第五 『ひよっこ気取りのプロ』
長いです。本当にマジで。
多分、今この光景を見た人たちはわからないだろう。
というか、きっとカツアゲにしか見えないだろうな。
「お前を攻略する。」
俺(七音)の平凡イケメン系幼馴染が俺を脅してくる。
朝は平和だったはずなのだ。
待て、平和ってなんだったけ…?
*数分前 通学路
一緒に登校しているこの乙女ゲーの主人公である霜井戸孝乃
平凡イケメンである彼は、七音の幼馴染だ。
「今日の学食、エビ天なんだって〜。いいよねぇ」
「そうだなぁ、俺ら弁当だからな。」
「明後日は学食にデザートとして、私の大好きなパンケーキが出てるから、明後日だけお母さんに休んでもらおうかなぁ」
「お母さん、たまに休むよな。お昼休み、明日と中庭で食ってるの見たよ」
笑いながら、コウちゃ…今、なんて言った?
俺らを見た?この世界の住人が見てないし、聞いてないことを想定して、大声で笑いながら、大股開いて
駄弁ってたぞ…?
コウちゃんから目を外す、冷や汗が出るのがわかる。
「それにしても、元気だよな。男みたいに喋ってる七音、初めて見たよ。」
その目線は明らかにこちら側の弱点を突いてることを知っている目だ。
次の瞬間、コウちゃんがニヤリと笑うのが見えた。
「なぁ、誰だ?」
こんなイベントがあるのなら、七音が異人のような扱いを受けることになる。
ギャグイベント?シリアスイベント?
幼馴染の危険だ、あいつはその事をちゃんと言うはずだぞ。
だって、あいつはあの時…
*回想 穂波家
俺がゲームで遊ぼうぜと言い、穂波の家で遊んでいる時だ。
穂波は突然、マリカーで対戦してる俺の隣で話し出した。
「俺な、エンディング多数ある系のゲームは全部見たくなんの。」
「めんどくさくね?うぉっとい」
「いや、これが面白いんだよ。」
「なにがだよ」
俺が訳がわかないというように笑うと、そいつは少し目線を下げて
ボソボソと言う。
(お前のカート、逆走してるぞ)
「恥ずかしいけどさ、その全部のシナリオを考えてくれる人がいるし、一生懸命プログラムしてくれた人もいるんだから、全部見た方が楽しいって思えるし、全部見た後のやりきった感は気持ちいんだよ。」
くだらないことを考えながら聞いてた、俺は思わず穂波を見て言った
「…最初の恥ずかしいけどはいらないと思うぞ」
「?」
「だって、お前の考えてること立派じゃん。それともヒロインになりたいのか?」
「…な、りた…くないね!!」
少し躊躇うように言い放ってることに、少し違和感を感じていたが、俺はその違和感をほっぽって
だろうなーとコントローラーをベッドに投げ出し、絡みに行く。
*回想終了
「お前が、誰かは分からんがなぁ、主人公を騙して楽しむ野郎か?それとも、話題の異世界とか奴か?」
まぁ、どちらにしろバカバカしいけどなと鼻で笑うコウちゃんに俺は戸惑うしかなかった
「…返事くらいしろよ、初めてのやつか、それとも野郎なのか?」
声も心なしか低くしてきてる
本当にカツアゲをされてるようだ。
「返事がないなら、男として扱うけどいいな?」
まずい、非常にまずい
焦って声が出ない。
「お前知らないだろうけどさ、これはイベント(強制恋愛)じゃねぇんだよ。
けど、"今は"自由に喋れるはずのお前がなぜ話せないと思う?」
俺の顔の真ん前まで近づいてくると下衆い顔をしながら、言い放った
「人は焦りを覚えるとなかなか言葉が出ないんだよ」
「ひっ…」
「なぁ、お前が男ならのたとえ話してやるよ」
男っていうのはこんなに怖いものだったか?
男である俺が言うのもなんだが、本気で怖い。
「お前を攻略する」
…は?
*現在
俺から一定の距離を離れて、
「勘違いするなよ、お前をはずかしめるためとかじゃなくてだな…」
わたわたとしている様子に先ほどの恐怖がなくなる。
一時的にだが、ホッとしてる俺に対して、指をさして睨みながら言った。
「舐めるなよ、俺はこのゲームの主人公の記憶を全て受け継いでいるんだ。だからこそ、恋愛に関しては
俺が一番なんだ…あっ」
やっちまったと顔を青ざめて息を切らしてる姿を見て、俺の緊張の糸は完全に切れた。
重要っぽそうな情報かな?まぁ、いいか。
「…そっか、お前も転生者か?」
「…ふぅ…いや、違う。俺は…ただの主人公だ。そして言っておくと、このゲームの攻略対象者は自我を持っている。お前も攻略対象者なんだ。攻略しなきゃいけないんだ。」
「…垂直に言うとさ、一応俺、体は女、中身は男的な感じなんだよ。さっきお前の言った通りだよ。」
コウちゃんは、俺の言葉にニヤリと笑う。
「俺にとっては好都合だよ。あっ、言い忘れてたが、俺らの性格はゲームのせいなのか知らないが…安定していない。それを理解した上で話してくれ。」
「は?一体何が好都合なんだ?男だぞ、俺だったら女を選ぶな。そのあとについては了解だ。」
「これだから、恋愛のひよっこは。」
あ?まるですべてが手馴れてるとでも言いたげだな、おい。いや、そうだろうけどさ。
俺も男だからこそ、売られたケンカは買うんだよ。
「つまりは、テメェは恋愛マスターってことだな、理解した。俺にケンカを売ったって事をな。」
俺は少し声を低くする。だが、相手にひるむ様子はない。
「俺は男が好きなんだよ。」
「…別に差別するつもりはないんだが、身近にあんまりいないせいで慣れないな…」
少し頭を掻く、が油断したのが悪かったのだろう。
俺の手を掴み、目の前で言った。
「そうか、じゃあ、こうされても文句はないよな。」
ニヤリと笑うコウちゃんを見て、俺は焦りを覚えた。
やっちまった…!
うわ、長い。
誕生日だぜい、イェア。
コウちゃん「コウ都合だぜぃ」