だ。狭い入口をくぐり、暗い洞窟内にて、ロマがライトの魔法を使う。

 光の球がロマの手の平から浮上して、松明代わりになる。初歩も初歩の魔法だが、習得にはそれなりに金と時間がかかる。

 魔力も消費するのでこれと松明のどちらかを、持っていくかも選択の一つだ。


「あまり奥まで進むのはやめましょう。体力の配分を考えて……」

「来ました!」


 暗がりの奥から、カサカサと二匹のスカルブがやってくる。6本の足をせわしなく動かし、ドクロのような背中を持つ事から名づけられた魔物だ。

 リティはロマの前に立ち、二匹を迎え討つ。そのうち一匹が上を這って迫ってきた。


「この狭い洞窟内では逃げ場はないわ!」

「そうなんです! だからこその重戦士(ウォーリア)です!」


 槍では狭い洞窟の通路内でつっかえてしまう。斧では小回りが利かない。だからここは堅実に剣と盾を選択した。

 フィート草原のように自由に動き回れない以上、この装備が最適だとリティは判断したのだ。

 どっしりとその場で構えて、上を這って迫るスカルブの背中を斬り裂く。正面から来たスカルブを盾で抑え、剣で突き刺す。

 二匹程度なら、あっという間だった。


「す、すごいわ。リティ、重戦士(ウォーリア)ギルドで盾を使いこなせるようになったのね」

「踏ん張りが利いて、戦い方の幅が広がりました」

「私も頑張ってみようかしら……」


 などとぼやくロマだが、そんな余裕がないのはわかっていた。剣士の称号で一年もかかった以上、次の称号を目指すとしても慎重にもなる。

 討伐証明であるスカルブの触角を集めながら、自嘲した。


「私はこの分かれ道で引き返したわ。左右から襲ってこられたらどうしようもないもの」

「でも今は二人いますよ」

「そう、だからより多くのスカルブを狩れる」


 二又に分かれた洞窟の奥からそれぞれ、スカルブ達がやってくる。

 数匹のスカルブをリティは凌ぐが、ロマがやや危ない。

 リティのように重戦士(ウォーリア)のスキルもない為、生傷が着実に増えていく。


「ロマさん!」

「そっちに集中して!」


 左右ともに、スカルブの数が多い。左右のスカルブの勢いを比べて、リティは気づいた。

 ロマ側のほうに多くスカルブが集中している。何かの偶然か、そもそもこのスカルブ達はどこから沸いてるのか。

 掘り当てたというスカルブの巣か。だとすれば、それを潰せば。

 リティは、この無限とも思えるスカルブ連鎖を止める方法を考えていた。

 頃合いを見て、リティがロマ側に助太刀に入る。


「リティ、ごめんね」

「いいんです。それよりロマさ……。森の統率者みたいに、スカルブのボスはいないんでしょうか?」

「ネームドの報告はないわね。そもそもこの鉱山、私以外ではしばらく誰も討伐に来てないみたい」

「酒場の人達は来ないんでしょうか……」

「スカルブの討伐報酬の単価が低すぎるのよ。街への被害がないからってギルドも足元を見てる」


 一通り捌けたのを見計らい、リティとロマは更に奥へと突入する。

 その度にスカルブの猛攻に晒され、さすがの二人も悪戦苦闘が見えてきた。

 スカルブの脅威は数の暴力だ。しかしリティはより奮起して、スカルブの群れに対して押し始める。

 リティは確信したのだ。遭遇した分かれ道のうち、左の道の先に何かがいると。

 左側から来るスカルブの数、個体の大きさ、速さがどれも他とは違う。

 微妙な差なので、必死に振るうロマはまだ気づいてない。


「数が減った今がチャンスです! 左へ!」

「左?」

「行きましょう!」


 強引にロマの手を引いて、左に進む。曲道の先、突き当たりとなった場所にそれはいた。

 透明の羽を広げて、二本の足で立つ一際大きな個体のスカルブだ。

 長い触角を揺らして、リティ達を察知した。


「女王様でしょうか。卵もたくさんあります」

「放っておいたツケね。こんな個体が次々に生まれて増える。つまりこいつを討伐すれば、スカルブの繁殖を大幅に抑えられるわ」


 リティの視界の端にある卵がかすかに動く。すかさずそれを切り裂くと、リティはロマに目線で促した。

 同時に女王が飛びかかってくる。リティはスライディングでそれをかわして、周辺にある卵を斬り裂いた。


「卵を潰して下さい! 放っておくと孵化して更に数が増えます! 盾を持ってるので、女王の攻撃は任せて下さい!」


 女王が卵を破壊し始めるロマを見過ごすはずがない。彼女に飛びかかろうとした矢先、リティがロマの前に出る。

 盾で前足の一撃を受けると、反撃の疾風斬りだ。うまく命中して、女王から何色とも形容できない液体が垂れる。

 教わった通り、リティは攻撃と防御の両立を見事にやりきっていた。

 そうこうしているうちに、ロマがあらかた卵の破壊を終えてリティの隣に立つ。


「他のスカルブが集まってきてるわ。森の統率者戦の時に恐れていた状況ね」

「ロマさ……。この女王を倒せますか? 私が後ろに立って、援軍の虫達を抑えます」

「やれるわ」


 迷ってる暇はない。リティとロマは背中合わせになり、それぞれを迎撃する態勢だ。

 やってきたスカルブを順次、処理するリティ。

 ロマは女王の細い足を狙うが、飛び跳ねられて狙いが定まらない。

 そうこうしているうちに、女王が口から何かを吐き出した。


「避けてッ!」


 後ろで戦うリティに叫ぶロマ。リティは振り返ると同時に盾を突き出し、その回転の勢いで迫ってきたスカルブを斬る。

 ロマは右に避けて、液体を回避した。粘ついた半透明の液体は重い。まともに受けていたら、身動きすら取れなくなっていただろう。

 リティはとっさに盾で防御したが、足元にまで液体が浸食してしまった。

 本格的に飲まれる前に、リティは立ち位置を変える。


「離れましょう! 二人同時にあれを受けたらお終いです!」


 逃げ場も足場もあまりない。こうなれば小細工抜きの真正面からの勝負だ。ロマは決心して、女王に挑む。

 女王の複数の足がロマへ迎撃せんと振りかぶる。


 ロマは笑った。

 自分が一年もどこで何をしていたか。何を習ってきたのか。

 こんな魔物程度なら難なく討伐できる人間と毎日のように、模擬戦を繰り返してきたのだ。

 つまり、視える。


「払い薙ぎッ!」


 すべての足に対してタイミングを合わせた。パラパラと宙を舞う女王の細い足。

 慌てて女王が先程の液体の発射を試みるも遅い。ロマの剣が、女王の頭ごと斬り裂く。

 その研ぎ澄まされた疾風斬りは勢い余り、女王の体ごと突き当たりにまで押し飛ばした。


「勝ったんですね?!」

「安心しないで! 女王の討伐証明を採取するから、終わったらすぐに出るわよ!」

「ではこっちで突破口を開きますッ!」


 リティが盾ごとスカルブ達に突進する。シールドチャージ、攻防一体のスキルで進撃の際には有効だ。

 ロマも採取を終えてリティに続く。

 もう何匹、討伐したかわからないスカルブを更に討伐しつつも鉱山の入口を目指した。


「ここまで来れば安心ですね」

「えぇ、討伐した甲斐があったわ」


 鉱山の入口の光が見えた段階で、二人は安堵する。

 外の空気を味わった後、ほぼ二人同時にその場に座り込んでしまった。

 戦っている時は死に物狂いだったが、こうして終わってみると達成感で妙に頭の中がクリアだ。

 今回の討伐について、ロマは思った以上に功績を挙げたと確信している。しかし今は興奮を収めて、休みたい。


「使われなくなった鉱山での虫の魔物の大軍……待ち受ける女王スカルブ……。これこそが冒険ッ!」


 謎の感動の余り、立ち上がって叫んだリティに対するロマの感想はたった一つだった。

 この子の天井はどこにあるんだろうか、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、ここまで読んで、テンポがよく読みやすい。 [気になる点] ここまで天才だと、異世界転移系主人公とどっこいどっこいかな?って疑問符がついちゃうな。本来は数年はかかるはずなのに。俺TUE…
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