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終わらないループが終わるとき  作者: あいみ


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2/3

彼らに断罪を

「ここは……わたくしの部屋?」


 鏡に映る自分の姿を確認して、パーティー会場に行く前なのだと理解した。


 婚約破棄までたった数時間前に戻ったからなんだと言うのか。


「いえ、これは……」


 彼らを断罪する絶好の機会。


 わたくしは会場に向かう前に寄り道をした。


 国の治安を守る警備隊の本所。


 馬車に入った家紋を見ると門兵はすぐに通してくれる。


「サーシャル嬢?どうされましたか」


 警備隊長のルシフォン様が直々に会いに来てくれた。


 今日はイリム様の誕生日パーティーなのに、なぜこんな所にいるのか。

 疑問がそのまま態度に表れている。


「両親の罪を密告しに来ました」

「罪?」


 ルシフォン様の眉がピクリと動く。表情も険しくなり、部屋の空気が揺らいだ。


 地震でも起きたかのように錯覚させられる。


 チクチクと肌を刺す空気の痛みは気にしない。


「具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか」

「もちろんです」


 常日頃から両親が口にしていることを、一言一句違えずに伝える。


 わたくしは王太子妃に選ばれるため、幼少期からずっと努力してきた。

 王妃になることこそが、わたくしの幸せだと教えられてきたから。


 弱音を吐くことなく、ひたすらに頑張って。


 褒められたい気持ちがあったのも事実。


 まだ見ぬ未来に待つ幸せのため、完璧な淑女になり、イリム様の婚約者に選ばれた。


 政略結婚だったため、愛がないことは承知の上。王妃として男児を産み、イリム様を支えるのがわたくしの役目。


 お酒に酔ったお父様はよく言っていた。


 わたくしが王妃になった暁には、イリム様を利用して王権を握ると大それた野望を抱いていたのだ。


 それだけではない。イリム様を見下してバカにして。名ばかりの王子だと嘲笑うばかり。


 侮辱罪に問われてもおかしくはない。


 わたくしの前でしか口にしないこと故に、密告者が誰であるかすぐにわかるだろう。


 ──親不孝者と怒るだろうか?


 でも、先に裏切ったのは向こう。


 繰り返される死に、一度だけでもわたくしを信じ助けようとしてくれたのなら……。


 いつだって両親はわたくしを見捨てた。


 無実を証明することなく、わたくしの死を持って没落だけは免れる。


「公爵家が王家に成り代わるなどとは……!!」


 国家反逆罪の疑いがある両親……二人を捉えるべく、すぐさまルシフォン様は小隊を動かした。


「サーシャル嬢。よくぞ告発してくれました」

「当然です。わたくしはこの国の民。国を揺るがす犯罪者は例え、親であっても見過ごすわけがありません」


 わたくしにはお父様の真偽などわかりはしない。


 その場だけの嘘か、本心かなんて。


 だってわたくしに人の心は読めない。


 だからこそ、こうして反逆の疑いが少しでもあるのなら密告しなくてはならないのだ。


 相手が実の親であろうとも。


 情けをかけたら、取り返しのつかないことになる。何かが起きてからでは遅い。


「それではルシフォン様。わたくしはこれで。調査のほう、よろしくお願い致します」


 わたくしの証言だけで捕まえるのは難しい。証拠となる物さえないのだ。


 それでもいい。火のない所に煙は立たず、二人は死ぬまで噂の的となる。

 後ろ指を指されて生きていくなんて、プライドの高い二人には無理だろう。


 慣れ住んだこの地を捨てて、新しい土地でやり直す気力もない。


 ──どうやって生きていくのか楽しみね。


 次は会場へと向かう。


 王宮の大広間を豪華に飾り付け。煌びやかで権力の象徴とも言える。


 パーティーが始まるまで時間はあり、招待された貴族はまだ集まっていない。


 わたくしはイリム様の婚約者ということもあり、早く着いても怪しまれることはなかった。


 すれ違う人にイリム様がどこにいるかを聞くと、部屋で支度をしていると教えてくれる。


 しかも。時間になっても呼びに来なくていいと、何ともおかしな伝言まで頼まれていた。


 つまりは……そういうこと。


 わたくしに婚約破棄を宣言する前まで、愛しいリュミラール嬢とベットの上で愛し合っていた。


「サーシャル嬢が来ていると、殿下にお伝えしてきましょうか?」

「いいえ。イリム様もお忙しいでしょうし、わたくしのために時間を割いて欲しくないのです。わたくしが到着したことは、秘密にしておいて下さい」

「わかりました」


 さて……。


 このまま部屋に乗り込んだとしても大きなダメージを与えられるとも限らない。


 浮気が公になったところで、わたくしとの婚約が破棄されるだけ。

 愛し合う二人が結ばれるなんて、許せない。


「そういえば……」


 リュミラール嬢が言っていたことを思い出す。


 死ぬ間際だったとは言え、しっかりと記憶に残っている。


 一度、大広間に戻り最終チェックをしていたイリム様の従者に声をかけた。


「お忙しいところすみません。ノスティム様とテンフィー様はもう来ていますか」

「ええ。お二人共、二時間前に到着されていました」


 わたくしに冤罪を着せるために最後の確認をしていたのね。


 ──それにしては早すぎない?


 罪状の確認なんて前日にやっておけばいい。当日にわざわざする必要なんて… …。


 万が一にでも誰かに聞かれたらどうするつもりなのかしら。


 違和感を覚える行動。


 頭の中を「なぜ?」が埋め尽くす。


 考えて、リュミラール嬢の証言と照らし合わせると答えは見つかった。


 ノスティム様とテンフィー様とも、この王宮の敷地内で体を重ねたのね。


 リュミラール嬢は王妃になりたいだけ。イリム様を愛してなどいない。

 それは本人も認めている。


 その本心を、残りの二人に伝えた。


 下級貴族が王妃になれるのは物語の中だけ。現実世界では奇跡が起きない限りは夢のまた夢。


 子供の頃から憧れ夢見ていた王妃になりたい。そのためにイリム様と結婚するだけ。本当に愛しているのは貴方だけ。


 そうやって二人を懐柔し丸め込んだ。


 だからこそ許せる。愛している女性が他の男性と結婚しても。


 なぜなら。リュミラール嬢が真に愛しているのは自分だけだと、信じているから。


 当然のことながら、イリム様は何も知らない。愛する女性が自分以外の男性と関係を持っていることなど。


「それは良かった。実はイリム様からお二人に言伝を預かっていまして。パーティーが始まる三十分前に部屋に来て欲しいと」

「殿下が仰ったのですか?」

「ええ。今日は特別な日。大切な友人である二人にプレゼントがあるからと」

「特別?もしや……。おめでとうございます!サーシャル嬢」

「ありがとうございます」


 盛大に勘違いしてくれて。


 わたくしとイリム様の結婚が決まったと喜んでくれる姿を見るのは、心が痛む。


 従者はすぐさま別室で待機している二人を呼びに行く。


 その後をこっそりつけた。


 従者はしっかりと伝えてくれたようで、二人は浮かれたようにイリム様の部屋へと向かう。


「もう、イリムったら。早くしないと時間になっちゃうよ?」

「リュミラールと過ごす時間以上に、大切なのとがあるわけないだろう?」

「イリムのお・バ・カ・さ・ん♡」


 部屋の外まで聞こえてくる甘く、言い逃れの出来ない会話。


 勢いよく扉を開けると、リュミラール嬢の小さな悲鳴と、イリム様の怒鳴り声が重なる。


 中の様子を伺うべく、そっと覗き込む。


 全身裸で抱き合う男女と、その姿を見て荒れ狂う男性二人。


「どういうことだ!リュミラール!!僕だけを愛しているんじゃなかったのか!?」


 テンフィー様が悲観ぶったように叫ぶ。


「リュミラールは私を愛してるんだ!!そうだろう!!?」


 今度はノスティム様が否定するように。


「何を言っているんだ!!リュミラールは俺の妻となる女性だぞ!なぜお前らを愛する必要がある!!」


 突然、部屋に押し掛けてきた二人に怒りをぶつけた。


「違う!リュミラールは王妃になりたいからイリムと結婚するだけです!現にさっきも僕を世界で一番愛していると!!」


 それぞれがそれぞれの主張ばかりをする。


 頭に血が上った状態でも、リュミラール嬢に関してのみ冷静でいられるようで。


 気付いてしまう。お互いの発言の意味に。


 自分だけを愛していると言ってくれたリュミラール嬢は、他の……この場にいる二人にも全く同じことを言っていたのだと。


 そして……。肉体関係があることさえ。


「どういうことだ、リュミラール?」

「イ、イリム。落ち着いて。あの二人が嘘を言っているのよ!私を信じて?」

「本当だな?もしそれが嘘なら、絶対に許さないぞ」

「も、もちろんよ」

「ふ、ふざけるな!!リュミラール!!私が王族なら、殿下なんかには目もくれず私を選ぶと言っただろう!!」


 剣を抜いた。


 目を見開いて冷静ではいられないノスティム様はまず、近くにいたテンフィー様を斬った。

 傷はかなり深く致命傷。息絶えるのも時間の問題。


「お、おい。待て、ノスティム。落ち着け」


 声をかけて制止を促すも、一歩一歩確実に近づいて行く。


 どうにか対抗しようと枕を投げ付けるも、何の意味もない。


 一国の王子が護衛騎士に恐怖し、素っ裸で逃げまとう姿は滑稽。


「私のリュミラールを奪う奴は、例え殿下であろうと許さない」


 振り下ろした剣は勢いよくイリム様の首をはねた。


 二人分の返り血を浴びたノスティム様はそのまま、ベットから動けないでいるリュミラール嬢を抱きしめる。


 狡猾で賢いリュミラール嬢はその背中に手を回す。


「うぅ、ありがとう。私を助けてくれて。イリムもテンフィーも、私の心にはノスティムしかいないってわかると無理やり襲ってきて」

「そうか」


 冷たい声。


 体を離し、押し倒したリュミラール嬢の胸に剣を突き刺す。


 刺された本人は一瞬、何が起きたのか理解出来ずにいた。


「私のリュミラールが、私以外の男に愛を囁くなどありえない。お前は偽物だ。そうに決まっている。リュミラールを殺して体を乗っ取ったな!!?」

「ノ、ノス、ティ……」

「貴様のような魔女が私の名を呼ぶな!穢らわしい!!」


 何度も何度もその体に剣を突き刺しては、完全に息が止まってからもやめることはない。


 感情が落ち着きを取り戻したのか、ようやく刺すのをやめた。


「あぁ、リュミラール。私の愛しいリュミラール。すぐに行くから」


 最後は躊躇いなく自身の心臓を貫く。


 四人の死は、しっかりとこの目に焼き付いた。


「ありがとう、リュミラール嬢。貴女が教えてくれたのよ。彼らは皆、独占欲が強いと」


 体の関係があったとしても、ここまでの惨劇は生まれない。


 彼らはリュミラール嬢からの愛にこだわっていた。


 好きな人からの愛を独り占めしたかったのよね。


 この未来は簡単に想像がついた。


「そろそろパーティーの時間だわ」


 誰かに見つかる前に会場へと急ぐ。


 イリム様が人払いをしてくれていたおかげで、誰でも出くわすことなく、会場に入ることが出来た。


 いつまで経っても現れないイリム様を不審に思い、従者が数人で呼びに行き、すぐに真っ青になりながら戻ってくる。

 国王陛下夫妻と共に。


 詳しいことは告げられず、誕生日パーティーは延期とだけ伝えられた。


 まぁ、そうよね。


 王太子が婚約者ではない別の女性を部屋に招き入れ、裸で死んでいる。

 しかも宰相の息子と護衛騎士まで。


 事件の詳細を調べるのが先。


 真相なんて見つかるはずもない。


 加えてバリント公爵家に反逆の疑いまで。さぞ、頭が痛くなっているはず。


 大変そうだ、なんて他人事のように思う。


 ──彼らもわたくしと同じように、死をループするのだろうか?


 絶望を味わうのであればやはり、二人が部屋に乱入してきたとき。


 決して逃れられない恐怖と苦しみが襲う。


 仮にそうだとしても、可哀想だとは思わない。


 全ては自業自得。自分達で撒いた種。


 主役のいないパーティーはお開き。慌ただしく貴族達は帰される。


 婚約者であるわたくしは色々と説明を受けなくてはならないため、帰ることが許されない。


 ──まぁ、帰るけど。


 見つからないように人混みに紛れて王宮の外に出ることに成功した。


 空は晴れ晴れとして、わたくしがいかにこれまで、上を見ずに生きてきたのか物語っている。


 王妃になるためだけに生きて、縛られた窮屈な人生。


「もう終わりなのよね」


 なぜわたくしが、ループし死を繰り返していたのかはわからない。

 そしてなぜ、ループが終わったのか。


 真相を知る術はない。


 わたくしを心底嫌っていたリュミラール嬢の強い憎しみが呪いとなり、あんなことを起こしていたのかも。


 だとすると。自らの容姿に絶対的自信を持っていたのね。

 その美貌で三人の男性を虜にして、操っていたのだから、わたくしが思う以上にリュミラール嬢は素敵な淑女だったのかもしれない。


「さようなら。わたくしを殺した皆さん」


 今日この瞬間を持って、わたくしは死んだ。


 これからは私として生きていく。


 手にした自由に、自然と笑みが零れる。


 誰にも縛られることなく、何かを強要されることもない。


 政略結婚ではない、愛のある結婚だって望める。


 青々とした空を仰ぐと、見えない何かが体を貫いた。


「今日まで実に長かった。だが、これで。お前の魂は俺のものだ」


 背筋が凍るような低く、やけに耳に残る声。


 振り向いても誰もいない。


 体が倒れる。ゆっくりと確実に。


 私が今、感じているのは死そのもの。


 大丈夫。またループする。私に死は訪れない。


 そう思いながら段々と意識が遠のいていく。


 瞼が完全に閉じ切ると、視界は暗くなる。


 そして、私はそのまま戻ることなく、正真正銘の死を迎えた。

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― 新着の感想 ―
続くのでしょうか? 作者さまの創る生きる為に頑張る令嬢様が大好きです。 私も頑張ろうと気力貰っています。 ありがとうございます。
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