第七 『男のロマンは届かぬところに』
プール回だぁ!
女子に転生したなら、溺れなきゃ、損だな!(にっこり)
「ぷはぁ!」
「つめったーい!」
「ちょっと、水かけないでよー!」
「ふふふー、私には勝てな、もごごっ!?」
目の前でキャキャウフフがある。
だけれど、触れない。
俺が、もしギャルゲーのハーレム系主人公だったら…。
この手は…!この虚しく空を切るこの手は…届いたかもしれないのに…!
「シリアスみたいにしてるところ、悪いけど、ただのプールだよ?」
「どうしたの?自由時間だから、遊ぼうよ!」
ああ、天使がいる…。そんな澄んだ目で俺を見ないで、罪悪感やばいから。
「そうだね!うんっと遊ぼっか!」
俺は出来るだけの笑顔で、水を高菜ちゃんにかけた。
「ひゃっ!やったなー!えい!」
「私もやっちゃおう!えーい!!」
高菜ちゃんは小さな手で掬い上げた水を俺にかける。
それに反して、勢いよく俺に水をかける明日。
反射力の悪い俺は、大きな波に飲まれる。
「きゃあ!!ブググ!」
「た、大変だよ…!もう明日ちゃん!」
「え、えへへ。ごめんち…」
高菜ちゃんの声が聞こえる。
明日は、申し訳なさそうに謝る。
息がどんどん薄れてきてる気がする。
「って!け、んん。七音はカナヅチじゃん!!?」
「えええっ!?ど、どうしよう!上野さん…!!!」
*
俺の目の前で、健ちゃんが溺れる。
その光景に動けずにいる俺の頭には、走馬灯のようなものが流れた。
小学三年生くらいだろうか、健ちゃんと俺が川に遊びに行った時だ。
雨が降った後だったからか、川の水は増していた。
運悪く、足を取られた健ちゃんだけが川に溺れた。
大人が周りにいない、息ができない。
どうすればいいのか、その時の俺にわかるはずはなくて。
健ちゃんの手をずっと引っ張っていた。
やっと引き上げた頃には、健ちゃんは泳ぐことに対して恐怖症を持つようになった。
最初は水が怖かったらしい。
だが、だんだん馬鹿らしくなってきたようで、怖がりながらも水に触れるようにはなっていた。
さすがだなと思っていたが、水を触れる時の震えようは、とても馬鹿らしくなったと思うようなものじゃなかった。
「健ちゃん、無理しなくていいんだよ?」
「大丈夫、大丈夫だぞ」
自分に言い聞かせるように言うその言葉を俺に向けた。
慌てている俺を安心させるために。笑顔で。
あの時、俺は何をすればよかったのだろうか。
何をすれば、こんなことにならなかったのだろうか。
目の前の健ちゃんを…救わなきゃいけない。
なのに、足が動かない。
そんな、なんで。
今、目の前で起こっている状況は自分が作り出したもの。
どうすればいい?
そんな自分の問いかけに、自分は答えることができない。
隣にいた高菜ちゃんが、俺を一瞬心配そうに見つめた後、ざぶんとプールに入った。
「なんで…」
ぽそっと呟く。
困惑、混乱、錯乱、そんな言葉が頭に浮かぶ。
決心した目が見えた。俺にはない、気持ち。
彼女は立派だ。俺よりも。
勇気があって、おどおどしてても可愛らしい。
「俺は…?」
意気地なし、弱虫、泣き虫、のろま、うざくて、バカで…。
嗚呼、俺って思ったより、クズだったんだ。
友達を放っておくようなバカだったんだ。
「あ、明日ちゃん…?」
「あれ、なん、で、あれ?」
近くにいる女子が俺を見る。
それは尊敬の目でも、軽蔑の目でもない。
混乱の目だった。
俺の…いや、明日の目から涙がボロボロと出る。
拭っても止まらない。
「あ、明日ちゃん!お願い!人工呼吸して…!」
目の前に高菜ちゃんが不安そうに泣く。
どうすればいい?
目の前に目を閉じている七音がいる。
起きない。
呼吸がない。
あんなに楽しそうに笑ってたのに?
ああ、どうしよう。どうしよう。
涙で前が見えない。
歪む、歪む、景色が歪んでいく。
「ケ…ンちゃ…」
手を伸ばす、そこには俺の呼んだ名前の人物ではなく、七音だけが倒れている。
(どうすればよかったのかな?)
俺は意識を手放した。
プールはいいぞい。
そういえば、高校ってプールあったけか…?
この学校はあることにしとこう!(開き直る)
そして、謎の壮大描写だから深いことにしておこう(遠い目)




