4.5話 慟哭(最終話)
最終話です。
時系列で言うと、4話と5話の間の出来事となります。
こんこん
ノックの音がした。他に誰もいないし、もちろんお母さんだろう。
わたしはドアを開けるために立ち上がる。いったいなんだろう、そうやってドアを開こうとしたその瞬間、背後で、大地を震わすような雷鳴が、また耳朶を震わせた。
そこには、予想通りお母さんの姿があった。
エプロンをつけたまま、うつむき加減で立っている。
「ちょっといいかしら」とお母さんは言う。わたしがうなずくと、おかあさんはわたしの部屋に足を踏み入れる。
ドアを閉じ、「どうしたの?」と尋ねるが、それに答えず、お母さんはベッドの上に座る。首をかしげていたら、ぽんぽんとベッドを叩き、
「隣にいらっしゃい」
雨音がうるさいくらいに響いていた。何度も何度も雷が鳴る。
わたしはおそるおそるとなりに腰をおろし、お母さんの顔を見つめた。
お母さんもわたしの顔をじっと見つめていた。沈黙が気まずくて、なにか言おうと思った矢先、お母さんが口を開いた。
「ごめんね」
いきなりだったので、その言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
「ごめん、ごめんね」
お母さんはわたしの頭に手を伸ばし、胸の中で抱きしめた。お母さんの体温が肌を伝わってくる。お母さんの体はやわらかかった。やわらかく、わたしを受けて止めてくれた。
「おか、あさん……?」
お母さんのエプロンの生地の網目まで見える。わたしは驚きに目を見開いていた。
「ごめんね。お母さんが弱くて、ごめんね」
何度も何度もお母さんはごめんねを繰り返す。それしか、言葉を持ち合わせていないかのように、何度も。
「私が守ってあげなくちゃいけないのに、こんなお母さんでごめんね」
お母さんの声が頭の中をじんじんと温める。心が溶け出していくのがわかる。
「でも、こんな情けなくてだめな母親でも、わたしはあなたのことを愛しているわ」
「おかあ、さん……」
お母さんの手がわたしの頭を優しくなでる。
「おか、あ、さん」
「うん」
「おかあ、さん……!」
強い嵐がわたしのなかで吹き荒れた。
わたしは泣いた。
初めはぽろぽろと、やがてしゃくりあげ、叫ぶようにして泣いた。
おかあさんにしがみつき、かきむしるみたいにして涙をこぼす。
もう理性も何も残っていなかった。ただ、胸の内側からどんどん流れてくる感情に身を任せ、わたしは声を張り上げ続けていた。
窓の外の雨が一層激しくなった。大きな雷鳴がとどろく。
お母さんはいつまでもわたしの頭をなでてくれている。
わたしは、体力を出しつくし、喉を枯らし切るまで、いつまでもいつまでも泣きつづけた。




