未来の視点:始まり:黒い手紙
深夜一時――。
カチ、カチ……と、目覚まし時計の秒針が時を刻む音。そんな小さな物音さえ耳に届く、静かな夜。
私は今、机に向かい一つの難題に頭を抱えている。
「うーん。……何、これ?」
こぼれたのは、僅かな苛立ちを含んだ疑問の言葉。そして、ため息。
これで何度目だろう……そう思いながらも、私は卓上に広げた一通の手紙を手に取り、その内容を読み返した。
「二十三日後、二十三時に学校で合いましょう」
短く綴られた不可解な文章。これが、私の好奇心を激しく揺さぶり、悩ませている原因。
この手紙は、ポストの中に入っていた。……それ自体は何の不思議も無い事。
だが、黒一色の封筒がポストの中に入っていたら、人はどう感じるだろう? 怪しいという気持ちを通り越して、不気味な印象を受けるのではないだろうか……。 少なくとも私はそう感じたのだ。
更に、この手紙にはもう一つ気にかかることがあった。
それは、差出人を示すものが何一つ記されていないという事。記し忘れたのか、意図的にそうしたのかはわからない。でも、手元の黒い封筒を眺めていると、後者であると断言したい気持ちに駆られる。
正直にな所、こんな薄気味悪い手紙なんか捨ててしまおうという気持ちで一杯だった。
でも、封筒にたった一つだけ記されていた『白様へ』という文字が気にかかり、躊躇いながらも開封してしまい、今に至ったわけです。
『白』それは私、秋葉未来のあだ名。
私がこの村に引越して来た初日に付けられた、お気に入りの名前。でも……、
この名で、こんな怪しい手紙を貰う心当たりは無い。
……悪戯。そんな気持ちも少し過ぎった。
しかし、悪戯にしては手が込みすぎではないだろうか。私だったらこんな面倒な事、絶対にやらない。
……でも、悪戯に心血を注いでいる人ならこんな事もやるのだろうか?
と、これまで色々な考えが浮かんだのだが、未だに決定的な答えが導き出せないでいる。
二時間かけて考え続けたのだが何の進展も無い……。
――手紙の理由。そこから調べても埒が明かない。
私は考え方を変え、この手紙の差出人が誰なのかという事だけを調べる事にした。
そう、全てを解明する必要なんて無い。自分で解明できない事は、知っている人(差出人)から聞けばいいだけの話だ。
まずは、唯一の手掛かりである『白』というあだ名を使っている人物を思い浮かべる。
――勇治、耕一、紗枝、幸恵、真里菜、葉子……。
仲の良い友人の名前が頭を過って行く。
このような事で仲間を疑うのは心が痛む。だけど、情報を整理するためには仕方が無い。そう自分に言い聞かせ、名前を思い浮かべていった――。が、それは結局、途中で断念する事になった。あだ名を知っている人を、すべて把握できていない事に気付いたからだ。疑いの枠を広げだしたらきりが無い。
所詮は思いつきのアイデア、詰めが甘かった。
「だめだー。分かんない」
アイデアが崩れ落ち、やる気が低迷しかける。
机に突っ伏す私。……でも、何か手がかりは無いだろうかと、真っ黒な封筒を手に取った。そして、それを前後左右、更には内側まで覗いてみる。
だが、そこにはホワイトマーカーで書かれた『白様へ』と書かれた宛名しか見つけられない。
続いて、便箋に目を通す。だが、そこにも差出人の手掛かりとなりそうなものは何も記載されていなかった。便箋そのものにも、これといった特徴は見あたらない。
捜査の堂々巡り。詰まった――。
結局、今分かっているのは、私が『白』というあだ名だと知っている誰かという事。それだけ。
情報はあまりにも少ない。……というか、これは、今の様に悩む私の姿を想像して、それを楽しむ悪戯なんだと断定したくなる。
そう思ったしまった瞬間、張り詰めていた感情が一気に緩む。
すると入れ替わるように強烈な眠気が私を襲った。
時計を見ると、その針は三時を示す直前である事に気づいた。
(寝よう……)
今日も学校がある。手紙の事は皆にそれとなく聞いてみればいいかな……。
私は部屋の明かりを消すと、倒れこむようにベッドに飛び込み、
「おやすみ……」
誰もいない部屋の中、就寝の挨拶をした。




