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9:エルフが傭兵になった場合について考えてみる

 ファンタジー世界にも年金問題はあるんだろうか? 寿命400歳のエルフさんが65歳から死ぬまで年金を受け取れるようになったら、その国家の財政的にはどうなるんでしょうね? 


 そこで、ファンタジー世界の傭兵、特に長寿命のエルフ傭兵の雇用について考えてみます。


 今回は主に雇用について焦点を当てますが、どういう世界であろうとも以下のことは適用されるかと思います。


 ◆雇用者は報酬を支払わなければならない。


 仕事には見返りがいるわけです。

 相手が傭兵、騎士、兵隊でも、あるいは悪魔や天使でも。報酬はお金や領土、食糧と住処、ちょっと変則的なところでは略奪権の承認だったり魂や信仰だったりしますけれども、長期的に頼るのならば戦いに見合った報酬の準備、最低でも生活費の工面が必要です。常備軍でも同様で、「戦わなければ殺される」という状態であろうと、お腹は空くし装備のメンテナンス費用はかかります。精神論だけではやっていられません。徴兵制でも兵隊にお賃金は支払われますしね。(じゃないと物資のちょろまかしが起こる)


 さて。報酬については、以下の要因によって変わってくるかと思います。


 1.時代背景(この職業ならこの報酬だよね、っていう暗黙の了解。要するに相場感)

 2.雇用者の時間的余裕(急ぎで頼みたいかどうか)

 3.雇われる側の時間的余裕(暇かどうか)

 4.雇用者と雇われる側との利害および信頼関係

 5.雇用者の財力

 6.雇われる側の実力(名が売れているかどうかも含めて)


 ここで、寿命がどうかかわってくるかというと、時間の価値が変わってくる。つまり「武力をどのくらいの間、提供するか」と「報酬をどのくらいの期間でもらうか」について、お値段設定が変わってくる。


 例えば、ワンピースで巨人族が海軍にだまくらかされて門番やってましたけど、「我々は長生きなので50年くらいの労働なら問題ない」というような記述が出てきます。人間だったらどうしても衰えるので、50年間現役で最前線の傭兵なんかやってられないのですが、彼らは年齢に寄らず安定した質の武力を提供できる。寿命が長い種族は、拘束時間に対して人間の感覚では破格の条件を提供しても応じる可能性があるわけです。一方で、待遇の保証期間については人間の感覚からしたら法外な条件を求めてくるかもしれない。「力を貸す代わりに今後1000年間、食事の保証をしつづけろ」とかね。


 というわけで、報酬の支払い方についてパターンをいろいろと列挙してみましょう。


 ①全額先払い

 ②半金を先払い、半金を成功報酬として後払い

 ③全額後払い

 ④出世払い

 ⑤派遣先の略取権を認めるなどの”お宝払い”契約。


 ①~⑤を見ると、⑤に近づくほどとりっぱぐれる確率が高くなります。戦争に勝てないと何も手元に残らない確率が高くなる。

 さらに、雇用者が用意する報酬および道中の必要な資源について。


 A.全て自前で調達する

 B.一部を借金して調達する

 C.全てを借金して調達する


 Aが理想形なのですが、戦争に次ぐ戦争を繰り返すほどにCに近づきます。そこで支配者は国民に重税を課したり、敵国から略奪をするわけですな。配下の軍や傭兵へすっきり約束した報酬を支払えるシチュエーションなんて、歴史では非常に稀です。軍隊ってめちゃくちゃ維持費に金がかかりますから。


 金銭的負担だけを考えた場合、雇用主にとって理想的な傭兵というのは「全額後払いの契約に応じてくれて、功績を出してから支払い前に死んでくれる」という奇特な人です。できれば一銭たりとも払いたくない。しかし払わないと悪評がついて以降、傭兵が雇えなくなる。困ったものです。


 一方で、雇われる側について理想的な雇用主は、「全額先払いの契約に応じてくれて、功績を出そうが出すまいが支払いをきちんとしてくれて、死亡した場合も遺族へ手当金を残してくれる」という奇特な人です。働かずに稼ぎたいし、よしんば死んでもとりっぱぐれがないようにして欲しい。


 ところで、エルフってどういう特性を持つんでしょうか? 大まかなイメージとして、


 ・人間より寿命が長い(400年くらい?)

 ・耳が長い。だいたい金髪のねーちゃん。

 ・森に住んでる奴(よく焼かれる)

 ・平和を好み、蕎麦を主食にするが狩猟もする

 ・人間よりも高度な魔法が使える


 このあたりでしょうか? ファンタジー世界のお約束として、略奪や強姦行為とは程遠い存在であるかと思います。そのあたりはオークとかゴブリンのお仕事ですね。


 となると、⑤の「報酬は現地の略奪権でどうぞ」とか「道中の食事は用意しとらんので現地の略奪で間に合わせろ」とかいう仕事は引き受けるかというと、まあ、拒否するじゃろと。


 一方で、魔法を使うため戦闘力が高く、倫理観が高いので契約を遵守しバックれることのない彼女らの存在は、雇用主としてはかなりの戦力となると思いますので、できれば確保しておきたい。最悪でも面倒くさいから敵に回したくない。ああ、オークたちは別ね。彼らはエルフを敵に回したい。後の楽しみがあるもの。


 ともあれ、エルフ傭兵へきちんとした報酬を用意できればいいんですけれども、先払いが無理なら後払いでお願いするしかないわけですな。で、後払いするとして、雇用主からしたらできる限り支払いを未来に延ばしたい。何故かって、手元にキャッシュを残せれば選択肢が増えるからです。エルフの傭兵以外の連中への支払いもあるでしょうし。


 ここで、支払い条件について。現実世界での実例として、アメリカの数百億円当たる宝くじがあります。全額一括払いでもらうのと分割払いでもらうのとでは、もらえる総額が大幅に異なる。とにかく、耳を揃えて支払うというのはどの世界でもなかなかしんどいことです。一括払いよりは分割払い。しかも3回払いよりは12回払いの方が負担が少ない。


 そこで、「すまんが、月々〇〇払いの100年ローンでどうだ」って申し出たらどうなるでしょう?


 人間なら、ふざけんな、と突っぱねる話も、残り寿命が300年のエルフなら、いいよ、となるかもしれない。そしてそうなると、30年くらいで怒り出す。


「おい人間。契約者が死んだから支払い契約をなかったことにしたいとはどういうことだ」ってね。


 我々人間の世界だと死んだらそこまで、となるけれども、寿命が違う者との契約だと死んだあとも契約が残る場合がままあるわけです。このあたり、法人とか国家が何百年も昔の契約を遵守するのと同じ感覚で、契約事項に数百年先でも死なない存在を規定する必要がある。


「人間はすぐ死んで反故にするから約束なんぞできるわけがない」ごもっともな話です。


 例えば100日後に寿命で死ぬと分かっている知性あるワニがいるとして。「3年後に必ず返すからお金を貸して」って言われたら、死亡保険の受取人になるケース以外は金を貸さんわけです。返済期間の設定は、金を貸した相手が生存している99日以内、しかももう死ぬからと突っぱねられたら詰むので、死ぬ直前よりも余裕がある時点にしたい。


 なので人間がエルフさんへ後払い契約する場合、ローン払いを申し出る場合も同じことが言えます。


「おい人間。お前はあと何年生きるんだ」とか「お前の資産状況と今後の出世を加味すると、支払いを延ばせるのは〇〇年先が限界だ」とか。


 ここで、「個人ではなく組織として保証するなり、国家として保証すればいいじゃん?」となるかもしれませんが、中世期という力こそ法の世界では、先の問題が出てくるわけです。


「貴方と契約した者は死にましたので約束はなかったことに」ってね。悪辣な人間どもなら言い出しかねない。普段なら支払えるとしても、飢饉とか疫病に襲われて余裕がないケースもあるでしょうし。契約した人間が数十年後に死んだ場合でも、エルフさんは何百年も覚えてますからね。人間たちが自分にやったこと、踏み倒しされた経験も含めて全部。


 というわけで、寿命が短いために必然的に信用力が低い人間たちは、エルフたちにとってとても”気が短い”契約にならざるを得ないわけです。十年後に完済なんてとんでもない、とか。折衷案として、報酬は金銭ではなく国の要職を任せるというやり方もあるかもですが、やはり先に言った「お前と契約した後ろ盾の人間は死んだぞ。お前は用済みだ」となって放逐されるリスクがかなり高い。その点、領土を与えて領主にするというやり方はアリでしょうね。王家に代々仕えるエルフ騎士さん。王宮魔術師がエルフという設定の物語がちらほらあるのは、こういった支払い関係を考えても妥当な話なのかも。報酬の出どころが属人的ではなく、領土などに帰属するものであるならば。


 そういうわけで、今回のまとめ。「長寿命の連中でもローン先払いで逃げるのは難しい」「死んだらなかったことに、は後々の遺恨を残す」「長期契約するなら領土を与えて部下にしろ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 寿命が長い種族って犬と人間みたいな感じで生きた年数と老化度が人間と合わないから実際には65歳で受け取り始めると人間では働き盛りで受け取り始めるということになるんじゃないでしょうか
[一言] 長寿命種族と共に社会を築いて問題になりそうなのは、年功序列ですね。海外SFにカトリックに入信した異星人が上層部を独占してしまうのがあったけど。
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