14:魔王と国家の関わりについて考えてみる
「王って称号がついている以上、国民の上にいる存在でないとおかしいよね」
「箔をつけるために王って称号がつけられてるんじゃない?」
「それなら魔神とかでいいじゃん。何で人間ごときの社会構造で貴ばれてる階級の名称を採用する必要があるのかね」
魔王って、何で王って呼ばれ方をされているんだろう?
もっと言えば、単独戦力として他を隔絶するほどの最強で、キルレシオが無限大かつ数千年以上の寿命を持つ存在を魔王と規定した場合、その”魔王”と国家の関わりはどういうものになるのだろうか?
中世⇒近世⇒現代にいたる国家の形成と法による変遷って、軍事力をどう調達するかと、調達した軍事力をどうやって制御するかって話が密接に絡むんですよね。
例えばイギリスのクロムウェル卿は王ならずして王に近い権限を持ったわけですが、彼をそういう地位にしたのは第一に軍事的才能があったからです。国家の危機に置いては、「この人のいう事を聞けば勝てる」という指揮官が必要だった。そして、「勝てる」ということは「戦勝品による食い扶持が期待できる」ということを意味します。近世までの戦争はオールオアナッシング。勝てば全部を手に入れられるし、負ければ何も手に入らないどころかそれまで持っているもの全てを失いかねない。だからこそ指揮官には強権が付与されましたし、その強権は指揮官が率いる軍事力によって支えられていました。
兵隊が貴族階級の騎士などの少数精鋭から国家による大量動員になった経緯は、銃火器と爆薬の発明、さらに窒素固定法の発見による火薬の大量製造が可能になったところから顕著なのですが、貴族による騎馬突撃、弓兵によるロングレンジからの射撃、銃の性能向上による貫通力と射程距離の増大、ガトリング砲など機関銃の発明による銃剣突撃戦法の消滅……と、武器による戦術の変化とも密接に絡んできます。十字軍遠征による権力構造の変化とかも絡んできますので詳しく知りたい人は歴史の教科書読んでください私もよくわかってない。
ともあれ、現在のようにほぼ全ての国家が職業軍人による常備軍を持っているのは、「そうしないと国家防衛ができないから」というシンプルな事情によるものです。余談ですが2018年度の航空自衛隊のスクランブル(緊急発進)は1000件程度でした。他国からの領空侵犯を受けてのものです。戦争という言葉は遠くなったように思えますが、水面下での小競り合いは続いており、専守防衛ですら数も装備もある程度の水準の維持が必要となります。
しかし……軍事力を持つということは、「軍事力を維持するコストがかかる」ということでもあるわけですね。国家はこの軍事力のコストを租税および国債などの債券によりまかなっています。
先の話に戻りますが、クロムウェルが失脚した要因は「軍事力を維持するコストがかかる」という点がボディブローのように効いてしまったためなわけです。彼は軍事力によって支えられ、軍事力の主体たる軍人は金を要求するわけです。装備、弾薬、医療、衣食住、さらに退役後の年金。
このコストをどう調達するかっていうと、遠征による賠償金の獲得か、国内への税金となる。勝ってるうちはいいのですが、劇的な勝利ができなくなるにつれ国内へ重税を課すようになってしまった。ここで国民たちが話が違うと怒ったわけですね。前の国王と同じではないかと。
コストの支払いが厳しくなった時点で、軍隊を縮小して軍事コストを下げればよかったわけですが……それは自分の支持基盤を失うというジレンマに陥ってしまいます。日本でもありましたね、西南戦争。アレですわ。軍人を解雇するならするで、何らかの手当と職を用意する必要があった。それにつけても金がかかるわけです。
一方で、魔王様。
魔王>>>>>>>>超えられない壁>>>>>>>>>>魔王配下の軍隊
最初に挙げた定義からすると、こういう図式になってませんかね?
これって、「配下の軍隊から見限られるのが怖いからコストを支払わなければならない」という人間世界で成り立つ話が、成り立たないですよね。
つまり魔王様にとって、自分とこの軍隊って「雑用係としてあれば便利だけれども、仮にクーデターを起こされたとしても全員返り討ちにできる」というくらいの戦力。例えば大魔王バーン様って配下の六将軍&魔王軍の雑魚モンスターが束になっても勝て……うーん。腹心のミストバーンいないとして、バランさんどうにかすりゃ勝てます。そういう程度の存在。
「生活の保障ができないなら裏切るぞ? 金を出せ? やってみろ」
これが魔王。
配下への忖度は一切必要なし。
となるとさらに進んで「国家防衛の為に軍隊を形成する必然性」がかなり少なくなるんですよね。まあ、ワンマンチームってのは超絶強い奴を戦場からはじき出せれば勝ちなので、「魔王が留守の時どうすんの?」ってことでピサロナイトをエルフの森に配置するというようなことは必要になるわけですが。となると、魔王と魔王率いる国家の関わりって、下のようになる。
1.軍事力のほとんどを魔王個人の実力に頼る
2.”魔王が出てくる”ということ自体が敵国をけん制する抑止力となりうる
3.軍事力を維持するためのコストが非常に低く済む
4.1~3の理由により、国民は魔王を縛る実力を有しない
5.魔王を縛る実力を有しないため、憲法その他の法律は魔王に適用することができず、仮にできるという名目にしたとしても魔王を掣肘する実力を持たないため有名無実化される。
ここでの軍事力≒魔王の実力なわけで、となると、魔王の実力を維持するコストって、一般的な国家が集める租税の額よりずっと少ないんじゃないかと。たとえば百万人都市だったら一人当たり1000円集めれば10億円になりますが、軍事予算が1年で10億円とかしょっぱすぎる。でも魔王一人がブルジョワ生活を送るには十分な額になりうる。
となると、「金は十分にもってるからこれ以上はいらん」ってなる余裕が魔王にある。さらにそうなると、「魔王は国民を守る義理はあっても義務はない」という状態にもなりかねない。信義違反とか言われようが、国民側には魔王を掣肘する実力組織が存在しないわけです。魔王からしてみれば、国民を守るのは自分の生活のためでもないし、自分の身の安全が脅かされるからでもないかもしれない。
配下であるはずの奴を暗殺されたのに、「〇〇ごときに倒されるとは……雑魚め……」なんて台詞がでてくるのもこのあたりかもしれない。
ぶっちゃけて言えば、王様をやる必然性が魔王にはないんです。統治する必要がない。あってもそれは個人の嗜好であって、「ヤバい地方に引きこもっている超強い魔物A」でも自分の生存は脅かされない。
一方、国民からすれば、魔王がいなければ国家防衛がままならないわけです。ここで人間式の統治体制にして王を置くか大統領制などを敷いて軍隊を組織化して……ということをして「超絶かかる軍事コスト」を支払い続けるか、「超強い魔物Aにこうべを垂れて魔王として祭り上げて軍事力になってもらう」か。後者の方が確実で楽だと考えたら……。
そう、魔王って国民の要請で祭り上げられた結果やっている、という図式ができる。
こうなると国民は常に魔王の顔色をうかがうし、魔王が自分らを下らん理由で虐殺しようが理不尽な理由で理不尽な戦場へ追い立てようが、かなりの部分まで我慢する必然性が産まれる。クーデター起こしたところで勝てませんし。
というわけで今回のまとめ、「魔王が魔王やってるのは軍事コストを最小化したい国民の利害のためである」




