綾乃の心
中島に藍の力を授けたら、綾乃の心の秘密まで付いていってしまいます。
小二の秋だった。私は、美加と一緒に逆上がりの練習をしていた。美加が後ろ向きになって、お尻で押し上げて、必死で手伝ってくれた。そうして、夕暮れ時になって、やっと出来た。二人で泣きながら喜び合った。
中学の時、達也くんに会うのが嬉しくて、毎日わざわざ回り道して帰った。煙草屋さんの角で待ち伏せして、さりげなく達也くんに声を掛けた。達也くんは嬉しそうに笑っていた。
高校に入って、決死の思いで達也くんに告白した。美加が柱の陰から応援してくれた。達也くんも私を好きだったって言ってくれた。嬉しくて、美加と一緒に大喜びして、抱き合った。
こっちに来て初めての魔法の授業。みんながジロジロ見て、パーフェクトだってささやいた。声にトゲがあった。
達也くんから連絡がなくなった。パニックになった私は、小西に頼んで大阪の学校へ連れてってもらった。達也くんは、美加と付き合ってるって謝った。美加と達也くんが……どっちも大好きだったのに。私が魔法使いだったから、長老が魔法を使わない達也くん達との仲を裂いたのだ。魔法使いなんか嫌いだ。大嫌いだ。
他の魔女が、私に、中島や小西に色目を使うな、と言いに来た。静香は格が違う。でも、私のことは御しやすいと踏んだのだ。どっちにしても、話題にも付いていけないのだ。彼女達とは友達にはなれなかった。
魔法使い三人組は、親切だった。でも、三人の話には付いていけなくて――そりゃそうだ。あの三人は子供の頃から一緒だったから、私の知らない共通の話題がたくさんあった――私は、どこにも入り込めなくて……誰かと、思い切り話がしたかった。
こっちの高校で知り合った魔法を使わない友人達は、私が魔法使い三人組と仲良くなるに連れ、離れて行った。仕方がないことだった。私は魔法使いで、魔法の秘密を漏らしてはいけないのだ。仲良くなりすぎるのは、避けなければならなかった。
あの日、偶然、小西が静香を慕う心が読めてしまった。小西は、静香に頼まれて、私の面倒をみてくれていただけだった。
龍が欲しい。私の友達になってくれる龍が欲しい。真っ暗な山道を泣きながら龍を探した。龍が欲しい。独りぼっちの私を慰めてくれる、私だけの龍が欲しい。必死で緑池に通った。そうして、やっと、タツヤに出会った。
楽しかった夏。タツヤと私。二人して、いろんなことをして遊んだ。水しぶき。夏の光。タツヤの感触。魔法使い三人組は、あんまり緑池に来なかった。三人で遊んでるんだ。と思った。タツヤは優しく抱きしめてくれた。
タツヤが発情して、おかしくなった。タツヤ。独りぼっちだったタツヤ。私も独りぼっちだった。三人組が先生に報告したせいで、先生からタツヤを上杉謙信の時代に送るよう命じられた。許さない。一生許さない。三人組なんか大嫌いだ。
大好きだったタツヤ。私の唯一の友達だったのに。三人組が取り上げてしまった。
安田先生が私に魔法をかけた。二度とタツヤに会えなくなる魔法です。先生の声が冷たく聞こえた。
静香が小西を選んだ。小西は迷わず選ばれた。いつも、私を支えてくれたのに……シズがダメだったら、俺を選んで欲しいって言ってくれたのに。条件付きだねって、笑っていたのに。私が静香みたいにきれいなら、静香に選ばれても断ってくれただろうか。静香みたいにきれいなら、俺は綾乃が良いからって言ってくれただろうか。き
タツヤが私を心配して、ジュニアをよこしてくれた。それなのに、小西はジュニアも取り上げようとしている。前はタツヤを取りあげて、今度はジュニアを取りあげる。自分は好きな人と一緒にいるのに、私の好きな人は取り上げる。私には、他に誰もいないのに。ジュニアがいなくなったら、本当に独りぼっちになってしまうのに……。
中島が呆然として、私を見た。
私は、急いで言った。
「失敗や。心まで行ってしもうたみたいや。それでね。フォーカスをかけるって、こうやるん」
急いで中島にフォーカスをかけると、中島に私の心が読めなくなった。これで、絶対隠さなければならない超極秘事項は気付かれない。ほっと小さな息を吐く。
「でね。ガードをかけるって、こうするんや」
そっと、心のシャッターを下ろした。
「練習するといいよ。じゃないと、なかなか上手くできない」
そう言って、手を挙げて、低い声で言った。
「悪いけど、記憶を消させてもらう。力をあげるって言うたけど、記憶まであげるって言わんかったから。間違って私から行った記憶消すから。いいね」
「綾乃」中島が唾を呑み込んだ。「僕達、君に酷いことしてきたんだ。話には聞いてたけど……こんなに酷かったとは……君は傷だらけだったんだ……シズも透も、知っていたなら、どうして……」
「二人は知らない。これは、私の心の底にあったもんや。厳重にロックしてあったもんや。力に引きずられて付いてっただけや。だから、消す」
手を振ろうとすると、中島が制した。
「誰にも言わない。だから、消すな。僕は、今まで、自分だけが不幸だと思ってた。甘かったんだ。このままにしておいて欲しい」
「……一番奥に……ロック出来る?」
「どうするんだ?」
「こうするん」
中島の心の奥底にしっかりロックした。
「誰にも言わないって約束だよ」
私が言うと、中島が切なそうに私を見て、肩を引き寄せようとした。申し訳なさを体中で現して、私の心を温めようと、タツヤみたいに抱きしめようとした。
その瞬間、電流が流れた。バシッと大きな音がして、中島が目を見張った。手の痛みに耐えながら、呆然として言った。
「これは……?」
「人間の男、特に、魔法使いが触るとそうなるように、魔法がかかってる。あんまり側寄ると危ないから、気ぃ付けてね」
中島が、気を取り直して言った。
「前に、シズが、佐藤さんが触るとそうなるように、その魔法をかけようかって、言ってた」
「そう」
「でも、その魔法をかけても、長老が反対呪文を唱えると、破られるって」
「シズは、甘いんや。魔法使いを含む全ての男を対象にすればいいんや。魔法が単純やから、長老にも破れない。この魔法を解除できるのは、私だけや」
「でも、長老は、君に魔法を掛けて、解除させることもできる」
「私の自由意思やないかぎり、解除できひんようになってる。誰かが私の自由意思を奪ったとしても、抜け殻の私じゃ、できん」
「君は……」
「私は、自分の身は自分で守る。誰の助けもいらん。パーフェクトなんや。あんたやトよりズッと強いんや」
結果、中島は五色の魔法使いになったのです。パチパチ。




