リティ、クーファの様子を見に行く
バンデラのジョブを変更しました。
書籍版もこちらに合わせています。
リティとロマが魔法使いギルドに訪れると、危うく門前払いされかける。
見習い志望ではない事を伝えたものの、リティは目に見えてむくれた。イリシスに言われたものの、魔力の低さを理由に挑戦すら出来ないのは納得いかないのだ。
ギルドの入口にはこうして、一人か二人の門番が立っている。防衛の為ではなく、無駄を省くためだ。
「やってみなくちゃわかりません」
「まぁまぁ……。割り切るのがいいわ」
追い返されなかったものの、ロマも素質がないと見なされて挫折の道を歩んだのだ。
今は剣士の称号を貰っているとはいえ、彼女にとっていい思い出ではない。
心の底から這い上がろうとする記憶を押し込み、ロマは魔法使いギルド内へと踏み入る。
受け付けのギルド員に話しかけようとしたその時、奥から悲鳴が聴こえた。
「く、訓練場のほうからだ……!」
青ざめた受け付けのギルド員に、リティとロマも続く。
三人が訓練場に到達した時、見習い達の背中が見える。全員が何かに注目している様子だ。
その際にリティはクーファを少しだけ探したが、見当たらなかった。
「何があった!」
「いやぁ……まいったなぁ。この子がご指導をお願いしますなんていうから……」
まずリティの目に飛び込んできたのは、肩を押さえているマームだ。出血をして、流れる涙を堪えきれていない。
頭よりも体が先に動き、リティがマームの元へ飛び込む。
「マームさん?!」
「リティさん……。何でもない……」
護衛のナターシェがいながら、などとリティとて思わなくはない。しかし、そのナターシェが見た事もない憤怒を顕わにした表情なのだ。
その視線の先にいるのは、赤髪のモヒカンを垂れ下げた魔術師風の男だった。教官でもなければ見習いとも思えず、リティはその男を訝しむ。
しかし、その前にやるべき事は見失っていなかった。
「皆さんの中で回復魔法を使える方はいますか?!」
リティに促されずとも、救護担当のギルド員がマームの手当てを行っていた。
治癒師の称号を持つ彼だが、その怪我の完治には苦労している。リティがよく見れば、肩を貫通していたのだ。
「ごめんな。怪我をさせるつもりじゃなかったんだ」
「あなたは……」
「ウソだ! そいつは明らかに狙った!」
見習いの誰かが、赤毛モヒカンを指して叫ぶ。かすかに舌打ちした男だが、すぐに調子を戻した。
リティは男を観察するが、魔術師以外の情報が見えてこない。魔力が低いリティに、魔法の使い手としての力量を感じる事が出来ないのだ。
一方でロマはリティよりも高い魔力を持つが、こちらも大して変わらない。
「いやいや、本当にごめん。まさかここまで雑魚だとは思わなくてさ。な、お嬢ちゃん?」
「あのさ、そろそろ口を閉じな?」
「おっと、怖い姉ちゃんだなぁ」
ナターシェの威嚇に、男が後ずさった。その様子は怖気づいているようでいて、どこかおどけている。
彼は見習いとして先日、魔法使いギルドに入ってきた。しかし実力はすでに魔術師クラスなのだ。つまり称号の獲得が目的だった。
「いやぁ、師匠にさ。いい加減、魔術師の称号くらい取っておけと叱られてさ。で、渋々来たんだけどまず魔法使いの称号が必要なわけじゃん。
面倒ったらありゃしないよ。あくびが出るこんな場所に来てみれば、ザコどもが精を出しちゃってるわけ」
「……あなた、大魔術師の後継者達ね」
「お、ご名答。よくわかったね」
「そのローブについているタマゴのようなシンボルですぐにわかったわ。教官達も気づいているとは思うけど」
ロマが指摘したシンボルが、男のローブの胸部分で黄金色に輝く。
リティもその存在は気になったが、マームが心配でたまらない。回復魔法の光から目を離さず、男には目もくれなかった。
「古代魔術師エーギルの子孫オズウェンの弟子達……。いずれも高い魔力と資質を認められた者達と聞くわ」
「そうそう。生半可な奴じゃ弟子入りを認められないのさ。で、その師匠にうるさく言われて来たってわけなのよ。ね、面倒だろう?」
「そんな偉大な人の弟子が、あんな小さな子に何をしたの」
「ちょっと待ってくれ。訓練をつけてやるかと聞いたら、あの子は快諾したんだ。そりゃ多少、手荒になって悪かったけどさ。幸い、致命傷にはなってないだろう?」
「傷の治りが遅い……! お前、何をしたッ!」
治癒師が、男に激昂する。まぁまぁ、と両手で制する男の胸倉をナターシェが掴んだ。
「おいおい、乱暴だなぁ……」
「マーム様が希望した訓練だし、怪我をするのも仕方がない。ここで私があなたをぶちのめせば、マーム様の意思決定に水を差す事になる。
でもね、知ってる? 訓練って教えるほうの技量も試されるってさ」
「つまり教え方がよかったって事かな?」
「頭が悪いなら矯正してやろっか?」
ナターシェの怒気に、さすがの男もわずかに態度を正す。彼にとっても、ナターシェは警戒に値するという事だ。ローブを正して、男は顔つきを変える。
「……ザコばかりだと思ってたけど、まともなのもいるじゃん。でも魔力のほうは悲惨だけどね」
「節穴? これでも、そこらの魔法使いよりは高いつもりだけどね」
「あんただけに言ってるんじゃないよ。見習いどもは元より、教官もね。マジでこんなのが何を教えてるのって感じだよ。だってそうだろ? 魔法の使い手ってのは魔力の総量で決まるんだからね」
「へぇ、魔力の総量だけで全部決まるほど単純なんだ」
皮肉を込めたナターシェだが、男は大真面目だ。やや垂れ下がったモヒカンの前髪を揺らして、男は饒舌になる。
「だってそうだろ? あの災厄魔女のバンデラだって、結局はアホみたいに高い魔力でゴリ押しだ。それに比べたら魔力のコントロールだの放出だなんて些細なものだよ。つまり何が言いたいかってね、魔力が低い奴に魔法の使い手を名乗る資格がないって事さ。その辺をちょろつかれても迷惑だからね。それとも君、責任とってくれるの? 俺がそんなのに足を引っ張られたらさ?」
「ありきたりで下らないご宗旨ね。行きつくところは『我々の魔法を世界に思い知らせる』『高魔力の者が支配するべき』かな?」
「それのどこが下らない……?」
意外な逆鱗に、ナターシェも面食らう。いい加減に挑発したのに、まさかここで怒るのかと感心すらしたほどだ。
そして一番の驚きは、支配の下りを否定しなかったところだった。
「お前ら、ボンクラ剣士が剣を振るってスキルだの繰り出してる間になぁ! こっちはその上をいってるのさ! 魔法の使い手は守られなければ貧弱? いつの時代だッ! とっくに通り過ぎている! それが俺達、大魔術師の後継者達だ!」
ナターシェが呆れているにも構わず、男は自論を訓練場内に響き渡らせる。
マームを心配しているリティだが、黙って聞いていた。男の主義主張に一つずつ反論するつもりもない。
魔力がないリティではわからない世界であり、それだけに男の主張を否定も肯定も出来ないからだ。しかし、そんな事は彼女にとってどうでもよかった。
「マームさんの怪我は治りますか? また訓練できますか?」
「……これは呪術の類か。治療がなかなか進まないのはそのせいだな」
「しばらく休めるだろう。その間に自分の資質について考え直せる」
リティの体が勝手に動く。男をくびり殺さんばかりだが、止めたのはナターシェだ。
片手で制している。そんな彼女も怒りで打ち震えており、その行為がいかに困難であったかを物語っていた。
「リティちゃん、待って」
「ナターシェさん。私、我慢できません」
「みゃああぁぁッ! みゃッ!」
「マーム様は"術戦"で負けたの。だから、ここであなたがあいつを倒してもあまり意味がないわ。たぶん、その役目はあの子がやってくれる」
気がつけば訓練場の入口に立っているクーファ。
召喚師ギルドで調べものをしていたせいで、遅れての登場だった。
そちらの知識を仕入れるのも怠らない彼女だが、この日に限っては後悔している。
「マームさん……?」
表情や感情に乏しいと思われているクーファだが、見習い達はすでに肌で感じていた。
クーファが少しずつ状況を理解するにつれて、その魔力が針のように彼らを刺す。
その高い魔力、いや高すぎる魔力を彼女はまだ完全にコントロール出来ていないのだ。マームと親交を深めて精進しているところへ、この状況である。
「へぇ、マシなのがいるな?」
男はクーファに興味を持つ。彼の好奇心とは裏腹に、教官や見習い達は逃げ出したい一心だった。
クーファはこのギルドに来て日が浅いが、すでに教官ですら手に負えないのだから。
今、この場において怒らせてはいけない者はリティやナターシェではない。
「こりゃすごい! いいモノ持ってるねぇ! なるほど、君も称号だけ貰いに来たのか! わかる、わかるよ!」
「……わたしは、まだ見習いです」
「ここの節穴教官どもじゃ話にならない。他を当たろう」
「どうして、わたしには優しいんですか」
「そりゃ君がいい魔力を持ってるからさ。俺は認める奴はきちんと認める男なんだ」
クーファは男を無視して、マームの元へ行く。手を握り、震える。
回復魔法に精通していない事を悔やんだクーファは、目に涙が溜まりそうになった。
「仲よく、なれたのに」
もはやリティですら、クーファの様子に気づいている。コバンザ戦で見せた暴走の再来がすぐそこまで迫っていた。
「俺は大魔術師の後継者達のナプト。師匠に頼んで、君を弟子入りさせてあげよう」
クーファはゆっくりと立ち上がり、またゆっくりとナプトのほうを見る。
雲行きが怪しいが、アーキュラは成り行きを見守っていた。ここで暴走してしまえば何も成長していない。
アーキュラとしては、そろそろクーファに成長してもらいたかったのだ。
ブックマーク、応援ありがとうございます。
もうそろそろ王都編終わりです。きっと。
更新が遅れ気味ですみません。




