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リティ、重戦士ギルドで模擬戦をする

「これが盾ですか!」

「おう、紛れもない盾だよ」


 リティは重戦士(ウォーリア)ギルドの難関である盾のスキル習得に挑んでいた。

 例によって一番サイズが小さい盾だ。

 ユグドラシアのメンバーは盾を使わないので、どう使うのかもよくわかっていない。


「盾は便利だぞ。剣士でも有用だが、あっちでは教えてないよな」

「はい、ずっと剣一本でした」

「剣士なら片手剣とこれを持てば、攻防が安定する。ただし攻撃の小回りが利かなくなる上に、両手剣よりも威力が劣るのが欠点だな」

「でも今は重戦士(ウォーリア)なので槍か斧ですか? 剣はダメなんですか?」

「片手剣は片手斧よりも威力が劣る上に、リーチも槍に劣る。重い鎧と盾を装備した重戦士(ウォーリア)では素早い立ち回りもやりにくい。

つまり片手剣の柔軟性を活かせないんだ。それなら槍のリーチを利用するか、斧の一撃の威力を取ったほうがいい」


 教官ゴンザはあくまで一般例を話しただけだ。重戦士(ウォーリア)でも片手剣のスキル次第でうまく立ち回る者もいる。

両手剣のみだったり片手剣と盾の重戦士(ウォーリア)など、実際には様々な型があった。

だが初心者に適切ではない。まずは基本の型を教えるのが、修練所の役割だ。


「あらゆる角度からの攻撃を盾で防いでみろ。その小盾ではやや不利だが、やれん事はない」

「防ぎます!」

「おう、行くぞ」


 リティの相手に見習いは危ない。それは彼らのメンタルを考慮した上での教官ゴンザの配慮だった。

 彼女の特異な才能をぶつける相手となれば、教官である自分だと判断したのだ。

 まずはあえて使い慣れてない片手剣を装備して、リティに斬りかかる。


「こうですかっ!」

「おっ! 初見のくせに、いい筋だな!」

「どうもです!」


 リティが初撃をあっさりと防いだ。まるでリズムを刻むかのように、リティは盾で教官ゴンザの剣撃を何度も受ける。

 防御はいい。しかし問題はここからだ。


「おう、いい感じだが次は片手槍を持ちな。俺の攻撃を防ぎつつ、お前も攻撃しろ」

「では教官! いきますよ!」

「来い!」


 あのゴンザさんと、まともにやり合ってる。見習い達が自分の修練に今一、集中しきれていなかった。

 教官ゴンザもそれは感じていたが、あえて無視する。

 そんなものよりも、今はリティだ。見事な防御だった。果たして手加減している場合だろうか。

 などという、教官にあるまじき考えが頭をよぎるほどだ。


「ていやぁっ!」

「うぉッ……」


 躊躇なく頭を狙いにくる獰猛さ。こちらの一撃も見事に盾で防がれ、同時にリティの槍が教官ゴンザの脇をかすめる。

 盾を大胆に前に突き出して、それに気を取らせてから槍で強襲したのだ。

 これは訓練であり、彼女も自分と戦うのは初めてのはず。教官ゴンザは少しずつ後悔し始めていた。

 自分がこの場において、教官としての威厳を示せるか。

 彼女は5級とはいえ、自分と同じ冒険者だ。現役での活動も行っている教官ゴンザが、彼女はもはや教え子という立場でないと感じた。

 すぐに自分のところまで上がってくる。そう予感せずにはいられない教官ゴンザだった。


「きょ、教官。終わりでいいですか?」

「おう、よくやった」


 剣を盾で受けられたどころか、弾かれたところで訓練終了だ。剣を持っていた右手の痺れが収まらない。

それを悟られないように静かに剣を拾う。次は槍、そして斧と変えて行う予定だ。

今よりはマシな訓練になるだろうが、少し延長する程度でしかない。それがわかっていた教官ゴンザは、気が進まなかった。


「俺は槍を持つ。剣と違ってリーチが長いから、気をつけろ」

「はい!」


 修練所内の者達は教官を含めて、手を止めている。リティと教官ゴンザの模擬戦に目を奪われていた。

 教官ゴンザの本領は斧だが、槍も得意武器だ。

 教官ゴンザは自身に熱が入るのを実感していた。このままだと、本気を出してしまう。

 もし見習いを怪我させてしまえば、教官としての資質を問われる。

 昂る気持ちを抑えて、教官ゴンザは攻めた。


「うわぁっ! あっ……!」

「おう! いい防戦だ!」

「むぐっ!」


「ゴ、ゴンザさん。容赦ないな……」


 初日の段階で模擬戦など、通常では考えられない。

 それに教官ゴンザの熱の入りように、誰もが気づいていた。

 他の教官もそれを感じていたようで、一人が模擬戦に近づく。

 防戦どころか、リティが盾を弾かれたところで割って入った。


「そこまでにしろ。ゴンザ、少し熱くなりすぎじゃないのか?」

「お、おう。そうかもな」

「私はまだやれます!」

「リティ、修練所の閉鎖時間が近づいてる。今日はもう帰りな」


 気がつけば日も落ちかけている時間だ。

 自惚れていたわけではないが、リティには自信があった。

 仮にも剣士の称号を獲得して、二人がかりとはいえネームドを討伐した実績。

 重戦士(ウォーリア)でも、立派にやっていけるのではと楽観していた。


「あの、私……明日も頑張りますね」

「おう。待ってるぜ」


 今日は教官ゴンザの猛攻を凌ぎ切れなかった。盾と槍を同時に操る技術を習得しきれなかったからだ。

 楽観を打ち砕かれたリティは、悔しさのやり場が見つからない。

 しかし、それはあくまでリティの思い込みだ。

 彼女に反して、教官ゴンザを含めた者達の雰囲気は穏やかじゃない。


「今日だけで模擬戦にまで進ませたのか、ゴンザ」

「見てたんならわかるだろ。ありゃ天才だよ。剣士修練所には二ヶ月いたらしいが、むしろなんでそんなにかかったんだ」

「お前の見込みとしては、どの程度かかる?」

「明日あたりには最終試験も視野に入るだろうな」

「……いるんだよなぁ」


 そんな常識外れの人間が、と教官は続けたかった。

 2級や1級は元より、特級はもはや自分達と同じ生物とすら思えない。もちろん彼らも相応に努力をしているだろう。

 しかし3級への昇級試験に数度も落ちた自身を振り返れば、人には限界があると結論せざるを得ない。

 生まれ持ったものがあるかどうか。血がにじむような努力をして、ようやくそれに気づける。


「まぁ、だけど生き残れるかどうかは別だよな」

「おう。散々、持て囃された人間が翌日には死んだなんて話もあるくらいだ」


 教官同士の会話としては不適切だと、二人もわかっている。しかし彼らも人間であり、冒険者だ。

 妙に気を張って修練所を出て行ったリティの小さな背中が目に焼き付いていた。剣士修練所の連中は、あれをどう扱ったのか。

 すでに彼ら教官達よりも。と、教官ゴンザは思考を止めた。


* * *


 老夫婦の家に帰る前、リティは冒険者ギルドで依頼書を物色していた。

 5級が引き受けられる依頼は限られている。しかもその中でも、5級なら絶対に解決できるとは限らない。

 リティが注目したのはビッキ鉱山の魔物討伐だ。

 フィート草原と違って鉱山の中は狭い。つまり自分の身体能力で飛び回る戦い方も出来ない可能性を危惧していた。

 その為にはやはり重戦士(ウォーリア)のスキル獲得が必須なのだ。


「よう、お嬢ちゃん。この前はあんなに忙しそうにしてたのに、今日は大人しいじゃないか」

重戦士(ウォーリア)ギルドに通っていたんです。どうしても称号とスキルが欲しくて……」


 声をかけてきたのは4級冒険者の男だった。この男もまた、リティの活躍に気を揉んでいる。

 そんなリティが姿を現さないので、挫折したのかと期待していたのだ。


重戦士(ウォーリア)? 君の体格じゃ無理だろう」

「教官と模擬戦をしたんですけど、攻撃を防ぎ切れませんでした。槍と盾、難しいですね」

「模擬戦? ウソだろ?」

「ゴンザさん、とても強いですね……。私なんかまだまだです」


 マジかよこいつ、と男の顔に出ていた。

 教官ゴンザといえば"剛鉄人"で知られている冒険者で、彼を頼りにする者も多い。

 そんな彼と模擬戦をするところまで進んだ事実を、男は信じられなかった。しかしそれを口にするわけにはいかない。

 彼はあくまでリティに対して先輩として振る舞おうと、務めているのだった。


「人には向き、不向きってのがあるんだ。君には向いてなかった。ただそれだけの事だよ」

「そうかもしれません。でも諦めたくないんです」

「人間、諦めと妥協が必要な時もあるんだ」

「私は冒険がしたいんです。それに村も助けてあげたい」


 男はリティを諦めさせるつもりで話しかけたが、効果はない。

 本来、優秀な冒険者が増える事はすべてにおいて有益である。

 しかし男のように4級で満足して、日銭を稼いで暮らしてる者にとっては邪魔者でしかない。ライバルが増えれば、それだけ仕事が取られるからだ。

 ましてやリティのような将来有望な新人となれば、何としてでも折りたくもなる。

 彼のようにパーティを組んで上位の魔物を討伐したり、未踏破地帯に挑むといった野心がない冒険者も多かった。


「やめておけ。そう言って死んでいった奴が……」

「おう、お前こそやめておけ。それ以上はな」


 男の講釈を止めようとしたのは3級冒険者のブルームだった。

 彼はリティが重戦士(ウォーリア)ディモスを牽制した場面を見ている。

 それ故に彼女の意思の硬さ、何より異質さを知っていた。


「で、でもブルームさん。ディモスさんがこの場にいたなら絶対……」

「そのディモスが黙ったんだぞ」

「……ウソでしょ?」


「次はビッキ鉱山……」


 依頼書を真剣に見つめるリティの目に宿る何かを、男も感じた。この娘は何があっても止まらない。

 何より自分の素質をまるで理解していない節すらある。もしこの娘が、それを自覚したらどうなるか。

 男はテーブル席に戻り、ドリンクを飲み干した。

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