10:勇者様ご一行は何故少人数なのかについて考えてみる
「おお、勇者よ。よくぞ現れた。10ゴールドとひのきの棒をやるから魔王を暗殺してこい」
ずいぶんと回りくどい処刑方法ですね。ゼロの使い魔の外伝、タバサの冒険でも似たようなシチュエーションが出てきます。あっちは竜狩りにかこつけてタバサ姫を殺そうとした話ですが。
ドラゴンクエスト的なお約束を取り上げた場合、だれしも次の2点について疑問に思うかと思います。
①何故、勇者は少人数で魔王討伐に駆りだされるんだろう?
②何故、弱い奴が勇者になってるの?
まあ、ドラクエ5以降の作品は②については必ずしも成り立ってないんですよね。主人公が勇者でなかったり、冒険を経てたまたま勇者としての力に覚醒したりする。魔王を倒してこいと王様が命令する前に、主人公には魔王を倒す動機があったり。しかし①は揺るがない。勇者パーティは常に少人数で、魔王を討伐する必要がある。ついでに言えば②もおおむね満たしている。冒険初期の勇者はぶちスライムを倒すのに数ターンかかるカスだったりする。
これらの状況から必然性を導き出すとするのならば、
「魔王暗殺ミッションは少数精鋭が最も効率が良い」
「魔王討伐を達成する者は、冒険開始当時の強さではなく強くなる素質に秀でることが重要である」
になるのではないかなと。中二病ならときめきますよね。「潜在能力なら俺より上だ」って台詞。実際、勇者ダイはアバン先生より素質は上ですし、ロトの血筋を持ってないと魔王討伐に必要な天空装備を身につけることはできません。物語のヒーローになる奴は産まれた時から魔王討伐を為しえるか為しえないかが決まっていて、モブキャラの村人はせいぜい人質にされるくらいの出番しかない。
②の、スタート地点での勇者は何故弱いのか、という話については「素質の高さが弱さを補う」「勇者の素質は唯一無二である」が説明になるとして。じゃあ何で使える武器を与えないの?とか、じゃあ何で鍛え上げてから送り出さないの?とか思うわけです。それに対する回答はこうなる。
②-1 まともな武器を与えたり、鍛え上げる余裕がない
②-2 まともな武器を与えたり、鍛え上げることにより何らかの不都合が起こる
②-1はとても分かり易い話です。追い詰められたお城の王様。虎の子の勇者を送り出したいが、どんだけ頑張ってもひのきの棒と10ゴールドを持たせてやるのがせいぜい。「すまないがこれで頑張ってくれ。周りはスライムばかりだからどうにかなると思う」
ザ・無能の為政者。お前らそんな状況になるまで何しとったんじゃ。
しかし、村から一歩出たらモンスターが徘徊する地域ですとろくな作物も育てられず、貿易しようにも流通経路が崩壊していてにっちもさっちもいかないから仕方ないかもしれない。フランスだって戦争時の陸上封鎖ではネズミ食ってたりしますしね。
②-2に関しては、出る杭は打たれるという状況が考えられる。つまり、中途半端な武装を与えたり、中途半端な訓練を施して中途半端に強くなってしまった場合、魔王側に目をつけられて優先的に潰されるとか。実際、デスピサロさんもピッコロ大魔王さんも出る杭は打つタイプの有能な奴らでしたし。人間にとっては迷惑以外の何物でもないわけですが。
さて。②の疑問は解消したので①何故、勇者は少人数で魔王討伐に駆りだされるんだろう? について考えてみましょう。
一般論として、どんな生物も群れるほど全体の戦闘力は高まります。1人よりも10人ですし、10人よりも100人。100人の村人より1億人の村人の方がたぶん強い。武器が同じ条件なら。ところが、大軍を動員するとなるとどうしても以下の問題が出てくるんですよね。
①-1 大軍の場合、兵站が維持できず略奪などの方法を取らなければならなくなる
①-2 大軍の場合、移動速度に制約がかかり、意思伝達がうまくいかなくなる
①-3 大軍の場合、「キルレシオが超高い勇者」にとって「その他の有象無象」は行動の足かせになる
①-4 大軍の場合、敵に発見されやすくなる
”ゴブリンのジレンマ”って問題があります。人肉食のゴブリンの大軍を用意する場合、兵站に人間を引きつれるのは困難なので現地調達となる。すると、対立する人間が大軍でなければいずれ餓死してしまう。ゴブリンが大軍を動員するには人間も大軍でなければならない、と。
①-1について:
勇者様ご一行といえば正義の味方なわけで、彼らがやる悪行といえば土足で他人の家に入り、タンスをあさって薬草を接収したり、壺を割ってヘソクリの100Gを奪い取るくらいなもので、宿屋に行けばきちんと提示されたお金を支払って寝泊まりしますし、武器屋、道具屋へ行けばきちんとお金を支払って購入するわけです。殺してでも奪い取るというのはロマサガの世界だけ。
武芸に秀でたアタッカー(つまり勇者)が「今日の軍の食糧はどうやって手配しよう?」とか「今日の軍事費はどうやって調達しよう?」とか頭を悩ませたら実力を発揮できませんよね。なので、大軍を動員するならするで指揮官は別に立てる必要があるし、兵站確保の担当も国家が用意した方がいい。
①-2について:
だいたい150人くらいが、人間が声を出して耳に届けられる限界だそうです。電話もテレパシーもない世界で、規律ある軍事行動というのはとても難しい。また、例えばルーラ(瞬間移動呪文)を使える勇者様ご一行にとって、使えない有象無象連中との連帯行動を強いるのは、機動力を殺す行為になるわけです。ここでも、無理に一緒にいるメリットがない。補給地点としてなら利用価値はありますけれど。
①-3について:
「周囲の3000メートルを吹っ飛ばす広域破壊呪文を、仲間の巻き添え覚悟で撃てるか?」って場合、善人の代表たる勇者様なら普通は躊躇しますよね。いよいよとなったらやるかもしれんけど、足手まといの仲間がいない方が悩むこともない。せめて捨て石の肉盾になれるくらいの戦力なら連れて行ってもいいかな、という感じですが、「回復呪文の負担だって馬鹿にならねえ。レベル差による足切りはありがてえぜ」by真勇者ポップが冷静な判断ですよ。こういう意味でも有象無象の大軍はいらない。
①-4について:
これ。これが最大の理由かもしれない。少数精鋭のメリットは「余計な戦闘を避けられる」ところにあるわけです。なんなら魔王様が寝ているところを襲撃できたり、あるいはこっそり毒薬を盛れるとなおよい。目立つ大軍は陽動にして、敵軍に擬態して忍び込むのも少数精鋭なら可能かもしれない。暗殺の成功率って武力だけじゃなくて隠密性にあるんですよね。気づかれないことに全振りしているのなら、非常に合理的です。
ともあれ、①-1~①-4は全て、「国家の持つ通常戦力ではあっさり魔王を殺すことができない」という前提によるものです。軍隊出しすのって金がかかるからなるべくやりたくないとか、被害が大きいとか、そもそも殺す実力がないとかの理由。
というわけで今回のまとめ「勇者様ご一行が少人数なのは合理的」「冒険を通してレベルアップする前提なら、スタート地点での勇者は弱くても構わない」




