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俺、交渉に向かう。中

 野蛮人らしき存在が住まう場所は、国境間際の森にあるらしい。


 近くねぇ?


 そんな俺の感想を無視するかのように、道中は奇妙で愉快な騎士もどきたちの同道を願うことができたが、森の入り口手前までやってくるとそそくさと奴らは帰って行った。俺を置いて。最後尾の骸骨兵士に、チッ、と聞こえるように、思いっきり舌打ちをしてやる。驚いたようで肋骨を鳴らす音が激しく響きわたり、またその音にびびった前方の兵士たちも駆け出し、それに同調するかのように最後尾の骸骨まで連れ立って走って逃げていく兵どもが夢の跡。字余り。


 くそう。雑魚が。


 俺も逃げ出したい気持ちはあるのにと、損な役目を押し付けてきた豚の王様をあくまでも妄想だがじゅわじゅわの焼き豚簀巻きにしてやりつつ、背負ってきたリュックから拡声器を取り出した。


 何故に拡声器が異世界にあるのか?

それはあいつらがひとの世界から召喚という名の万引き行為を行っているからだよ! 

異世界って人攫いの豚だけじゃなくて強盗犯も生息してんな! あとでチクってやる。どこにチクればいいか分からんけど。


 あーあー、ごほん。

 んーんー。げふん。


 第一声は大事である。

第一村人ならぬ、第一国民と出会わねばならぬ。

好印象で迎えねば。友好条約を結ばねばならない。ちったあこっちに儲けが出そうな条約ぐらい結んでやらないと、高値のつきそうなお宝は貰えないだろうしな。俺は確信していた。そう、俺ってやるべきことは、きっちりやるタイプなのだ。


 あーあー、げふん。


 とはいえ、やっぱり緊張するな。

また奇抜な仮装タイプな化け物が出現してきそうだし、話が通じればいいのだが。いや、通じるか。投擲された際、帰れーって言われてたようだしな。つまり会話はできる、っと……メモメモ。


 ごふんごふん、にしても喉がいがらっぽ……、げふ、いてっ。

 

 ナニかが頭に当たった。

額をさすると、痛みを感じる。見てみる。うわ、血が出てる。両目見開いて立ち尽くしていたら、ひゅん、ひゅん、と。何やら複数の放物音がした。嫌な予感。ゆっくりと仰ぎみるや五月雨の矢のごとく、小石が宙を舞っている。うわ。あれが原因か。豚国の民が逃げ惑うのも良くわかる攻撃性。それはあまりにも強烈な縄文時代もびっくりな投擲具合で、俺の血の気が引く。俺の。格子状にきちっと隙間なく飛んでくるから綺麗だな、なんて感想抱いている場合ではない。

 

 やべぇ。

 死ぬ。


 さすがにアレに当たったらたまらない。人間だもの。

 俺は、ダッシュで逃げた。





 「駄目じゃないですか」


 結局、豚さんの居城に戻ってしまった俺。

いやはや。面目ない。勝手に足が動いてしまったのである。不可抗力だ。


 「あんな大見得切っといて……チッ」


 おいおい、これじゃあ立場が逆転しちゃってるではないか。


 「もう一回行ってきてください」


 チッ、しょうがないな。

俺はぐうすか枕を高くしてから、再び向かうことになった。

 今度は昨日とはまた違うメンバーが揃えられ、兵士らによって連れられている。たまにこづかれたりするので前よりも扱いが酷い気がするが、気のせいだと思いたい。

 まぁ、びびりながら帰っていく兵らの後姿を眺めるのは、昨日と一緒だけど。あいつら化け物な見た目なくせに実に腰抜けである。逃げ足はえぇなぁ、オイ。

 ま、いいか。

とにかく、やるべき仕事はこなさねば。

 くるりと真正面にある森へと身体を向ける。


 あーあー、ごほん。ごほん。


 今回ばかりは本気出さなきゃな!

いつも本気出してばかりだと人生疲れるし、何事もほどほどが一番である。


 めーでー、めーでー。


 なんでか分からないが、羊の呻き、もとい鳴き声みたいな発声練習をしてから俺は拡声器のスイッチを押してアピールする。否、人間アピールだ。


 あのー、すみません。

 俺、異世界から来た者ですが。

 決して怪しいものでは……。


 消防署のほうから来ました、みたいな感じになってきたところ、ささっ。と。

人影を俺は発見する。森の奥、木々と木々の間からひょっこりと陰影が見え隠れする。

 おお、第一森人発見!

拡声器をそちらに向ける。しめしめ、反応は悪くないようだ。


 えー、そこの人!

 ええと、そこにおられるええと第一森人さんっ、


と目が合った気がした。

 人影は、木陰にいた。

いたが、間違いなく俺に向けて。


 「帰れー!」


 えっ!


 まさかの俺にまで帰れコール!


 や、あの。

 俺、人間ですがっ。


 驚愕して弁明していると、また石の塊が飛んできた。

 これまた複数。別方向からもシャラップしたくなるほど。偶然にも、前回と同じ展開である。


 やべえ。


 慌てて俺は拡声器を強く握りしめて、お願いをする。


 やめ、やめてください! 命大事に!


 「帰れー! この、化け物っ!」

 「消えろー」

 「短足―!」


 槍みたいに降ってくる、石の山に俺は戦慄した。

 

 チッキショー! 俺の足はカーチャンに似て短けぇんだよ、代々短足一家だコノヤロー!

禿ないようにと御先祖様の後頭部ツルピカ写真を仏間で拝んでんだよ、コチトラヨー!

ただしイケメンに限るは兄貴だけだよ、コンチキショー!


 敗走する俺はナンバ走りを見せつけてやった。





 「無能じゃないですか」


 ちゃうわ。

と言いたいが、ふて腐れた俺は豚さん配下から逃げ回り食料調達してから牢屋に満喫スタイルで隠れてたら無事発見され、王城の執務室に両手抱えて運ぶという俗にいうETスタイルされてしまい、ぶーたれる。だってなぁ。しゃーないでしょ、アレ。どうやっても投擲されるし。さしもの俺も穴だらけになりたくはないので文句言いたくなるってもんだ。なんてあまりにもふくれっ面になった俺にしびれをきらしたものか、豚さんはコーンビーフもなんのその、冷凍食品にも負けやしない海外産ならぬ異世界産まれの威圧をみせた。


 「……税金かかってるんで、ね」


 うっ。

昨今の切ない事情を垣間見せてくれる豚さんの現実的な言葉に、一介の高校生の身には堪えた。なんせ俺は学割が利く身分である。社会的に国に守られている身持ちでもあるため、異世界とはいえ国庫がかかってるんですけど、なんて言われると弱る。


 でもさぁ、それ。

お宅で解決してくれたら話が早いってやつで。

 つか拉致監禁……。


 「さぁ~明日にでもまた行ってもらいましょうか。

  ほら、コレ、欲しいんでしょう?」


 言いながら豚さん、王冠を指差して軽く頭突きしてくる。


 「ほぉ~れぇ、ほぉ~れぇ、ほぉ~れぇ」


 くっ。

このっ、お、オークションで売り払ってやるからなっ! 絶対だっ!


 ぐりぐりと王冠の尖った部分でかさぶたになった額も欲望も刺激された俺は、丘の上の赤い屋根の一戸建て、を念頭に国境沿いの森へとまた引きずり出されるのであった。

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