▶起きる
▽…………。
▽…………。
▽多分死んだのか。
▽最後に見るのがあの女の泣き顔かよ。
▽………………。
▽最悪だな。
▽あたりを見ると、ぷかぷかと浮かぶ物がたくさんあった。
▽見覚えがある物ばかり。
▽ソーダアイスに
▽花火
▽誰かからのラブレター
▽消毒液の容器
▽サッカーボール
▽松葉杖
▽ゲーム機
▽……写真立て
▽………………。
▽全部、見覚えがある。
▽けど
▽誰のだったけ。
▽ぷかぷかと浮かぶベッドの上に
▽寝転がる。
▽知ってる。
▽けれど、知らない。
▽不思議な空間だ。
▽今は眠ろう。
▽そうだ、あしたにでも、考えたらいい。
▽……後回し、誰かに怒られたっけ。
▽まぁ、いいか。
▽目を瞑ろう。
▽夢を見たら、きっと何かを思い出せるはずだ。
▽きっと。
▽………。
▽……。
▽鼻先にふわり、なにかが触れる。
▽手を伸ばす。
『いつか本物、買ってやるよ』
▽あ
『やったー!約束だよっ!!』
▽花冠をのせ、
▽白詰草の指輪を大事そうに眺めていた少年が
▽こちらを向いて笑う。
▽覚えてる。
『健ちゃん!』
「穂波っ!」
なぜ思い出せなかったのだろう。
なんだよ、この空間。
手にはいつの間にか白詰草があった。
俺らのいつかの思い出。
ソーダアイスも、花火も、誰かからのラブレターも、消毒液も、サッカーボールも、松葉杖も、ゲーム機も、全部穂波との思い出。
穂波が経験したこと。
「穂波っ!どっかいんのかよっ!!」
ふよふよと浮いているものを視界からどかしながら、叫ぶ。
誰もいない。
…………いや、いる。
「……キュウっ!」
「8c 92 82 bf 82 e1 82 f1 82 c1 81 49 !」
なにかを喋っているが、聞き取れない。
「どこ行ってたんだよっ!心配してたんだぞっ!」
「81 63 82 b2 82 df 82 f1 82 cb 81 41 82 e2 82 e9
82 b1 82 c6 82 aa 82 a0 82 c1 82 c4 81 42」
やはり聞き取れない。
いつもの鳴き声でもない。
「………穂波は見なかったか?」
「……」
口を開けたまま、こちらを見つめてくる。
数秒そのままだったが、なにかを決意したような素振りを見せたあと、方向転換をし、頭の触手でそちらを指してくれる。
「あっちだな!一緒にいこぅ……、あれ、どうしたんだよ。」
指してくれた方向へ共に向かおうとした時、キュウは突然俺の手を離れ、ぷかりと浮かび始めた。
「89 b4 82 e2 82 e7 82 c8 82 ab 82 e1 82 a2 82 af 82 c8 82 a2 」
「…………もう、あいつのとこに戻っちゃうのか」
そう聞くと、少し考え込んでから、頷きを返してくれる。
「もう会えないのか」
聞き取れない言葉ではなく、やはり頷きで返してくれる。
「そっか…、そっか。
ごめんな、ポケット窮屈だったよな」
「81 63 82 dc 82 9f 81 41 91 bd 8f ad 82 cd 81 42 」
「俺、次も失敗するかもしれない。
……でも、こんなこと言ってたら、穂波に怒られるよな。
会長にも、みんなにも。」
浮いているキュウを再び手元に寄せる。
「…………あのさ、あの女のところに行った時、ごめんな、置いて行って。
ただの他人にあんなに泣いてくれて、声も枯らして。
……ちっちゃい時の穂波みたいだった、だから、いつの間にかいなくなってた時、心配になったんだ。
……なんか……うん、違うな……俺、ありがとうって、伝えなきゃな。
リセットしたあと、母さんと父さんが、穂波がいなくて……絶望した俺に声をかけてくれてありがとうな。
もしかしたら、諦めてたかもしれない。
ずっと眠って、ずっと夢の中で死んでたかもしれなかった。
そのもしかしたらが、キュウがいたおかげで回避できたかもしれない。
全部もしもの仮定だったけど、ありえないことじゃなかった。
だから……本当にありがとう。戻っても、キュウのこと忘れないからな。
俺、頑張るからな。
応援しててくれるか。」
キュウに祈りを捧げるように頭を近づけて喋る、喋り終えた俺のおでこが少し湿る。
キュウの手だ。小さな手で最初の時のように叩かれている。
……ありがとう。
その小さな手に勇気を貰える。
最初は信頼もなかったのに、今は勇気を貰えている。
「お前なら、あの女のところでも上手くやってけるよな。」
「…………キュッ」
いつもの返事が小さく返ってきた。
そうだよな。
「91 e5 8f e4 95 76 82 be 82 e6 」
「……うん、ありがとう」
なんとなく、応援の言葉な気がして、俺はそう返事する。
満足そうな素振りを見せたあと、俺の手を離れていく。
今度こそお別れだ。
手を振っている。キュウが手を振って離れていく。
寂しい、会ってからそんなに経っていないのに、なんだかパズルの1ピースが足りなくなるような感覚がする。
そんな気持ちを振り払って、俺も手を振り返す。
「じゃあなっ!キュウ!」
「キュッ!」
次は大きな声で返事をしてくれる。
瞬く間に離れていき、小さな点になって見えなくなる。
「……さようなら、キュウ」
小さな小さな黒い点に再度別れを告げる。
俺はキュウが指してくれた方向へと向かった。




