狙っていた魂【ヴィンジル】
初めてその魂を見たとき、俺の目は奪われた。
一目惚れというやつなのだろう。
眩い光に包まれた、聖なる魂。
欲しい。欲しい。欲しい。
体の奥底から欲が湧き出る。
手を伸ばしても届く距離にはなく、俺はいつも見ているだけ。
人間はいつの時代も勘違いする。
神が作り出したのは人間だけではない。
人間の死後、魂を保管するための地を見張るために天使と悪魔を作り出した。
俺達、悪魔側に落ちてくる魂は薄汚く、要は犯罪者と呼ばれる人間の魂ばかり。
罪を犯すことなく、真っ当な人生を送った清き魂は天使の元に上がる。
聖なる魂は……落ちてはこない。
「嫌だ、欲しい。あれは俺のモノだ!!」
恋焦がれた。魂という生命体に。
毎日毎日、飽きることなく見続けて。
「そうか。穢してしまえば、落ちてくる」
俺はただ、人間の醜い感情をほんの少しだけ増幅させただけ。
人間とは実に面白く愚か。
感情が爆発したら最後、暴走し、自らが正しいと思い込む。
悪魔が人間に干渉してはならないルールは存在しない。
理不尽に殺される命を戻してやっているのだ。人間は俺に感謝し、死後。その魂を渡す義務がある。
様々な形で死んでいく。死んでは時を戻し命を再生する。
だが。不思議なもので人間は、いつしか死を受け入れるようになっていった。
抗うことなく、突き付けられる理不尽に何も感じていない。
「それではダメだ!!お前の魂は俺が貰い受けるのだぞ!!」
どんなに残酷な死を与えても、人間は憎しみを抱くことはない。
俺の心が先に折れかける。
目の前にある欲した魂が手に入らない現状に苛立ちだけが募り、もう一人の女の内側にある感情を最大限まで引き上げた。
ずっと明かされなかった、女から打ち明けられた真実にようやく、死にたくないと強い拒絶を表す。
口元が自然に上がる。嬉しさから笑みが零れたのだ。
戻す時間をほんの少しだけ前にすることで、人間は俺の思惑通りに動いた。
実の親を密告し、嘘をついて四人の命を亡き者とする。
罪人となった魂。俺の元に落ちてくるまで、まだまだ時間はかかる。
そんなことは許さない。今すぐにでも欲しくてたまらないのだ。
「さようなら。わたくしを殺した皆さん」
清々しい笑顔。晴れやかで後悔など微塵もない。
「今日まで実に長かった。だが、これで。お前の魂は俺のものだ」
人間界に上がり、邪魔な肉体から魂を取り出す。
大量の血を吹き出し、支えられなくなった体は倒れた。
人間に悪魔や天使を見ることは出来ず、なぜ死ぬのか。理解が追いつかないまま、また死ぬ。
魂のない体は朽ちていく。
抜け殻となった体に生きるためのエネルギーはない。
腐敗していくだけの入れ物。
やり直しはもうない。
瞼は閉じられる。映る世界は暗闇一色。
「哀れな人間よ。お前が次に生まれ変わることはない」
どうせ聞こえてはいないが、あまりにも哀れだったから事実を伝えてやった。
陽の当たる人間界に長居するのは体に毒。
用事は済ませた。すぐに魔界へと帰還する。
光のない、生温い風の吹くこの地が、俺には合う。
輝かしがった光は黒く染まり、決して触れることの叶わなかった魂は俺の手の中にある。
「愛おしい我が魂よ。未来永劫、朽ちることなく愛してやろう」
人間の真似事をして、深く長く、口付けを落とした。




