小西の理屈
小西の強引な理屈に綾乃は、嫌になります。
Ⅶ 小西の理屈
小西が現れた。本気で怒っている。怒られるようなこと、しただろうか。
「綾乃!いい加減にしろ!薫を助けてくれ!」
開口一番の台詞がそれか。
「助けるって言うても……」
「お前が、薫を選べば、上手く行くんだ。お前は薫が好きだっただろ。薫だってお前のことが好きなんだ。あいつが可哀想だろう?」
「私は可哀想じゃないん?」
小西が中島のことばかり気に掛けるのが情けなかった。
「?」
「私がカを選んだとしても、カが好きなんはシズや。前にも言うたやろ?私は、自分の恋人がシズのこと考えてるのを毎日見ることになるんや。私は可哀想じゃないん?」
小西の顔が引きつった。
「お前には、魔法をかける。それが分からなくなるような魔法だ。そういう約束なんだ。佐藤の馬鹿からシズとお前の両方護るには、それしかないんだ!」
「私、そんな魔法、承諾しない」
「馬鹿がお前を狙ってる」
「私、長尾くんがいい」
「この場合、初歩的な魔法しか使えない魔法使いじゃ、役に立たない!」
「さっき、増えたから。彼、さっき、青の魔法使いになったんや」
「最低四色要る」
「じゃあ、後、紫と黄、それと緑なんかどう?」
長尾を振り返って尋ねると、彼はふふふと笑った。
「バナナのたたき売りじゃないんだ!」
小西が叫んだ時には、ことが終わっていた。長尾の体が宙に浮いて不思議な色合いで光ったのだ。
「これで、元の時代にも自由に帰れるやろ?グッド アイデアやと思うわ」
そう言うと、小西が目を剥いた。
「こいつ、別の時代から来たのか?」
「あやしいヤツじゃないんや。時空を越えて来ただけや」
「目一杯あやしいじゃねえか」
小西がジロリと睨んだ。
「いいんや。私のために来てくれたんやから」
私が長尾に抱きつくと、小西が火のように怒った。火の魔法を使えるようにしたことを後悔したほどだ。
「綾乃、こんなあやしいヤツと抱き合うんじゃねえ!」
「いいんや。私の半身なんや」
「お前、前にも、龍が半身だってぬかしやがって。いい加減、目ぇ覚ませ!」
「魔法使いは好かん。自分の都合で、他人を傷つけるんや。トだって、シズに選ばれたからって、簡単にシズのもんになった」
「俺が選んだんじゃない!シズが選んだんだ!」
烈火のごとく怒る小西に、長尾がおかしそうに割って入った。
「小西さん。あなたが悪い。例え静香さんがあなたを選んでも、それを断って、綾乃さんに選ばれることもできたんです。あなたが静香さんに選ばれて、それを良しとしたと言うことは、あなたが綾乃さんを切り捨てたってことになるのです。そうしておいて、今度は、綾乃さんの心を無視して中島さんを選べというのは、傲慢以外何ものでもありません。
静香さんは、あなたを選ぶことで、あなたと中島さんの両方を手に入れることに成功したのです。 あなたは、静香さんの思惑に乗って、中島さんと綾乃さんを切り捨てたことになります」
長尾が、初めて、私のことを『綾乃さん』と呼んだ。
然とする小西に、長尾が平然と言い切った。
「色数がどうのこうのという議論は知りません。でも、綾乃さんは私が幸せにします。あなたは引っ込んでいてください。あなたの好きにはさせません」
「シズがお前と薫に魔法をかけて、好き同士にさせるって約束だったんだ。もともと、お前達、好き同士だったし……それが、一番いいと……思ったんだ」
小西が、絞り出すように言った。
「何にしろ、私の意思を無視するのは、許せへん。私、そんな魔法承諾しない」
ゆっくり小西の目を見つめて言った。
「透。あんたがシズを好きやったのは知ってる。だから、あんたがシズを選んでも仕方ないと思ってる。でも、私のことまで首突っ込むのは許せへん。シズと仲良うしたらいい。でも、私のことは放っておいて。あんたの好きにならん」
手を伸ばすと、長尾がそっと手を取った。そして、私を抱きしめて言った。
「私の時代へ……いらしてください」
黙って頷くと、辺りが急旋回して時空を飛んだ。
秋の気配だった。真っ赤に燃える紅葉の中に静かな湖があった。青い湖水に紅葉が写って、上下対称の絵のようだ。
「この季節が、一番きれいだから」
長尾が言った。
「きれい……」
私は、長尾に寄り掛かった。長尾は、そっと私の肩を抱いて、目を見つめた。
「あなたのことは、小さい頃から聞いていました。思っていたより可愛くて、そうして、悲しそうだった」
「いろんなことがあったし」
「あなたのことを話してくれたものは、あなたに救われたと言ってました」
「そんないいもんやない。でも、楽しかった……」
涙が溢れて止まらない。長尾は私を抱きしめて、「心配要りません。あなたは私が護ります」と、言った。
それにしても、長尾くんは、以下略。




