静香の計算
美しい静香の醜い計算。綾乃は悲しい思いをします。
Ⅷ 静香の計算
次の日、朝早くから静香がおばあちゃんの家に来た。父が海外へ転勤してから、私はおばあちゃん家にいるのだ。私は、帰って来たことを後悔した。あのまま、長尾の時代にいればよかった。
「綾乃ちゃん。どうして薫を選んでくれないの?」
鋭い目つきで問い詰める。
「前にも言うたやろ?私には、藍の力がある。カと一緒にいると、カがシズのことを考えてるのが分かるんや。そんなん嫌や」
「だから、私が魔法かけるって言ってるのに。
我が儘言わないの!佐藤さんがあなたに目を付けてるのよ!薫と一緒にならないと、あなた、下手すると長老に魔法かけられて、佐藤さんと結婚させられちゃうわ!」
「私、長尾くんがいい」
「誰、それ?」
「長尾くん」
「あのね、綾乃ちゃん。四色の佐藤さんがあなたを望んでるの。四色の魔法使いの薫じゃないと護れないの!」
静香が、こめかみをヒクヒクさせて叫んだ。
「長尾くん、四色になったから」
「いつ?」
「昨日。私がした。だから、放っておいて」
静香が唖然として私を見つめた。あんぐりと口を開けて。静香でもこんな顔をすると馬鹿に見える。
そう思った時だった。向こうから、長尾が歩いて来るのが見えた。
「おはようございます」
挨拶する長尾の笑顔は、涼やかで透明な感じがした。
「シズ、紹介するね。こちら、長尾くん。長尾くん、こちらが大久保静香さん。小西くんの彼女や」
長尾は上品に腰を折った。
「はじめまして。長尾です。お噂は常々お聞きしています。噂通りですね。さすがに、お美しい」
「コラ、美女に惹かれるんじゃないぞ」
「私には綾乃さんだけです」
ふわりと笑った。
静香は、固まってしまって声も出ない。ようやく声を取り戻して言った。
「はじめまして。あなた、何色使うの?」
「昨日までは、初歩的な魔法だけだったのですが、昼過ぎから、おかげさまで四色の魔法使いになりました」
「便利やった?」
「もちろんです。父も喜んでくれました」
嬉しさに長尾の胸に飛び込むと、静香が絶句した。
私が男の人の胸に飛び込んだところなんか見たことがなかったのだ。当然だ。小西や中島の胸にだって飛び込んだことはないんだから。
でも、長尾は特別だ。彼は、私を助けるためにわざわざ来てくれたのだ。
「綾乃、あなたが薫を選んでくれないと、彼、どこかへ行ってしまいそうなの」
静香が、すがるように言う。
「どうして、カを留めるために、私がカを選ばなならんの?」
「あなたが薫を選べば、四人で今まで通り仲良くできるの」
「悪いけど、私、長尾くんがいい」
「そんなことしたら、薫がどっか行っちゃう!」
「仕方ないやろ。シズがトを選んだんやから。私もカも別の誰かを選ぶことになるんや」
「そんなの嫌!私を護ってもらうには、二人とも必要なのよ」
「シズ、私は、一人で自分を護ってる。トがいれば十分やろ?」
「あなたは、大したことないから……」
静香が、言いにくそうに言った。
「静香さん。あなたに苦痛を与えるのは、男だけでしょ?」
長尾が割って入った。
「?」
「綾乃さんを攻撃するのは、男だけじゃないんです。ご存知でしたか?」
「どういう意味?」
「魔女が寄ってたかって、この人に辛く当たるんです。口に出さなくても、心の中で。小西さんからお聞きになりませんでしたか?」
「あり得ないわ!一体、誰なのよ?」
「私が知ってるのは、垣内さんの話です」
「あの娘、親切ないい娘よ!」
「あなたには、ね」
長尾が皮肉っぽく笑った。
長尾くんは、男です。




