リティ、重戦士ギルドの最終試験を受ける
重戦士ギルドにて、ついにリティの最終試験が行われる。
決定までに数日を要したが、これでも急いだほうだ。教官達の押しに支部長が納得して、日程を前倒しにした。
下らない貴族の接待などに時間を費やしてる場合ではない。
そんな支部長がすぐに腰を上げたのは異例中の異例だった。
「試験の内容だが、お前の役割はもちろん重戦士だ。一歩も怯まず、後衛へ進ませない。そんな存在感をもって壁となれ」
「それなら模擬戦でやりました!」
「フフフ、自信はいいが今回は相手が複数だ。それにそこのラインよりも下がったら失格だぞ」
「これは……」
リティは足元に敷かれている赤のラインを確認する。
そして教官ゴンザとの模擬戦で、何度も後退した事を思い出した。教官デニイルとも模擬戦を行ったが、結果は同じだ。
今まで何でも意欲的に挑戦してきたリティだが、ここで初めて不安を見せた。
しかしそれに構わず、支部長は説明を続ける。
「そこのラインの先には後衛がいると思え。弓手や魔法使い……どいつも、近接戦は苦手だ。そんな奴らを敵から守るのが重戦士の役割でもある。これを1分凌げたら、合格だ」
「その人達が後ろにいるんですね?」
「いや、あくまで仮定だ。さすがに人材を引っ張ってくるほどの余裕はねぇ」
「じゃあ、ラインを死守します!」
不安はあっても恐れはない。この子はすでに強い。そしてもっと強くなる。
支部長がスキンヘッドを光らせ、両手槍を回す。
そこへ二人の教官が、現れた。教官ゴンザとデニイルでは慣れている為、リティとはあまり面識がない相手を選んだのだ。
剣士の最終試験ではカドック一人だったが、こちらのほうが段違いに難易度が高い。
剣士とは違い、パーティ内での役割が明確かつ重要だからこそだった。
支援、回復。これらがパーティの要となるため、絶対に守らなければいけない。
が、教官達は密かに疑問を感じている。
「ま、実際は一人で戦い続けてるアホもいるけどな。だが今回はあくまで試験だからな、従ってくれや」
「はいっ!」
支部長の何気ない言葉に、教官達はリティを重ねた。この子なら、ひょっとしてパーティを組む必要すらないのでは。
彼らにそう思わせるほどの才覚を見せつけたリティが、いよいよ最終試験に挑む。
「俺の使用武器は得意な槍だが、他の二人は不得意な剣だ。加減はしてやる」
「はぁぁぁ……ッ!」
「ん?」
「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
リティが腹の底から出した声と共に、中腰になって踏ん張る。
声量もそうだが、その気合いに教官ですらかすかに慄く。
しかしいくら才能があるとはいえ、相手は見習いだ。教官達は自分を律して、リティに対して攻撃を開始する。
教官の一人はこの時、ゴンザの気持ちがわかった。彼女の気に当てられるのだ。一人の戦士として、純粋に手合わせをしたい。
そんな達人を駆り立てるほど、リティもまた戦士としてこの場に立っていた。
「気合いだけじゃなぁっ!」
支部長の模擬槍の容赦のない突きが、リティの盾ごと打ち抜かんばかりに放たれた。
更に左右からも教官達が攻め、リティに逃げ場はない。いや、逃げてはいけないのだ。後ろには非力な後衛がいる。
リティはそんな彼らの幻影を作り出し、支部長の模擬槍に対して盾を突き出す。
当たる直前で盾を斜めにして、突きを逸らして落とした。
そしてすぐに模擬槍を踏み、両サイドの二人に対しては重戦士のスキル、スピアガード発動。
「クッ!」
「チィッ!」
槍のリーチを活かして、縦横無尽に振り回す。単純な攻撃ならこれで弾ける初歩スキルだ。
教官二人がのけ反っている間に、支部長が息を吹き返す。リティに踏まれた模擬槍を振り上げて、その足を浮かせた。
隙だらけだと見込んだ支部長は、すかさず模擬槍を振り下ろした。
しかしリティは体を空中で回転させつつ、再撃を試みた教官二人と共に支部長の模擬槍すらも弾く。
「なんだよ、あれ……支部長達、全然攻められてないじゃないか」
「スピアガードってあんなに便利だったっけ?」
見習い達が息を呑むのも無理はない。
槍を振り回すだけでなく、リティの体のバネが尋常ではなかった。アクロバティックとも言えるその動きは、さながら槍の舞踏だ。
支部長は自身の胸の高鳴りを抑えきれなくなっていた。
本気を出したい、戦ってみたい。教官ゴンザがスキルを放ったのも頷ける。
力が入りすぎた模擬槍の軌道がいよいよ洗練されていく。うまく逸らされてはいるが、リティの槍舞踏も鈍くなっていた。
ラインギリギリのところで踏ん張り、本気になりかけた支部長の槍を真正面から受ける。
「えいやぁぁっ!」
大地に根でも張り巡らせたのか。支部長自身が感じた事だ。
リティの足がラインからはみ出したのは、審判を務めている教官が終了を告げた直後だった。
汗だくの支部長が槍を降ろし、二人の教官も剣を収める。
危なかった、本気になりかけた。いや、最後の最後で本気になってしまった。
支部長は己を恥じて、片手で顔を覆う。
「……剣士ギルドの最終試験を担当した奴は平気だったのかなぁ。こんなん本気になっちまうよ」
「あの、終わりですか?」
「あぁ、よくやったよ。本当にな……」
「支部長、お気持ちは察します。ですが今は合格発表をしましょう」
そう言いながらも、実際にリティの相手をした教官がよくわかっていた。
支部長も暗黙の了解と言わんばかりに、リティの頭を撫でる。
そんな事をされたのは小さい頃以来だ。リティは変な声を上げそうになった。
「ふぁ……あの?」
「合格だ。こんなもん協議の必要すらねぇ。よくやったよ」
「私、重戦士ですか!」
「あぁ、剣士に続いて二つ目の称号獲得だな」
「やった……私、二つの称号も!」
リティにとって称号獲得はもちろん嬉しい。剣士ギルドでもそうだったように、達成感と認められる快感は麻薬のようなものだった。
冒険とは違うが、これも冒険者の醍醐味だとリティは納得する。
しかし本来の目的はそこではない。その名のごとく、重戦士の重い戦いはこれから先も役に立つ。
最終試験を終えたばかりだというのに、リティは実戦で試したい衝動に駆られていた。
「それと、うちの連中がすまない事をしたな。奴らには厳正な処分を下したよ」
「え? あぁー……そうですか」
先日の夜に襲撃してきた見習いの青年達の事だ。リティにとっては些細な出来事の為、すっかり忘れていた。
重戦士ギルドから除名され、身柄を拘束された事実を耳にしてもリティの心は動かない。
この事件に関してはリティの証言もあり、ギルド内の揉め事として処理された。
しかし本来であれば、大事である。
「では称号獲得記念として槍と斧を進呈しよう。と思ったが、持てるか?」
「わぁ! 欲しかったんです! ありがとうございます!」
「剣に加えて槍に斧……パワフルだな」
片手に斧、片手に槍。背中に剣。合計三つの武器を所持しているが、リティの表情は明るい。
しかしこのまま持ち歩いて冒険に出るわけにはいかず、リティもどうするべきか悩んでいた。
「あの、支部長。武器の持ち運びって皆さんはどうしてるんでしょうか?」
「ん? 基本的に得意武器を一つに決めてる奴が多いからなぁ。二つ、三つとなると特殊な手段が必要だな」
「方法があるんですか?」
「背中に数本まとめて背負うか、スキルや魔法で持ち運んだり収納してる奴もいる。収納に適した魔物を飼い慣らしたり契約したり……。あとはうまく召喚できればな」
「うーん、ひとまず背中に背負ってみます」
「それだと鞘の改良も必須になるな。金かかるぞ」
今の時点でリティが選択できる方法だが、それでも限界はある。重さによる制限も馬鹿にならない。
この辺りにリティが執着しているのは、相手によって武器を変えて戦うのが有効だと気づいてるからだ。
他の冒険者もそうしたいのは山々だが、現実問題として厳しい。
だから個人なりに妥協しているのが現状だった。
「それはそうと、手続きをするぞ」
「お願いします」
リティが重戦士ギルドに費やした実質的な期間は、わずか3日だ。
見習い達はやっかみの言葉すら出さなかった。
見習いの中でも上位に入るリーダーの青年が、あの様である。聞けば自分よりも遥かに小さい少女が、そんな彼をたった一撃で倒したのだ。
そうなれば自分とは持っているものが違うと吹っ切れる者もいる。
そんな自分の中で折り合いをつけた者は素直にリティを祝福して、拍手で称えた。
「頑張れよ!」
「俺もすぐに追いつくからな!」
「たまには立ち寄ってくれよな!」
「皆さん……」
こうして明るく送り出してくれる者達もいる。リティは剣士ギルドの時と同じように、また感情が込み上げてきた。
言葉に出せず、その場で頭を大きく下げるのが精一杯だ。
暴漢の青年達とは違った者達に対して、リティもまた彼らの成功を心の底で願った。
名前:リティ
性別:女
年齢:15
等級:5
メインジョブ:剣士
習得ジョブ:剣士
重戦士




