第十七『雑音、雑念、』
先生が教室から出ていく。
明日ちゃんがナイスと指を立ててくれるのが見える。
七音ちゃんとの作戦で彼女は現状を七音ちゃんへ伝えてくれている。
霜井戸くんも、七音ちゃんからの提案で発言してくれたのだろう。
そんな霜井戸くんは急に立ち上がり、黒板の前へ行き、チョークを取って、書き始める。
「俺の把握のために申し訳ないんだけど、一連の流れを確認したい。財布がなくなったんだっけ。」
「そう」
「着替えから戻ってきたら、無くなってた。」
『財布がなくなる。』と中央に書かれる。
「その前後の流れも確認したい、財布を最後に見たのは?」
「着替えを取るためにロッカーに行って、その時には確実にあった。」
「いつからないと気づいた?」
「着替えから戻ったらって言ったろ」
「違う、時間だよ」
「じ、時間って」
「プールは何限目?」
「3、4限目だから、12時30分前くらいだな」
そう、お昼前。
七音ちゃんが授業中に溺れて、明日ちゃんと私が保健室までついて行って、お昼を食べて、帰りには荷物を持って一緒に帰った。
クラスメイトの心配はすれど生徒だ、攻略対象に近づくことは少ない。
だから、誰も気に留めてなかった。
ただ、この問題はプログラムとして進行している。
こんなイベント今までなかった。
園ちゃんが不良になってしまっても同様に、私が死に……それ以降は…わからないけれど。
きっと誰かが結ばれている。霜井戸くんと。
『前原高菜が死ぬこと』、『園ちゃんが前原高菜をいじめるようになったこと』。
そして、今回に関しては『七音ちゃんが新しく生成されてること』。
異例中の異例、本来の世界線ならありえないシナリオ。
明日ちゃんはいつも通りだし、霜井戸くん
の狙いは多分七音ちゃんルートだし…。
一体誰がこんなことを?
頭がぐるぐるする、けど、園ちゃんのために全ての真相を明確にしないといけない。
攻略情報なんてないんだ。
手をぎゅっと握る、手汗が酷い。
会長が来ても弁明出来なければ、どうなるのだろう。
そう考えて、そわそわとし始めてしまう。
「…考えたんだけど、外部犯の可能性は?」
「ないだろ、鍵はしっかり閉めて、あ…」
「そう、鍵はしっかり閉まってた。
それを裏付ける証拠は?」
「証拠てか、証言になるけど、私たち5人グループが最後に出て、この子が鍵を閉めたのはちゃんと見てるよ」
「鍵係だから、ナオたちと出た後に閉めたよ」
「その後鍵は?」
「…………」
鍵係の子は急に黙ってしまった。
顔色が悪くなっていく、思わず駆け寄りたくなるほどに心配になる。
「……プールの、ロッカー………」
それを聞き、皆がざわめく。
「じゃあ…」
「うちのやつらしかねぇじゃん…」
プールのロッカーは倉庫にある、その倉庫は見学者席の近く。
「倉庫に行かない限り、鍵は開けれない」
「で、でも鍵係が実は隠し持ってたりとか…!」
「はぁ!?疑うわけ!?」
「当たり前だろ!?泥棒がいるんだからさ!」
「落ち着け!」
「でも…!」
「…一回冷静になってさ、話し合おう。
ロッカーに入れた時も5人一緒に?」
「……違う、委員長と」
「スマホ持ってきたバカから没収したのを一緒に置いてた」
鍵係さんと学級委員長は、目を合わせる。
嘘をついてるというより、お互いを犯人にしないように慎重になってるように見える。
真相を暴こうとすると、壁がいちいち阻む。
何か抜け道がないかとうんうん唸っていると、教室のドアが開く。
「呼ばれてきたわ、ごきげんよう、霜井戸くん。」
「ご……ごきげんよう…」
口の端を引くつかせながら、無理矢理笑みを浮かべている霜井戸くんと、本当にごきげんな生徒会長が並ぶ。
霜井戸くんへの挨拶を済ませた生徒会長は、わたしたちへと向き直る。
「ごきげんよう、他の方。
私を呼んだのはあなた方ね、霜井戸くんの手を煩わせるほどでもないわ、こちらをご覧になって」
生徒会長は急にスマホを取り出す、教室のプロジェクターが起動し、スクリーンも降り始める。
「なに」
「なんか動画とか?」
……動画?
スクリーンに映し出されたのは、廊下の映像。
画角的には…掃除用ロッカーの上のあたり?
もしかして、事前に…準備して……?
5人グループが出て、鍵を閉めている様子が見える。
ここまでは証言通り。
違ったのは、記憶にない映像。
映像には、本来いないはずの………。
「は?」
私と生徒会長がいた。
ゾッとし息を呑む、ここまで作戦を?
「ここまでは皆が話した通りね。
この後をよく見て欲しいの」
私たちが教室から出て行く。
その数分後、廊下の先から女子生徒がこっそりと歩いてきた。
「え」
園ちゃんが動揺し始める。
というよりは、全員が顔を同じ方向へと向けて、動揺していた。
そこに写っているのは、園ちゃん………ではなく、園ちゃんと仲の良い2人。
「……」
「…………チッ」
不良だからという先入観で学校外でサボっていたという証言を信じてしまっていた。
動画の続きには、何も持っていなかった彼女らの手に握られていたもの。
自分がどれだけ無垢な存在なのかを再確認した、財布を取ったのは彼女らだ。
生徒会長はプロジェクターを切り、こちらに向き直る。
「これにて事件は解決よ、財布を返しなさい。」
「…でっちあげじゃね?」
「園が取ってこいつったからじゃん、だる。」
「言って、な………っ!」
罪を逃れようと責任転嫁をし始める2人、思わず悲鳴をしようとした園ちゃんは自分が否定すると矛盾することに気づき、すぐ口を紡ぐ。
が、近くにいる一定数には聞こえてしまっている。
「否定してんじゃん」
「動画が本当なら……旗靡さんも否定してるし……」
「お前らが悪いのは分かったんだから、早く返せよ!」
「だから知んねーつってんだろ!!」
「園ぉ、お前が指示したんだからさぁ!
早くこいつらなんとかしろよ!」
「きゃあっ……!」
「っ!」
2人は逆上して、机と椅子を蹴っ飛ばしてしまう。
周りの生徒は2人からすぐに離れる。
そんな2人は園ちゃんへとまっすぐ歩みを進める。
だめ。
「高菜ちゃ」
「やめて!」
「……」
ガタンッと机を倒して、園ちゃんの前に出る。
「前原!」
霜井戸くんが叫ぶけど、絶対にどかない。
「邪魔だわ、どけ!」
「嫌だ!」
「どけって!」
握られた拳が飛んでくる、ぎゅっと目を瞑り、痛みに備える。
「ッ!」
痛みは来ず、温かいものに包まれている。
「…」
「霜井戸くんの目を汚すようなことをしないでくださる?
不快だわ」
包み込んでいる人の肩越しから、生徒会長が見える。
その手にはスタンガンが握られている。
怖くなり、包み込んでいる人の服を握ってしまう。
「……痛っ」
「……園ちゃん…?」
園ちゃんはハッとして、離れていく。
顔を合わせて、園ちゃんは目線を私から外し、ふらふらと目線を漂わせる。
涙が溢れてくる、もしかして守ってくれたのかな。
私を何度も殺した偽物なんかじゃない、私の目の前にいるのは旗靡園ちゃん、私の初めての友達になってくれた人。
私が泣いたのを見て、園ちゃんは動揺して、逃げ出してしまう。
「っ!待って…!」
「高菜ちゃん!」
逃げ出す園ちゃん、追いかける私、後ろから明日ちゃんが私の名前を叫ぶ。
嫌だ、嫌だ嫌だ!
どうにかして追いつこうとする、体力差がありすぎて、だんだん背中が離れていく。
逃してしまったら、もう一生話せないかもしれない。
追い詰められたあの子がどんなルートを辿るか知っている。
そんなの嫌だ。
「ハァッ、ハァッ!園ちゃん!」
「…っ」
「ねぇ!!話そう!」
「…うざいうざいうざい!お前なんか死んじゃえばいいんだよっ!!」
「ごめんなさいっ!ずっと、はぁ、あや、ふっ…」
「うざいうざいうざいっ!!!!来んな!!!」
「あ、はぁっ…!あやま…!」
階段を駆け上がる、鳴り響くチャイムは廊下に響く、誰もいないわけじゃないけど、それらはただの背景。
上がった息と私の心臓の音、2人が走る足音、チャイム、他は雑音でしかない。
「おねがっ…」
「それ以上来るなっ!!!」
気づけば、私たちの因縁の場所にいた。
(屋上…)
大丈夫。
震えを噛み殺し、一歩前に出る。
つじつまが合わない部分は全てを書き終えてから、直していきます。
温かい目で見守ってくだされば幸いです。




