真実は一つ
一週間後
奥寺が三好にタブレットから動画を見せていた。件のインフルエンサーのものだった。
「先日の投稿につきましては、該当製品購入後開封し、一定期間経過の後の出来事でした。従いまして、『未来製菓』様の製造ミスによる可能性は否定し、動画を削除の上お詫びしたいと思います」
黒い服を着て、深刻そうな表情で動画に向かっている。
[『未来製菓』に謝れ]
[『チョ子ちゃん』にも謝れ]
[これで謝罪とか笑わせるな]
[訴えられちまえ]
掲示板には、インフルエンサーを責め立てる言葉が並んでいた。
その時、奥寺の携帯電話が鳴った。工藤からだった。
「インフルエンサーには、虚偽投稿による損害賠償請求を行う旨を、すでに通知しました。また、偽計業務妨害で刑事告訴も行います」
その日のうちに、工藤は「未来製菓」近くにある警察署へ赴き、証拠を揃えて告訴状を提出した。また、インフルエンサーは、プロバイダーから制限がかかり、発信が出来なくなった。
「工藤先生、承知しました。またご連絡いたします」
奥寺が工藤からの電話に対応すると、すぐに内容を三好に伝えた。
「わかった。早急に開こう。マスコミ各社への連絡を頼む」
翌日「未来製菓」本社大会議室
多くの報道陣が詰めかけた。壇上には、三好社長、佐伯工場長、奥寺広報、そして顧問弁護士の工藤淳子と、特定社会保険労務士の福寿紗知が並んでいる。
フラッシュが焚かれる中、三好が深く頭を下げた。
「この度は、弊社製品に関する、先のSNS投稿により、多くのお客様、お取引先様にご心配とご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます」
数秒頭を下げ続けた後、顔を上げる。
「事実関係について、ご説明いたします」
モニターに商品が映し出される。三好は眼鏡をかけ、書類を手に取る。
「問題とされた製品の製造番号、流通経路、店頭での陳列まで、すべて検証いたしました」
書類から目を上げた。
「製造工程において、異物混入が発生した事実は確認されませんでした。さらに、SNS上に投稿された製品についても検証を行った結果、異物は開封後に混入された可能性が極めて高いと判断いたしました」
記者の一人が手を挙げる。
「それは、捏造だということですか?」
工藤がマイクを取る。
「現時点での断定は致しかねますが、事実関係から判断しますと、第三者による意図的な関与の可能性が高いと考えられます」
「『偽計業務妨害』や『名誉毀損』が考えられますが、警察への対応はどうなっていますか?」
「はい。そちらについては、偽計業務妨害に該当する可能性があると認識しており、既に相談を進めております」
会場の空気が一段と引き締まる。
「一点、補足させてください」
福寿がマイクを取った。
「特定社会保険労務士の福寿と申します。私は今回、第三者として、『未来製菓』様の内部調査を担当しました」
記者達がシャッターを切る。
「結論から申し上げますと、内部から意図的にこの様な行為が行われた可能性は、極めて低いと判断いたしました」
「その根拠はなんですか?」
記者が手を挙げ、質問をする。
「労務環境、定着率、社員評価制度、技術継承体制等、これらを詳細に確認しました」
福寿の次の言葉を待ち、会場は一斉に静まり返っている。
「通常、自らの所属組織を毀損するには、それなりの理由が存在します。ですが、今回はそういった理由が、内部には存在しませんでした」
「ということは、外部からの可能性があるということですか?」
三好が手を挙げ、マイクを取る。
「職人の引き抜きを画策したと思われる打診があった事は事実です。しかし、該当の従業員はいずれも断っています」
工藤が後に続く、
「本件との関係は現在調査中でありますが、全ての可能性を検証しております」
記者達がざわめいた。工藤が福寿に視線を送ると、福寿は再度手を挙げた。
「社会保険労務士の視点から申し上げられることとして、離職率1%以下。10年間、労災事故ゼロ達成は、大変な努力です。この様な会社を、私は他に知りません。さらに、ライバル社からの引き抜きに関しても、破格の条件を全員が断ったという事実が確認できました」
三好が福寿の姿を見つめる。
「これほどまでの愛社精神と強い絆。誇りを持った職人の集団が、自らの魂である製品を傷つける様な動機は、この会社のどこにも存在しないということです」
テレビで放映されている会見の様子を
工場内の休憩室で、多くの従業員が見守っている。その中には、児玉と高津もいた。
「自らの魂か…」
児玉が呟いた。
「何があっても、守り続けましょう」
高津が言うと、児玉は立ち上がり、何も言わずに現場へ戻っていった。
会見後、マスコミは一斉に今回の件を「未来製菓」側の過失を否定するニュースを流した。
#未来製菓を守れ
#チョコレートキャラメル
#チョ子ちゃん
辺りが暗くなった頃、福寿と工藤は会議室のある事務棟を出て、敷地内を出入口に向かって歩いていた。
フォークリフトがたくさんの箱をトラックに積載している。箱の横には「チョコレートキャラメル」とある。
「今回は紗知に救われたわ、ありがとうね」
「そう?自分の仕事をしただけよ」
福寿がすまして笑顔を見せた。
「またまた謙遜して。『この会社に犯人はいない』という事を証明するのは、社労士の視点じゃないと出来なかったわ」
「そう言えばあのインフルエンサー、閉鎖に追い込まれたみたいね」
福寿がスマートフォンで確認するも、該当のページが出て来ない。
「自大ホールディングスから用無しになったんでしょうね。利用価値が無くなったと」
「そっかぁ。となると、後は『自大ホールディングス』の指示の有無ね」
福寿が言うと、工藤の目に鋭さが宿った。
「突き止めないとね、必ず」
敷地内にある、創業者大久保太一の銅像が二人を見守っていた。
終




