リティ、蜜採取を試みる
リティとロマは、ビッキ鉱山の惨状を報告した。
スカルブを定期的に討伐しないと、女王が生まれてしまう事。そのせいでより繁殖してしまう事。
報告を受けた冒険者ギルドトーパス支部は、ビッキ鉱山について真剣に対応すると理解を示す。
ビッキ鉱山については昔からトーパスの街で議論されている。
鉱山の入口を爆破して埋め立てるなどの対策も過去に検討されたが、却下された。
単純に落盤による崩落、そして地盤への影響が大きいと判断したからだ。
また一部の住人からの反対もある。労働者として従事していた者や自然環境保全に力を入れてる団体の妨害などもあり、結果的にそれらが原因で頓挫する形となった。
「過去にトーパスの街の収益を支えていた場所でもあるからね。過去の思い出にすがるお年寄りもいるのよ」
「でも魔物がいると危ないですよね」
「危ないとわかっていても反対するのよ。人間なんて、自分の身に何か起こらないと危機感なんて抱かないもの」
「埋めてしまえという人達もいるみたいですし、なんだか難しいですね……」
「考えても仕方ないわね。そんな事よりも私達の討伐、かなり評価されたと思うわ。こうやって一つずつ実績を積んで、4級を目指しましょう」
昇級への試験は、冒険者ギルドが直々に各冒険者へ通達する運びとなっている。
別の街に移動した際も、事前に行先を告げれば問題ない。
今回の一件だけで即昇級試験とはならないと、リティにもわかっていた。
だからこそ、次の冒険に行きたくてたまらない。昇級すれば、更に刺激ある冒険が出来る。
リティにとって、冒険とは一種の麻薬のようなものだった。
「スカルブ程度の報酬でも、積もれば山になったわね。特に女王の報酬が大きいわ」
「これだけあれば王都に行けますか?」
「旅の資金としては申し分ないわよ。でも私はまだここに滞在して、力をつけるつもり」
「なるほど……。冒険もしたいし村にも帰らないと……」
リティも本音を言えば離れたくない。世話になってる老夫婦の件もあるし、ロマが言うようにここら周辺の探索にも興味がある。
スカルブ討伐から帰ってきて夕暮れも過ぎたというのに、リティのバイタリティは尽きる事を知らなかった。
「さ、私はもう休む。リティも焦る事ないわ。たまには休まないと、倒れちゃうかもよ?」
「そうですよね。私も今日は休みます」
ロマが席を立ち、リティも帰りの支度を始めた。しかしこのまま真っすぐ帰路につく彼女ではない。
依頼の張り紙は随時、更新される。熱心な冒険者ほど、頻繁にチェックするものだ。
張り出された依頼を見て、リティはすぐに明日のスケジュールを構築する。
「すみませーん! この夜の品出し依頼、受けます!」
ロマに休むと言った手前だが、空き時間を利用したくなった。2時間程度の作業なら余裕はある。
6級の依頼は直接の実績に繋がりにくいのだが、リティにとっては関係ない。
体を動かして冒険者としての務めを果たす。それも彼女にとってのやりがいでもあった。
* * *
リティが朝一で向かった先はバルニ山だ。この山はガルフが多く生息するが一角のみ、風変りな場所がある。
円形の小規模な湖の周囲に咲き乱れる花。見る者の目を奪うほどの絶景だが、山を知る者は絶対にここで腰を落ち着けない。
花園の周辺の木には5級に指定されてる"ヴェスパ"の巣があるからだ。
この巨大蜂の巣から採取できる蜜は高値で取引されている。冒険者へ頻繁に依頼されているのだが、成功率はあまり高くない。
ヴェスパはスカルブ同様、大群の強さを知らしめるタイプだ。それに加えて、彼らは毒を持つ。
そんな大人の頭部ほどの巨大蜂の大軍となれば、まともにぶつかり合っては命がない。
「あの花……!」
もう一つの危険な理由は、リティが見つけた動く花だ。
花園に潜み、擬態する植物型の魔物"ラフラ"は人間も捕食対象とする。
かすかな動きを見せる時はあるものの、こちらはほとんど動かないので近付かなければ問題ない。
ただし、その茎や花びらも素材としての価値があるのでリティとしては狙わない理由がなかった。
その等級は4級であり、5級は絶対に近づくなと冒険者ギルドでは釘を刺されてはいるのだが。
「疾風斬りッ!」
リティはラフラを直接狙わず花園、つまり地面にスキルを放った。安定した地面を揺らされ、ラフラはやや傾く。
すかさずリティの追撃によってラフラはダメージを負ったが、そこは4級。触手を伸ばして、リティを絡めとらんと向かう。
払い薙ぎで応戦するが斬ったところで痛みも感じず、部位欠損程度では止まらない。
加えて更に放たれるのは溶解液だった。触手に溶解液、近接を徹底して拒むラフラの攻勢にリティもさすがに頭を悩ませる。
バンデラのように魔法が使えれば。或いは遠距離攻撃の手段があれば。
ないものに対して考えを巡らせても、打開策はない。リティが思うに、この魔物は触手や溶解液で抵抗力を奪った後に捕食する。
大した射程はないが、これでは確かに知らずに近づけば一溜りもない。
「近づけない、近づきたくない……そうか……!」
自分がそうなればいい。咄嗟の思いつきでリティはまた一つスキルを思いつく。
剣と盾を持ち、そのまま自身を回転させる。勢いがついたところで、ラフラ目掛けて突進した。
触手を斬り退け、溶解液を回転の勢いで弾く。
盾と共に回っているので攻防一体、ラフラを斬り刻んだところまではよかった。
「う、おえぇぇ……」
勝利とは裏腹に、リティの気分は最悪だった。
めげずにバラバラになったラフラの素材各種を採取するも、今のスキルには一考の余地がありと判断する。
しかし、これはヴェスパの群れにも対応できるのではとリティは閃いた。
もはや木と一体化しつつあるほどのヴェスパの巣を眺めて、リティは深呼吸をする。
巣を守る兵隊ヴェスパが彼女に気づいた。
「えええいやあぁぁ! えいやぁぁぁ!」
迫るヴェスパを回転斬りで次々と葬る。
回転の持続は難しいので一度は止めて、剣と槍で応戦を開始した。
背中に槍と盾、腰に剣。リティなりに考えた持ち運びだが、やはり重量がネックとなる。
回転の際にも体力を浪費するので、どうにかならないかと常に考えていた。
剣と槍を両手に持ち、戦う者などいない。
しかしリティはすでに、独自のスタイルを編み出しつつあった。
剣で近距離、片手槍で中距離とそれぞれの迎撃を可能としている。
素早いヴェスパを槍で刺す動体視力とセンスは、誰にでも持ちうるものではない。
回転斬りを小刻みに織り交ぜることで、より精度の高い攻防が完成してしまった。
「あ、もう終わりか」
ヴェスパすべてを全滅させる者はほぼいない。様々な方法はあるが、蜜を採取した後は全力でその場を離れるのが鉄則だ。
非効率極まりないやり方ではあるが、リティにとってはそれすらも糧となった。
ラフラ戦でのスキルの閃き、ヴェスパ戦で回転斬り込みの迎撃。この依頼一つで、リティはまた一つ成長したのだった。
ラフラの素材、ヴェスパの蜜の採取は本来であれば別々の依頼だ。
特に前者は4級向けの依頼なので、これを5級であるリティが達成報告してしまえば即座に無効。とはならず。
あくまで依頼としての受領を制限しているだけで、結果的に達成したのならば問題はない。
ただしあくまで冒険者ギルドとしては推奨していないので、報酬はなし。つまりただ働きだ。
これは正式に依頼を引き受けられる人間への横取り行為でもあるので、ギルドとしても最低限の配慮でもあった。
「剣と槍、剣と斧、剣と盾……まだまだ試したい……」
本人にとって、そんなものはどうでもよかった。彼女の興味は今、自分が出した結果のみだ。
何より冒険者の実績としては評価される。たった数日で5級を終えようとしている少女は疲れ知らず、全力疾走で山を下りていった。
街から近いとはいえ、往復で数時間の距離だがリティは大幅にそれを短縮できる。
その際にも脳内武器協議の後は、次の依頼を思い浮かべていた。
「護衛依頼もいいかな!」
走り出した少女はもう止まらない。




